⑧ー2
「やっぱり、北村さんもそういうのに興味があるんだね」
「おい、お前こんなのを保存しとんのか」
「こういうの、いつ見てるの? もしかして仕事中にも見てたりして」
もう、やっちまったなあってかんじ。弁解の余地なしだね。瀬名さん、どうしてくれるんだよ、おい。
僕の性的なことは誰にも言ったことないのに、触れられたくもないのに。
百歩譲って岩谷さんと瀬名さんに見られたのはいいとして、女性に、しかもよりによって白川さんに見られちゃうとは。
「そうですよ。僕は、たまにそれらの動画を見て自慰行為をしてるんですよ。車の中とか、自分の部屋で」なんて、この場で言える訳ないでしょ!
「でも、俺は嬉しいぞ」
ん?
「俺はお前のことを心配しとったがやぜ。あっちの人じゃないがかってな。お前も、普通の男だったってことだな。よかった、よかった」
そう言って、岩谷さんが僕の肩を叩いている。あのさ、僕のことを勝手に決めつけないでください。
でも、今は何を言っても無駄だよね。笑ってごまかそう。
あーあ、散々な飲み会だったよ。
もうね、今日はトランプも麻雀もしたくない。白川さん、さっきのことで僕のことを軽蔑してないよね? まさか、僕が白川さんと行為をしているところを想像して、あの動画を見てるなんて思わないだろうけど。
女性って、男の人がそういうものを見るのが理解できない人がいるんだって? 浮気も許す人と許さない人がいるって聞くし。そう考えると、僕には恋愛は無理だな。浮気なんてモテる男がするもんだけど、僕には他人のことを考えて動くなんて疲れるだけだよ。
今夜は何も考えずに、おとなしく部屋のこたつでテレビを見て過ごそう。
みんなでテレビを見ていたけど、石黒さんは四人分のお茶を入れてから、別の部屋に行っちゃった。石黒さんも、意外や意外、いい人を見つけようと積極的なんだよね。
瀬名さんは、すでに後ろで寝てる。今日は瀬名さんのおかげで楽しい宴会になったよ。ほんと。別に、怒ってはいないけど。
しばらく、僕は沢田さんと二人で、ボーっとテレビを見ていた。
沢田さんは無口だけど、仕事は真面目だし、優しいもんね。僕よりモテるだろうな。同性の僕も一緒にいて気を遣わなくていい雰囲気があるし。なんだろう、この感じ。
邦楽の歌番組が始まった。あ、これはいいかも。
なんか、見ているとカラオケに行きたくなってくるよ。またいつものメンツで行きたいな。
僕が好きな曲になると、勝手に鼻歌がでて体が動いちゃう。でも、これも嫌いな人の前ではしないと思うよ。
そう考えると、沢田さんも僕の好きな人のメンバーの一人ってことだね。
あ、この曲は僕も持ってる。
「ほら」
僕は、携帯電話に保存してある曲を再生して、沢田さんに見せた。沢田さんがにっこり笑うと、僕もつられて笑顔になっちゃう。
わかった。沢田さんと一緒にいると癒されるのかも。
テレビを見た後、もう日付が変わりそうな時間だったので、僕と沢田さんは二人とも布団をひいて寝たんだ。瀬名さんの隣が僕。その隣が沢田さん。瀬名さんは既に熟睡中。
暗くした部屋の中、僕は寝られなくて布団の中で目を瞑っていると、残りの三人も戻って来て布団をひくと、すぐにいびきをかいて眠り始めた。
他人のいびきって、気になり始めると、全く寝られなくなるよね。あ、そうか、着替えるタイミングがなくてそのまま寝てるから、それもあるのかも。
僕は静かに立ち上がり、廊下の明かりを頼りに服を脱いでハンガーに掛けた。浴衣はリュックサックの傍に置いたんだった。
他人に裸を見られるなんてことは恥ずかしくて苦手だけど、みんな酔って熟睡してるだろうからね。部屋も暗いから、ちょっと大胆になっちゃったりして。
さっきの動画を見て、一回やろうかな。ああ、女性とするのって、どれくらい気持ちいいんだろう。あ、しまった。みんなには僕が未経験ってばれちゃったか。内緒だよ。この歳で童貞って、他の人には言えないから。
温泉って、まだやってるのかなあ。でも、面倒だし、いいか。寝よう。




