⑦
ステーキ屋さんのお肉、美味しかったな。
ここが泊まる旅館か。やっぱりでかいな。なかなか予約が取れない所らしいけど、幹事さんに感謝だね。この、黄金色でガラス張りのエレベーターもすごいな。
「北村さん、こっちの部屋だってさ」
「うん」
この人は石黒さんね。外回り担当チームで気が利く人。利き過ぎると言う人もいるけど。瀬名さんと同じくらい背が高くて、眼鏡を掛けている。僕とは仲はいいかな。
泊まる部屋は和室の作りで、襖を開けると畳のいい香りがしてきた。
部屋のメンバーは、僕を入れて禁煙者六名。瀬名さんと沢田さんも一緒だね。沢田さんも煙草は吸わないのか。見た感じ、吸いそうなイメージはないよね。
女将さんが挨拶をして出て行った。さすが、おもてなしで有名な旅館だ。
「いい景色ですね。」
「うん。」
瀬名さんが障子を開けて、沢田さんと言葉を交わした。眼前に冬の日本海が広がってるね。僕はリュックを置いて、座布団の上に座った。
「そういえば、瀬名さんは海外旅行が好きだったよね。ホテルとかはどうしてるの?」
石黒さんが聞いた。
「海外に行く時は、何も予約せずに全部現地で、ですね」
「えー。そうなんだ」
わあ、そんな怖いこと、僕はしないなあ、絶対。第一、言葉もわかんないんだし。トラブルに巻き込まれたら、命にも関わってくるよ、海外なら。
「怪しい事件に巻き込まれないでくださいよ」
僕が瀬名さんに笑いながら言った。瀬名さんは意に介した素振りも見せず、冷蔵庫を開けて中を確認している。
お、石黒さんが、お茶を入れ始めた。さすが気が利く。喉が渇いていたところなんよ。
「みなさん、お茶入れましたよ」
「ありがとうございます」
「サンキュー」
熱いお茶が丁度いい感じで、美味い。
「落ち着くね」
「この後、どうします?」
「宴会は何時でしたっけ?」
「六時だね」
「四時から入浴できるらしいから、幹事は先に風呂に入ってくれって言ってましたね」
「北村さんは、この後どうするんですか?」
瀬名が僕に聞いてきた。
「俺は七福神巡りに行ってくる」
「何ですか、それ?」
「そういうのがあるんですよ」
岩谷さんにも言ったけど、興味のない人には、全然面白くないだろうな、こんなの。
誰か行きたい人がいれば一緒に行ってもいいけど。でも、元々一人で行く予定だったし。自分のペースで回りたいしね。
その後、僕は一人で旅館を出た。
調べたサイトでは一時間で回れると書いてあったけど、僕は歩くのが遅いし、休憩を入れると二時間見といたほうがいいかなあ。まあ、宴会があるから途中で断念する可能性があるか。
ルート表を見ると、まずは弁財天で次が恵比須さん。その次が大黒天様。恵比須さんと大黒天は外せないよね。
へえ、こんな所にあるんだ。橋からの景色もいいね。
僕は各チェックポイントで休憩しながら回っていたんだけど、四つ目に行く途中で、少し足が疲れちゃった。久しぶりに歩き過ぎたかな。
行きたい二ヵ所には行けたから良しとして、予定を切り上げてお土産屋さんに寄って戻るか。
僕が旅館の部屋に戻ると、丁度みんなが温泉から帰ってきたみたいだ。よかった。鍵が掛かっていたらフロントに行かないと駄目かなと思ってたんだ。
「あ、北村さん。お帰り」
石黒が僕に言った。
「ただいま」
「お風呂入ってきたら?」
「後でいいよ」
ちょっと汗かいたけど、お風呂に入ってくる時間もあまりなさそうだし。
それに、僕は風呂が嫌い。うるさいなあ。不潔って言わないでよ。
僕は小さい頃から恥ずかしがり屋だったし、物心がついてからは自分の体にもそれほど自信はない。前にぶら下がっているものも見られたくない。コンプレックスってやつかな。
ちょっと太ってからその想いが大きくなったのと、腰の手術の痕も実は見られたくはないんだ。前も後ろも隠さなきゃいけないって、大変なんだよね。
だから、温泉旅館に来て温泉に入らないという。ワイルドでしょ? え、もう古いって?
まあ、そういうことなんで。
さて、面倒臭いけど、今から宴会かあ。あ、蟹は楽しみだね。




