⑥
年末年始はテレビ三昧だった。お笑い芸人って、いいなあ。笑わせるのが仕事って、最高じゃないですか? まあ、どこの世界も厳しいだろうけどね。
さて、うちの家は新年に親戚が来て、挨拶してみんなで食事をするんだ。ただ、その席では、僕はあまり飲み過ぎないようにしている。
だって、僕の父親は喧嘩っ早くて、たまに親戚のおじちゃんや僕の弟と喧嘩になる時があるから。そういうのって、家系なのかなあ。血が濃いというか。
僕がそうでもないのは、母親に似たからかな? うん。母親は割りと温厚なんだよね。それとも、卯年生まれは気が優しいとかあるんだろうか。
ほら、今年も喧嘩しそうな雰囲気。
「おい、お前、もう一回言ってみろ」
うわ、始まった。
「おう、何回でも言ってやるわい」
親父とおじさんの兄弟げんかだよ。まったく。
「ちょっと待って。そんな喧嘩腰で話さなくてもいいじゃん」
「何だと。そもそも、お前が早く所帯を持てばな、俺も……」
えー? 俺のせい? というか、俺が早く結婚すれば親父も薄給で働かなくていいとか、そういう話? たしかにこの歳で迷惑かけているとは思うけどさ。薄給って言われたのが癇に障ったんだろうか。
「あんたら、そこらへんでやめときなさい。お父さんも空から見とるよ」
助かった。母親が仲裁に来てくれなかったら、僕も巻き添えになってたよ。もうなってたって? ははは。はあ、結婚ねえ……。
結婚するのかなあ、僕。相手がいればいいけどさ。
僕はこの病気もあるし、相手に迷惑を掛けると思うんだよな。それを理解してくれて、それでも一緒にいてくれる人って。滅多にいないだろうなあ。
自慢じゃないけど、僕は顔もよくないし。我がままだし。当面は無理だな。
病気も、毎月の定期検査に行って今のところは大丈夫だけど、いつかまた再発したら仕事どころじゃないしね。共働きでもいいって人なんだよな。
はあ、新年早々、憂鬱だよ。
「はい、光雄。年賀状」
僕が居間のこたつでテレビを見ていたら、お袋が年賀状を持ってきた。誰だろう、もう三が日も過ぎているから、結構ぎりぎりに出した人だな。なんだ、沢田さんか。
『北村さんのキャラ、好きです』
ん? 僕のキャラが好き? 僕のキャラって? ゲーム好きとか? カラオケを一緒に行ったことかな。それとも、仕事をさぼってること? いやいや、それはないし。
沢田さん、昼休みに部屋に来て話をするようになったけど、ほとんどが僕の自己満足で喋ってるようなもんだしね。そういうところなのかなー? まあ、嫌いって言われるよりはましか。
お正月休みも終わり、会社が始まった。
瀬名さんは、インドのお土産なのか、ガネーシャという象の顔をした神様の不思議な絵を買ってきてくれた。
「何け、これ?」
さっそく、山崎さんが瀬名さんに聞いている。
「インドの神様です」
「そうなが?」
なんでも、商業の神とか、金運の御利益があるらしい。
「北村さんのために買って来たんですよ」
「え、まじで? ほんと、金運上がって欲しいよ」
そこの壁に飾っておこう。
なんか、あっという間だったな。正月気分が抜けきらないうちに、社員旅行だ。
「おはようございます」
添乗員さんが迎えてくれた。
というか、会社に集合なのはいいけど、普段の朝礼の時間よりも早く来なきゃいけないのが辛かった。渋滞してなかったから、よしとするか。
「お、北村、来たな」
「おはようございます」
「おはよう」
岩谷さんが、普段と違いサングラスをして最後尾に陣取ってる。うわー。人相怪しい。なんか、後ろの席に行かないと気まずい雰囲気だなあ。
「お前もここに座れ。ビール飲むか? 冷えとるぞ」
「いえ、まだいいです」
もう飲んでるのね。てか、僕の嫌いな二人がいるし。でも、坂下さんもいてくれてよかった。
話は好きだけど、性格的に合わない人とは口を利きたくもないや。現地に着くまで何時間だっけ?
瀬名さんはどこだろう。まだ来てないのかな。気を遣わなくていいから、沢田さんでもいいかも。でも、席を替わると岩谷さんに何か言われるだろうな。今日は我慢しとくか。
昔から、僕が嫌いな人は、人を見下して傷つけることを言う人とか、僕を縛る人。ん? 縛られるのは好きだよ。僕の携帯に、そういう動画が……って、何を言わせるんだ。おい。
危ない、危ない。僕の性癖なんて誰にも言ったことないのに。えっと、なんの話だっけ?
あ、そうそう。基本的に僕はマイペースで自由にやりたいんだよね。仕事で上司から言われる分にはいいんだけども。
それと、心配して言ってくれるのはいいとして、僕の体や性格をからかう人も嫌いだね。
人が嫌がっているのに気付かない人も多いよね。言われたことがないと、痛みもわからないんだろうな。




