⑤ー2
昨日の分析結果のデータ入力も終わった。南さんから、分析やり直しの指示が来なきゃいいけど……。さてと、今日も仕事の合間に少し休憩して内職しようかな。
うーん。このモンスターを仲間にできたら、ワンランク上の強さのモンスターが作れるんだけどな。
「こら」
ん? 誰かが僕の頭をペシッと叩いた。ありゃ、沢田さんだ。
「何をさぼってるんですか」
振り返れば奴がいたってね。そんなドラマがあったよね。沢田さんにもばれちゃったか。なははは。
「真面目に仕事しないと、駄目ですよ」
真顔で言われちゃった。そして、なぜか僕の服の襟を直してくれたりして。
笑ってごまかす作戦が通用しなかった。沢田さんはやっぱり真面目だなあ。というか、僕が不真面目なだけか。
沢田さんも、西山さんの後を継いで頑張ってるよな。まだ一年も経ってないのに。
昼休み、僕がネットをしていると、沢田さんが来た。
あ、そっか。今日は他の人はみんな外の仕事に出ているんだった。
「沢田さん、この新製品、どうですか?」
「ん? デジカメ? 僕は持ってるしなあ」
「いい写真を取るには、画素数が高いやつにしないと」
「そんなにいい写真を取る場面がないしね。それより、さっきのモンスター表、何のゲーム?」
「ああ、あれは……」
あ、そういえば、今日、沢田さんにさぼってたのを注意されたけど、別に怒ってるわけじゃないのか。よかった。
この会社の人って、僕がさぼっててもあまり注意しないんだよね。良く言えばアットホームだけど、悪く言えば、ルーズだよね。僕もそれを逆手に取っている面があるけど、沢田さんはちゃんと注意してくれた。なんか、今までにない反応で新鮮だな。
その後、沢田さんが僕の病気のことを聞いてきた。他の人がいる時は遠慮して聞かなかったんだろうか? 沢田さんには、この前、僕の健康診断表も見られちゃったしなあ。
心配してくれているのかな? まさかね。でも、僕も少しは健康に気をつけないと駄目かな……。
その時、上司の南がドアを開けて入ってきた。
「ねえ、ちょっとあんた達、外の仕事へ行ってくれる?」
げえっ。
「えー。今からですか?」
「そうよ。今日は人がいなくて。北村さん、沢田さんにもやり方を教えてあげて」
今日は他の男性陣が出払っているし、しょうがないか。
「はーい」
「北村さん、作業着の方がいいですよね?」
沢田さんが僕に聞いた。
「そうですね」
「すいません。ちょっと着替えてくるんで」
「はい」
僕は元々作業着を着ていたし、白衣が好きじゃないからというのもあって、普段から作業着なんだ。そこらへんも、ルーズな会社でしょ?
さて、先に車を準備しておくか。
というか、この作業着も小さくなってきたな。僕が太っただけか? これより上のサイズってあるのかなあ。
ガチャ。ブロロロン。
ありゃ。雨が降り始めたな。あ。来た、来た。
「行きますよ」
「うん」
でかい車は僕も普段は運転しないけど、会社で運転していたら慣れちゃったね。
しかし、久しぶりの外仕事だな。
「もしかして、外は初めてですか?」
「うん」
だよなあ。南さんから教えてって言われたけど、沢田さんにはどこから教えればいいんだろう。まいったな。とりあえず、目的地に着いてから教えるか。
僕は話好きだけど、車の運転中はそれほど喋る方じゃないね。バカ話していて事故ったら、終わりでしょ。
沈黙が気にならない人ならいいんだけどね。その点、沢田さんは元々おとなしい人だし、僕が特に気を使う必要もなさそうだ。
そんなこんなで、なんか今年も早かったな。もう年末だよ。
瀬名さんは今日からインドか。あの人、インド好きだよな。前世がインド人とか? あり得ない話じゃないかも。だって、ターバンを巻いたら現地の人と見分けがつかないよ。
さて、うちのチームはこの部屋の掃除だね。昨日は、瀬名さんがインドに発つ前に掃除していくと言って、エアコン掃除をしてくれたんだよね。偉いなあ、あの人は。
山崎さんはシンク周りをやってるのか。なら、僕は棚の整理と床の汚れでも拭くかな。
うちの会社は、仕事で使用する試薬類も多いから、ついでに在庫量チェックもしとかないとね。
でも、今年は雪が少なくて助かるわ。毎朝除雪していたら、また腰を痛めそう。
む。この汚れ、なかなか取れないな。お寺のお坊さんの気持ちがわかるよ。こんなふうにゴシゴシと床を擦っていたら、無心になれるよね。そう考えてる時点で、無心にはなってないんだけどさ。
ふう、やっと取れた。おや、沢田さんが慌てて窓を拭き始めたぞ。あははは。ガラスクリーナーの泡が下に流れ落ちちゃってるよ。
僕が笑いながらそれを指で差すと、窓ガラス越しに沢田さんも笑ってる。




