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継承  作者: 群青 ひら
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第17章 継承-1④

さらに上、そして……視界が開けた。そこは石碑が建つ、何もない場所だった。


「城がない……」


玲央はあっけにとられた。


「うん……ネットの情報だと、江戸時代に城を移した時に建物が無くなったらしいな」


しょぼん。玲央はうつむいた。


「でもさ……ちょっとこっち来てみ」


音環は手招きした。


「ここから、城下……城を攻める敵を見張ったりしてさ。建物はないが、上杉謙信の家来が見ていた風景が見えるぞ」


玲央は目を輝かせた。そして音環が指さす先を見た。


「さっき玲央たちが登ってきたところ。まごまごしていたから、多分見つかったぞ」


なんてことだ!と玲央は頬に両手をあてた。


「山に囲まれて……雲の上にいるようだろう」


音環が説明していると、ジュースを飲み終えた翔大がやってきた。


「高いところにいる!」


も少し見てていい?と玲央は聞いてきた。音環はうなずくと、玲央は城跡の端から端を歩いては城下を眺めたりした。


翔大は、恐る恐る城下を眺めては音環のもとに戻ったり、を繰り返していたが、やがて玲央と一緒に城下や周りの山を眺めていた。




「ちょっと急ごうかな」


音環は、途中のスーパーでおにぎりや果物などを買うと車を走らせた。


「大阪は避けているから混まないと思うんだが……山陽も中国もたまに通行止めになるから……」


新潟を抜けると、石川まではあっという間だった。


「チューリップの頃、富山に来たいな……」


音環の言葉に、玲央と翔大は聞き返した。チューリップを見に旅行する?


「チューリップ、小学校に咲いているよ!もう散ったけど」


玲央は驚きながら言った。


「いや……とんでもなく広いところに、たくさんのチューリップが咲いているんだ。それこそ、足の踏み場もないくらい。俺……チューリップ好きなんだよね」


そうなんだ。ぜひ見てみたい!……音環さん、チューリップ好きなんだ。


玲央は門亜のほうを向いた。初耳だ。と言うように門亜は頬を膨らませ首を振った。


「僕も行きたい」


翔大の言葉に音環は笑いながら言った。


「ゴールデンウイークの頃に見ごろを迎えるから、来年あたり行こう。混むから……それは我慢な」


山影から、湖のような海が見えた。それも一瞬で、車は二股を左に入り、山に挟まれた道を走り出した。ちらちらと見えていた海がたぷん、と湖のように見えたのを最後に……山に囲まれ、見えなくなった。


太陽が出ているのに、何となく薄暗さを感じた。山は徐々に緑が濃くなり、ふもとから上がる蒸気のようなものが水墨画を思わせた。


少しすると、京都府の看板が出てきた。


「京都に入ったな……」


音環のつぶやきに玲央は驚いたように言った。


「えっ!京都?お寺とか……町が全然ない」


あーそうか……と音環は返した。確かに。京都と言えば、直角に道路が交差する、広い街並みのほうが有名だな。


「うん……。玲央の言う京都は門亜に地図で見せてもらうといいけど、東寄りの……琵琶湖の南にあるよ。ここは兵庫県も少し含めて丹波っていうんだ」


「丹波?」


「うん。京丹波町とか兵庫だけど丹波市とか。城だと丹波亀山城とか」


「あっ!キンカン……」


よく知ってるな……しかも、あだ名だ……。音環が舌を巻いていると、


「細川ガラシャが幽閉される原因になった人」


と謎情報を出してきた。あっているけど……歴史がいびつ。音環は言った。


「ああ、本能寺の変があったからね。あ、兵庫の看板が出て来たからもうすぐだ。姫路城、行きたかったら明日行くから今日は我慢して」


そう言うと、後ろから門亜がぬっと出てきた。


「ボクも多分翔大くんも会話において行かれたと思うんだけど……説明してもらっていい?」


すると、玲央が得意満面に説明を始めた。ただ……自分が読んだ本の順番に説明するので、門亜の頭はもっと混乱をした……。




ホテルに着くと、大河からラインメッセージが届いていた。


チェックインを済ませた後、疲れて眠ってしまった玲央たちをベッドに寝かせると、音環はメッセージを見て声を押さえながら爆笑した。その様子を見て、門亜がなになに?とやってきた。


「いや、琥太郎にボリュームがあっておいしいサンドイッチの話をしたんだよ。で、食べたいと言うから大河にねだれって言ったんだ」


「へえー。そんな店あるんだ」


音環は玲央たちを起こさないよう、声を押さえながらしゃべるのに必死だった。目の端から涙がにじんできた。


「いや、この前話したじゃん。前に門亜が伯父さんと行ったあの喫茶店だよ。そこ、常連しか来ないからマスターが顔を覚えていてね……。


ひと月以内に別の客を連れて再来店すると、おまけがつくんだ。コーヒーを頼んだらコーヒー、ナポリタンだったら1.5倍になるし、サンドイッチだったら……」


門亜は先日音環から聞いた話を思い出していた。そのサンドイッチの大きさに大河が驚いていたのと……量に驚きながらもなんとか完食した話だったな。


「あのケバブサンドみたいなサンドイッチが3切れ?」


「そう」


「で、琥太郎にせがまれて今日行ってきたみたいなんだけどね……」


そう言うと、音環は門亜に大河からのメッセージを見せた。


「カツサンドが出たんだって。琥太郎はぺろりと食べたらしいけど、大河、本当に大変だったみたい。でもさ……カツサンド、持ち帰りできるんだよね……」


再び音環はげらげら笑いだした。そして


「送っておこー」


音環はそう言うと、メッセージを送り返した。


――世紀末覇者と特級呪物の戦いは続きそうである。


読んでくださりありがとうございます。

第17章はこのエピソードで終わりになります。

18章まで旅の話は続くのですが、17章はワクワク感を込めてみました。

ちなみにこの喫茶店は次の作品でも出てきます。大河への罠的存在です。


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