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継承  作者: 群青 ひら
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第17章 継承-1②

「玲央兄ぃ、岡山の空はこんななの?」


玲央はうなずいた。


「青森に来た時、青が濃くて、吸い込まれそうで怖かった……」


僕がいつも見ていたのはこの色、と続けた。翔大は少しだけ、違う世界の話をする玲央が遠く感じた。


「今は翔大がいて、音環さんや門亜さんがいるからいいけどね」


ぷいっと横を向くと、玲央は音環に向かって走って行った。お腹空いたよ、早く食べよう、と言う玲央の声が聞こえて来た。


翔大はえっ、と口を開くとぱっと顔が熱くなった。そして心がくすぐったくなった。心のなかで「今は翔大がいて」の言葉を何度も反芻した。


翔大は玲央を追いかけた。


走ると危ないぞ、と言う音環の声を後ろに玲央と翔大は走り出した。そして、店の入り口に立つと、海の香りがした。


「海でとれたものが売っているんだよ。上でも食べられるんじゃないかな。さあ、行こう」


ぽん、と軽く背中をたたかれた2人は顔を見合わせるとうなずいて階段を上って行った。そして……。


「「海だ!」」


窓の向こうに海が広がっていた。どこまでも……続く、海。でも……。


「たぷん、としてない」


翔大はつぶやいた。それに……。


「引きずりこまれそう」


翔大は足がすくんだ。そこから一歩も進めなくなった。それを見た玲央は翔大の手をつないだ。


「岡山の海もたぷん、としているよ。それに、島がたくさんあって……天気のいい日には向こう側の島が見えたんだ」


玲央が指をさす先を翔大は見た。寄せてはサーっと引いていく海。まるで床に敷き詰めたレースのカーテンが一斉に引いていくようだった。


「俺、青森の内海も、日本海の海もどっちも見たけど……玲央と翔大にとっては日本海の海じゃなくて湖のような海が海なんだな……」


海を見る二人の背中を見ながら、音環は言った。


「でも……青森の海と岡山の海が似ているなんて、面白いな」


音環が傍らの門亜に言うと……門亜は優しく微笑みながらうなずいた。


「さあ、席に着こう。俺、お腹ペコペコだよ」


音環の言葉に、玲央と翔大は笑い出した。僕も、僕も、と言いながら、窓際の席に座った。


「俺、蕎麦食べたかったんだ。玲央と翔大は?」


見ると、2人はメニューを前に考え込んでいた。すると、門亜は


「ボク、お子様ラーメンにしようかな」


と言い出した。ゼリーが付いているし、と続けた。


「門亜……これは、小学生まで。あなたは、海鮮丼を食べなさい」


音環は門亜に言い聞かせるように言った。相変わらず、食事の内容が……なぁ。これは、帰ったら玲央と翔大に協力してもらって、門亜の食育をするようだな、と音環はひそかに決意した。


「ご当地に来たらご当地のものを食べる。門亜。大人になったんだからそうしなさい」


ゼリーは後で買ってあげるから。と音環は続けたが、おまけで貰えるからいいんじゃん、と門亜はぷっと膨れて横を向いた。


玲央と翔大はくすくす笑い出した。




食事を終えると、再び音環は車を走らせた。


相変わらず玲央は前に座っていたが……翔大が後ろから話しかけると、振り向いておしゃべりをするようになった。


車は海岸沿いを走っていた。相変わらず、海は木々の間からチラチラとその姿を見せていた。時折、木々が途切れて目の前に海が広がった。どこまでも海は続いていた。


――次第に太陽が傾き、海の色も青から黄みがかった光が輝く色になってきた。そして、日が海の向こうに沈もうとするころ……突然空は赤く染まって、海は茜色に輝き出した。


きれいだ……茜色の空間の中に雲と海がまるで影絵をするような世界に、翔大は驚きを感じていた。沈む直前、夜が来るのを抵抗するように光を放つ太陽がきれいだ、と思った。好きでも嫌いでもない茜色が翔大は好きになった。


「玲央兄ぃ、空の色がきれいだね」


「うん。まぶしくて、茜色の光の中にいるような感じだね」


リンゴジュース飲みたいね。2人は顔を合わせて小さな声で言うと、ちらり、と門亜を見た。門亜はにっこりとしながら小さな紙パックのリンゴジュースを2人に渡した。


――新潟についたのは夜になってからだった。闇が車の中に入り込むと、玲央も翔大もうつらうつらし始めていた。そしてホテルに着くころには2人ともぐっすりと寝てしまっていた。


「お夕飯、どうする?」


翔大を抱きかかえた門亜が言った。


「うん……お弁当を買って部屋に置いておく?チェックアウトしたら、食事をしにホテルを出るかな、って思ってたから……起きた時、お店が閉まっていたら食べるもの無くなっちゃうよなぁ」


どうしたものか。音環が思案していると、


「チェックインしたらボク、駅ビルに行って何か買ってくるよ。まだ空いていると思うんだ」


門亜が時計を見ながら言った。……そうだな。頼んでおくか。


「申し訳ないけど、頼んでもいいか?……あ、新潟は日本酒がおいしいらしいぞ」


そうなの!門亜の顔はぱっと輝いた。


「俺のはいいから……二日酔いするようになったんだ。門亜、気にしないで買ってきな」


門亜はうなずくと、楽しみだなぁ……とつぶやいた。音環の「飲みすぎるなよ」の声は聞こえないようだった。そして、部屋に入って翔大をベッドに寝かせると、


「じゃ、行ってくるね」


と、駅に向かって駆け出して行った。


音環は静かになった部屋で、簡単にスーツケースから翌日の分の荷物を取り分けると、ベッドで眠る玲央たちの隣に座った。


つついても起きなさそうな深い寝息がアンカーのようで、押し流されるようになる音環の心をつなぎとめていた。


……ちょっと、強行軍だったかな。


先回りして気を配ったことが、ここにきて空回りしてしまったことに音環は後悔を覚えていた。


明日、岡山に着いて、その翌日お墓参りして、ゆっくりと北上して……福井に泊まる。翌日は秋田まで移動して……。最終日、五所川原の翔大のママが眠るお寺に行ってお墓参りだ。


もう少しゆっくり移動して、色々見せてあげたかったんだが……。疲れさせたかな。


音環が2人の寝顔を見ていると、ドアが開いて門亜が帰ってきた。見ると両脇にたくさんの袋を抱えていた。


読んでくださりありがとうございます。

私が生まれ育った関東は太平洋なので、日本海同様押し寄せては引いていく、どこまでも砂浜が広がる海が海だと思っていました。

それなので、祖母に連れて行ってもらった青森の海はたぷん、と音まで違っていて、不思議な気持ちになったのを覚えています。

その時に入った青森の海は、とても穏やかで優しい海でした。

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