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継承  作者: 群青 ひら
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第16章 閑話休題 再会①授業参観

門亜は玲央と翔大からプリントを渡された。――参観日のお知らせ。今回は平日だった。


来てくれるよね……2人の目は期待に満ちていた。


「行くよ。もちろん!」


2人は顔を見合わせると、やった、と小さくガッツポーズをした。


――同じ時間にやる2人の授業を、1人のボクがどう見るのだろう?一瞬門亜は戸惑ったが、音環なら知っているだろう、と夕飯の支度に集中することにした。


今日の夕飯は、煮込みうどんだ。冷たいものばかり食べていないで体を温めなさい。門亜はそっと心の中でつぶやいた。


――お客がいったん引いて落ち着いたころ、門亜は休憩室でうどんを食べる音環に声をかけた。


「1人のボクが2人の授業を見るってどうやればいいの?」


……このごぼうのほろっとしたところがおいしい。音環は2つ目のごぼうを息を吹きかけて冷ましながら答えた。


「よく聞くのは……途中で教室を出て、次の教室に行っている、って話だよ」


音環は支店で、同じくらいの子どもを持つ職員同士の話に耳を立てるようになった。今回は平日か……誰かが抜ける分、俺も後方支援に応援に入らないといけないな。


「何を着ていけばいいの?」


服装か……そこまでは話題に上がっていなかったな。


「ネットとかでよく……何とかコーデ、とか出ているんじゃないか?参観日コーデ、とか。蒸し暑くなってきたし、あまりかっちりすると、体調崩すぞ」


「そうだね……調べてみるね。もし持ってなかったら買おうかな……」


不安そうな顔をする門亜に、音環は言った。


「玲央も翔大も、楽しみにしているみたいだから……。大丈夫だよ。行くだけで子どもたちへのご褒美だ」


音環の言葉に、テレビを見ていた2人は振り向いてニッと笑った。




翔大は、扉を開けて人が入ってくるたび、こそっと後ろを向いた。もう、10回目だ。


今回も違ったかな……しょんぼりと前を向こうとしたとき、続いて入ってくる人影を見た。……門亜さんだ!


門亜の姿を見た瞬間、心が跳ね上がった。そして、嬉しさから気恥ずかしくなり、前を向くと、教科書で赤くなった顔を隠した。


ふふっ……かわいいなぁ。門亜は教室の真ん中くらいにいる、翔大の背中を見て思った。教科書で顔を隠して背中が丸くなっている。


門亜が教室に入ってきた時、ほんの少しだけ教室がざわついた。それもほんの一瞬で、すぐに静けさがやってきた。


先生が説明をする声と黒板にチョークで書き込む音だけが教室に響いた。……大河、今、チョークが折れたぞ。


門亜はうしろをふりむいて、壁に貼られている絵を見た。


「夏にやりたいこと」とタイトルが貼られている下に、虫取り、泳いでいる姿などの絵が並んでいた。ねぶた祭の様子を描いた力作もある。翔大は……今度行く旅行の絵を描いていた。


門亜と音環の間に子どもが2人。どちらかが翔大だろう。背景は雲が少し浮かぶ青空で、4人とも笑っていた。


授業が終わると、翔大はランドセルに教科書を慌てて入れると門亜に駆け寄った。


「懇親会に出るから玲央と一緒に待っててね。一緒に帰ろうね」


翔大は大きくうなづいた。門亜さん!と呼ぶ声に振り向くと、廊下では、玲央が手を振っていた。門亜も笑顔で軽く振り返した。


懇談会では、今後の行事の説明が主だった。プール開き、保護者の見守りなど……。


昨年はやった、はやり病でルールが変わったものがあります、とのことだった。保護者は真剣にメモを取っていた。門亜は配られたプリントの隙間に、きっちりとした文字で書き込んでいた。


「調書みたいですね」


門亜のメモを見た保護者が話しかけてきた。門亜は笑顔で返した。調書って……取り調べを受けたことでもあるのかな?いや、まさか、そんなことはないだろう。門亜は先生の言葉に集中することにした。


懇談会の後、幾人かの父兄とライン交換をしていると、大河が寄ってきた。


「翔大くんのお母さん……この後、ちょっと職員室まで来てもらっていいですか?」


大河の顔は、怒っているような困惑しているような顔だった。


職員室がわからない、と言うと、一緒に行きましょう、ということになった。しょんぼりしながら大河の後をついて行くと、隣の応接室に呼ばれた。


「門亜……なんで呼ばれたかわかっているな?」


席に着くなり、大河は言った。


大体職員室に呼ばれるのは、何かやった時だ。と門亜は思った。でも、何かしたかな……静かにしていたのに。


「門亜、なんで女性の服でくるんだ!別にお父さん方の服装でいいだろう!」


そっち?だって……。


「だって、ネットで参観日コーデって調べたら、この服装が紹介されていて……」


思わぬ回答に大河はため息をついた。


「お前……検索の後に『お父さん』と入れたか?」


あー。そう言えば、入れてなかったなぁ。だって、このライラック色のスカート、きれいだったんだもん。見たとたんにぽちっと押しちゃったし。だからあわてて、ブラウスも買ったんだけど。


「ライラック色のスカートきれいだったし、密林のセールで35%引きだったんだもん。あと1時間で終了だってあったから……」


まるで衝動買いをしたのを見つかったかのように、言い訳をした。そんな門亜を見て大河は右手で頭を押さえながら、軽くため息をついた。


「いい……後で音環に言っておく。翔大の保護者がお前で、お前の保護者が音環なんてまだるっこしい」


そう言うと、大河は自席にスマホを取りに行き、音環にメッセージを送った。


まったく。誰が初めに門亜に女性の服を着せたんだ!怒りを音環にぶつけようとしたところでふと、気が付いた。冬の海でMVを撮る時に門亜にシスター服を着せたのは……俺だ。


しかたないな……とりあえず、学校だけはやめてくれ、と音環に言っておこう。

大河は苦笑した。




「音環……明日、今日学校で知り合ったお母さんたちが来たいっていうんだけど、お招きしていい?」


夜、門亜は休憩室で食事をしている音環に声をかけた。……ママ友みたいのが出来たのかな?音環は少しだけほっとした。


「いいよ。俺も大河に呼ばれているし」


音環がそう言うと、門亜は少しうつむいて言った。


「今日さ……大河に職員室に呼び出されたんだよ……。もしかしたらそのことかもしれない」


「何かやったの?」


「ううん。服装……」


門亜の言葉に、顔を上げると、壁にかかっているライラック色のスカートと白のブラウスが目に入ってきた。何だろう、と思ったが、これを着て行ったんだな。


「このスカート?いい色だよね」


音環の言葉に、門亜はぱっと顔を上げた。笑みがこぼれていた。


「あのね!密林のセールで35%引きだったんだよ。ふんわりしていて、ボク……」


「似合っていたんじゃないか?な?」


な、と玲央たちに声をかけると、2人はそろってうなずいた。


「クラスで一番きれいだったよ」


翔大が言うと、玲央もうん、うんとうなずいた。


「門亜が着たいものを着ればいいよ。続けていればそう言うもんだってみんな受け入れるから。小学校で必要なのは清潔感ある服装、じゃないか?」


ただ……俺に着せるなよ、と心の中で付け足しておいた。


読んでくださりありがとうございます。

第16章 閑話休題 再会です。

この章は5つの小さな章に分かれています。今回は①授業参観 です。

小さな話を集めたので、長さがまちまちになっていて申し訳ありません。

気楽に読んでいただけたらと思います。


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