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継承  作者: 群青 ひら
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第14章 新緑若葉②

「門亜は……中学生が遅い時間に駅前をうろうろするのは好きじゃないだろう」


音環の問いに門亜はうなずいた。


自分が小学校の時に逝ってしまった幼馴染が思い浮かんだ。家の居心地が悪いということで、用もないのに夜遅い時間に駅前をうろうろしていたそうだ。

いわゆるおやじ狩りにあっていた人を助けて、自分が逝ってしまった。


……ボクの大事な幼馴染。


「本当は、家庭に踏み込まないで、時間をかけて間を取り持って、って考えるんだけど、何も持たない中学生が駅前をうろうろするのはなぁ。だから、ごめん。門亜。琥太郎にはまっすぐ門亜の店に行くよう伝えた」


門亜の顔がぱっと明るくなった。


さすが!音環!門亜は軽く頭突きをくらわせた。


「いてっ。何か、食べさせてやってくれないか。俺もなるべく早く帰って、琥太郎の話を聞くようにするよ。それに……大河を少し怒らせるかな」


「怒らせる?」


怒らせる、という時、音環は少し渋い顔をした。


「怒らせる、と言うより本音を出させる、かな。本当は気が進まないけどね……。家のことに口出しされるのを好きな人はいないと思うんだけど、大河はそれ以上だと思う。俺が何言っても聞かないだろうし」


だから……。そう言って再びため息をついた。


「相手があの大河だからなぁ。気が重いよ。面と向かって喧嘩になったら相手は世紀末覇者みたいなもんだからな……ダメージでかいよ」


ふう。せめて玲央と翔大の前で喧嘩にならないようにしないといけないな……しかも、翔大の担任だしな。翔大が怖がって、1年間を台無しにしてしまう。


「でもさぁ。本音を出させるのは、琥太郎くんが大河に言えるように少しでも敷居を低くするためでしょう?」


門亜は音環にいい子、いい子するように頭を抱いた。……ちょっと待て。俺、小学生じゃない。


音環は離れるとふるふる、と乱れた髪を振った。


「まあ、頑張ってみるよ。それでさ、門亜。もう一つ頼みがある」


そう言うと、音環は門亜の耳に口を寄せて、二言、三言伝えた。


「あはは。大河を翻弄させるんだね。面白そう!」


「笑い事じゃないよ……世紀末覇者に仕掛けるんだぜ。まあ、翻弄させるくらいだけどな。短期決戦で行かないと、親子関係がこじれる」


音環の言葉に、門亜は敬礼して言った。


「了解であります!」




翌日。琥太郎は音環との約束通りまっすぐ門亜の店に行った。前日、音環に


「一人で食べるのが嫌だったら、どこにもよらず、門亜の店に行くこと」


念を押すように2回言われ、従うことにした。


休憩室には玲央と翔大がご飯を食べずに待っていた。琥太郎が現れると、いそいそと、箸だのスプーンだのをテーブルに並べだした。


その日の夕食はナポリタンだった。玲央も翔大もちゅるん、と食べては頬をケチャップまみれにしていた。琥太郎が見かねて翔大の頬を拭いたが、玲央の頬を拭こうとした時、玲央は慌てて自分で顔を拭いた。


「もう、4年生だから……」


玲央はぽそっと言った。その言葉に翔大は、あっ!と言う顔をした。2回目に琥太郎が翔大の頬を拭こうとした時、翔大もあわてて自分で顔を拭いた。


かわいいなぁ。琥太郎は玲央と翔大を見て思わず笑みがこぼれた。弟がいたらこんな感じかな。琥太郎はほおを緩ませながらナポリタンをほおばった。


「「「ごちそうさまでした!」」」


玲央たちの後をついて流しに食器を持っていく時、門亜のラインの通知音がした。琥太郎はドキリ、としたが、音環からだった。


「音環、仕事が長引いて遅くなるって。琥太郎くん、待ってられる?」


「はい。宿題して待ってます」


鞄を持ってまっすぐ来て正解だ、琥太郎は思った。そして、テーブルに教科書とノートを広げると、教科書の問いを解き出した。


文字が小さく、漢字の多い中学校の教科書を見た玲央は目を丸くした。


言葉遣いが何となくとげとげしている!それに絵が少ない!絵が描いてあっても余計な線が引っ張ってあって何かの扉を開ける呪文にしか見えない!


玲央も、翔大も、鉛筆をすらすら滑らして解いていく琥太郎に、目を丸くしながら感嘆していた。


――門亜は音環からラインをもらったあと、音環に大河に連絡をするよう返事をした。どちらか分からない、と文句を言った翌日だ。連絡をした方に琥太郎くんがいると思うだろう。


しばらくして、大河から「お前のところか?」と言うメッセージが来た。……お店が混んでいたと言ってしらばっくれよう。門亜は無視をした。


もう少しで21時になろうとする頃、大河が慌ててやってきた。勝手口を開けると……少しいら立っているようだった。


「音環から連絡が来たから家に行ったんだが……。こっちにいるか?」


怒りを抑えたような声だった。その時、


「あっ大河先生だ」


翔大がひょっこり顔を出した。


「ホントだ。大河先生だ」


玲央も顔を出した。途端に、大河は先生の顔になった。


「琥太郎……こっちにいるかな?」


2人は首をかしげた。そして


「「お兄ちゃんならいるよ」」


と答えた。……紹介していないのか。大河は複雑な気持ちになった。


そして、帰るぞ、と琥太郎を促すと


「今度から、来たら家に帰るよう促してくれ。頼む」


と門亜に言った。門亜はうなだれて帰る琥太郎に向かって言った。


「琥太郎くん、またね!」


大河の肩がピクリ、と動いたようだった。




「なんかさー。大河、完全に冷静になって、ボクのお店に来ているかいないか確認して音環のところに行くようになっちゃったよ。……つまらない」


仕事から帰ってきた門亜が言った。


いやいや、世紀末覇者を相手に遊ばないでください。音環は思った。玲央と翔大がいるから大河も抑えているが、かなりボルテージが上がっている。それに……。


「大河がさ……『お前の家の子どもじゃない』ってさ。ちょっと方向間違ったかな……」


琥太郎を連れて帰る間際大河に言われた言葉を思い出し、しゅん、と音環は肩を落とした

。

「大河さ、琥太郎にも『行かないように』『協力してくれないと、家が立ち行かない』とくどくど言っているみたいなんだよね。


そういう意味じゃないのにな。子どもには学童があるのに何で中学生には学童がないのかな……。それだけのことなのにな……」


ふぅ。音環は軽くため息をついた。


その時。ごそごそ、と翔大が足で音環を探した。くるん。なかなか見つからず、真横に回転した。玲央に足が当たったところで回転が止まった。


癒されるなぁ、と、その姿を見ながら音環は続けた。


「寂しいって、衝動の強力な起爆剤だよな……。琥太郎が言えればいいんだけど、世紀末覇者相手じゃな……。それでなくてもステップアップファミリーってそこが難しいのかな……」


玲央も、翔大も言ってくれよ……俺、聞くようにするからな……。音環は足で探し続ける玲央と翔大を見て、願うようにつぶやいた。


門亜は音環に寄りかかりながら、言葉を聞いていた。そして、ゆっくり体を起こすと音環の顔を見つめて言った。


「ねえ、音環、ボクに1曲弾いてくれない?」


うん?音環は怪訝な顔をして傍らのギターを持ち上げた。


「何の曲がいい?」


「ん?EuropeのThe Final Countdown。アルペジオでね」


門亜はいたずらっぽく笑った。その顔を見た音環は、苦笑した。そして、一つ一つ弦をはじいては音を灯りに溶かし込んでいった。


第14章②です。

音環が門亜に耳打ちをしたのは「状況を見ながら、琥太郎がいる場所と逆の所や同じ場所から『来てるよ』と連絡をする」という内容でした。

大河も数回やられて音環たちに仕掛けられていることに気が付いたようです。

読んでくださりありがとうございます。

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