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継承  作者: 群青 ひら
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第12章 閑話休題 伯父への依頼③

「そう言えば、翔大君……か?彼の相続はどうしたんだ?」


ふいに伯父は聞いた。俺に聞くなら、きっと翔大君の方もきちんとしたんだろう。そんな興味からだった。


「ん-。音環がね、対応してくれたよ。マスターの助言もあって、音環、翔大くんママが亡くなった後、翔大くんを家に入れさせなかったんだ。


スマホも、データをコピーして亡くなった日に鍵と一緒にドアポストに入れたよ。そしてね、弁護士に依頼をして、法定代理人を立てて相続放棄をしたんだ」


なんと!伯父は驚いた。子どもから、母親とのやり取りが残っているスマホを手放させるなんて相当厄介な作業だったろう。


仮に取り上げて強引にやったとしても、だ。それに、もしそんなことをしたなら、さっきのように信頼して全力で体を預けるなんて……ない。


それに……弁護士に依頼をしたということは、相当な費用が掛かったはずだ。あの呪物は、翔大君の人生を守り、心を守り、玲央との4人の家族を作って守ったのか。


――もう、特級呪物だな。あれの守るものに手を出したら、手を出したことを後悔するぐらい、徹底的につぶされるだろう。伯父は音環の底の見えなさに心がシン、となった。


それでも、近況が聞けて良かった。


伯父が店を出ようと立ち上がった時、店内にいた客が支払いを済ませて出て行った。店内は門亜と伯父だけとなった。


……もう少しいようか。どうせまた、しばらくは来れない。伯父は浮かした腰をまた下ろした。


「そう言えば、さっき奥に子どもたちがいたようだったが……門亜が迎えに行っているのか?」


伯父はカウンターの食器を下げに来た門亜に声をかけた。


「うん。翔大くんもこっちの小学校になったから、ボクが迎えに行ってるよ。音環は今、決算時期だから遅いけど、4月になったらもう少し早く迎えに来れると思うんだ。でも、もう、お夕飯はボクの担当」


迎えと夕飯の担当は渡さないぞ、と言う顔で門亜は言った。


玲央を引き取った当初は目玉焼きを炭にしていた門亜が……成長したものだ。


伯父は食べ終わった後の皿を見て感心した。これを毎日あいつらは食べているのか。うらやましいぞ。


「伯父さん、お茶」


門亜は伯父にお茶を出すと、食器を下げて流しに向かって行った。


水が流れる音。食器が軽くぶつかる音。キュッと蛇口を閉める音が伯父の記憶の底に置いてきた感情を呼び起こしていた。……なんだか、最近は涙もろくなったな。


やはり、帰ろう、と腰を浮かした時、門亜が話しかけてきた。


「そう言えば伯父さん、宮城に行っていたって何だったの?」


ああ……なんて間の悪い。会話の返しの時だったら「ちょっと所用で」で済ませるつもりでいたのに……。ふう。まあ、いいか。あいつらの話だ。


「弘前の時に世話になった……あいつら、覚えているか?」


門亜はうーん、と思い出すしぐさをしていたが、次の瞬間、あっ、と言う顔をした。


「今はもう、無事に終わって片づけの段階にいるんだが……まあ、ちょっと前まで大詰めを迎えていて、応援で一緒にいたんだ」


「仕事で?宮城にいたの?」


あの人たち……門亜の脳裏には、和装姿の男性キャストの姿が浮かんできた。そして、『来月。お店を閉めたらもう忘れるんだよ。来ないんだよ』と念を押す彼の声が聞こえたような気がした。


「ああ。こっちだけでやっていたら、いずれ顔が割れる。だから、他の県で舞台を作ってもらうこともやっている」


「みなさん……元気?」


門亜はそっと言った。


「ああ。大詰めの時は『僕が魚のえさになったら、ちゃんと探しに来てよ』なんて弱っていたがな……すまん。ここで話す内容ではなかったな」


伯父はぬるくなっていたお茶をすすった。


「ボクが伯父さんのところにいた時もこういった仕事していたの?」


相変わらず門亜は鋭いな。伯父は言葉に詰まった。


「滅多になかったがな。まあ、警察をやめる時の代償だ。俺じゃないとあいつらが依頼を受けないし、依頼を受けないとあいつらが守られなくなるし」


まるで家族みたいだ。ふと門亜は思った。そして、伯父の2つ目の家族の絆の深さを感じていた。


魚のえさにならないようにするのではなく、魚のえさになったとしても探しに来てほしい。男性キャストの気持ちに触れて、涙が出そうになった。


「まあ、犬猫の捜査と浮気の調査が一番稼ぎがよかったんだ。門亜が適役だったしな。俺がやると事件捜査になってしまう」


犬猫を追う捜査課の刑事。そのビジュアルを想像して門亜はぷっと吹いた。


「長くいてしまったな。門亜、調査が終わったら連絡をする」


そう言うと「お会計」と伯父は言った。


「今日は、ボクが呼び出したんだからいいよ。伯父さん、また来てね」


甥にごちそうになってしまった……そんな気恥ずかしさを隠しながら、また来る、と言って伯父は出て行った。


第12章③です。この章はこのエピソードで終わりになります。

邂逅で出会った人たちが伯父の口から語られる章でした。

桜花から玲央を託された時、消化されていなかった時間を清算するようやって来たのかもしれません。

11章で予告した、この章で願望を持つ人は「伯父」でした。

次の章で伯父の願望に触れていきます。

読んでくださりありがとうございます。


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