第12章 閑話休題 伯父への依頼②
門亜はふいに、あ、そうだ!と慌てて伯父に伝えた。
「あとね。音環が玲央の相続の状況を教えてほしいって。こっちも一緒にお願いしていい?もちろん、その分の依頼料も払うから」
門亜の言葉を聞いたその瞬間。伯父の顔はこわばった。結果から言えばきれいな状態だ。ただ、理由を言わないといけないとなると……また、この顔を曇らすことになるのか。
――いや、いずれ知ることだろう。
「玲央は……結論から言えばきれいな状態だ」
お茶をもらえるか?伯父は言った。
「玲央の……最初の母親が亡くなった時、借金があったようだ。大した金額ではなかったが、質の悪いところから借りたらしい。
利息が利息を生んで、それなりの金額になっていた。それと……母親の形見だ、と時計を玲央に渡したそうだ」
門亜は伯父の言葉に、あっ、という顔をした。音環が『持ち出してはいけない』と言ったやつだ。
「結果、玲央に相続放棄が認められなくなって、借金を玲央が相続することになった。これはやつらの筋書き通りだ。そのあと、桜花のところに行ったのだろう。
自己破産をするのに法定代理人が必要だが、桜花はそれになれなかった。そこに付け込んだ。
数十万単位の自己破産のための費用を肩代わりするか、出来ないなら玲央を児相に引き渡して行政側で破産手続きをしてもらうことになる。とな」
伯父はちら、と門亜を見た。門亜は伯父の言葉を一つも漏らさないよう、聞いていた。
その時、伯父の席と反対側のカウンターから、ビールの追加を頼む客の声がした。門亜は伯父にちょっと待っててほしい、と言うと、店の奥から冷えたビールを持ってお客のところに行った。
ごめんなさいね、とビールを注ぎながらお客に言う門亜の声が聞こえた。お客のほうも慣れているのか、いいよ、気にしないで。と門亜に返していた。
ごめんなさい、と門亜が帰ってきた。強くなったものだ。この後の話は想像できるだろうに。それでも、ソツなく客の対応までする。門亜を囲む家族が門亜をここまで強くしたのだろうな。そして、伯父は続けた。
「結果として、桜花は玲央が引き継いだ借金を返済する道を選んだ。昼間の仕事の後に、スーパーの仕事を入れてな。
おそらく、夜に働いた分を返済にまわせば数年で返せる、と言ったんじゃないか?」
そう言うと、伯父はお茶をすすった。程よく冷めて飲みやすくなっていた。
「昼と夜と働いて体を壊したのだろう。はやり病であっという間に亡くなった。……これは話したな?」
門亜は黙ってうなずいた。
「桜花のところに行ったら、玲央がいてびっくりしたんだ。報告を受けてなかったからな。とはいえ、桜花に関わった人間だ。こちらで引き受けなくてはならない。
それで、親族関係から何から調べたんだ。その時に相続した借金のことが出てきた。
……桜花はかなり支払っていて、元金分は終わっていたから、借入先を呼び出して「利息制限法」をちらつかせたんだ。文字通り命を削って玲央の借金を返した桜花の行動を無駄にして、玲央からまだとろうとするのか?とな」
門亜は黙って聞いていた。表情からは門亜の感情を窺い知ることはできなかったが……黙って聞いててくれるなら、それは桜花への供養になる。伯父は続けた。
「その後はお前も知っている通りだ。借金は、おそらくそこの業者が安値でほかの金融機関の債権を買いたたいたんだろ。そこだけだった。
だから、書類持ってこさせて完済になった」
伯父は少し冷めたお茶をそっと飲んだ。
「あとは、玲央の本当の父親だ。書類で追っかけたが、出てこなかった。
大体そう言うのは子どもに迷惑をかけるから特別養子縁組で新しく戸籍を作って門亜、お前の子どもにしたろ」
幸せに水を差したか……。いや、こいつらは分かっていて家族になる道を選んだんだから、大丈夫だろう。時間をかけて、自分の中に落とし込んでいくはずだ。
ふと、伯父の脳裏に、眠った翔大を抱え、玲央の手をつないで勝手口から出ていく音環の姿が浮かんでいた。
第12章②です。
桜花……かりんの、玲央への思いを書きました。
実は、玲央が自分に借金があったことを知るのは次の作品『綾織』でのことになります。
今、この時点では玲央は知りません。
返済のために大変な思いをしながらも、桜花は玲央にそれを感じさせなかったのでしょうね。
読んでくださりありがとうございます。




