第12章 閑話休題 伯父への依頼①
「俺が宮城に行っている時に、そんなことになっていたのか」
伯父は門亜の店を訪ねると、開口一番言った。
「これがねー。写真」
そう言うと、スタジオで撮った家族写真を見せた。中央の椅子に、淡い紫色のドレスを着た門亜座ってた。そして、青いスーツを着た音環が隣に立ち、2人の前には玲央と翔大がそれぞれオレンジと黄色のキッズスーツを着て立っていた。
――門亜のドレスは予想がついたが、子どもたちの色味が派手だ。情報が多すぎる。伯父は思った。
門亜は伯父の表情をみて、続けた。
「ブーケはね。音環が買ってきてくれたんだ。スタジオでドレスはあってもブーケはないから。でね。アジサイ。冬なのに頼んでくれたんだー!花言葉はね。家族になろうよ!だって!」
門亜は写真を抱えると、くるくると回った。
こういうのを天にも昇るような気持ち、と言うのだろう。門亜の様子を見て伯父は思った。
「それにしても……色が派手じゃないか?」
恐る恐る、言葉を選んで伯父は聞いた。すると、
「えー。ボクたちのバンドのメンカラだよ。赤は……今いないけど」
と、門亜から答えが返ってきた。
バンド、と言う言葉を聞いた伯父は、ドレス姿の門亜の写真を見て心がぎゅっと掴まれたような気になった。一瞬、潜入捜査をしていた時の門亜の姿と重なった。
そう言えば、本人役に偽装させたんだったな……。少しずつ、壊れていく門亜に手を差し伸べることが出来ず、捜査も、門亜の崩壊も無事に済んでほしいと祈るだけだった記憶がよみがえってきた。
目の前の門亜からはそんな過去は微塵も見えなかった。そして、隣で恥ずかしそうに立っている音環の姿を見て、伯父は納得した。
捜査の時もそして今も……あの呪物が門亜を守っているんだな。
「呪物は本懐を遂げたんだな……」
つい、言葉が口から出た。それにしても、俺は何でここにきたんだっけ?
伯父が我に返ると、店の引き戸が開いた。
「はいはーい。呪物が通りますよー」
音環はわざわざ伯父の後ろを通ると、カウンターの小さな扉を開けて、店の奥へと入って行った。
げっ。聞かれていた。まだ3月だと言うのに……伯父の額からは冷や汗が流れた。
「門亜、玲央と翔大を連れて帰るよ。あと俺の夕飯……いつもありがとうな」
音環はそう言うと、眠っている翔大を抱き上げ、玲央の手をつないで勝手口から出て行った。戸口で伯父に気づいた玲央が振り向いて、バイバイ、と軽く手を振った。
「……かわいいな。あの小さな2人目の子、何となく門亜に似ているな」
「えー。そうなの?」
門亜は、焼き上がった魚を伯父の前に置いた。皮にうっすら脂がのるサバだった。少し焦げ目がついて、匂いが胃袋を刺激した。
「うまそうだな。ああ、お前が小さいころ、何度も抱っこしたもんだ。全力で体を預けてすやすや眠るところとか、寝方までそっくりだ」
伯父がそう言うと、門亜は顔を真っ赤にしてご飯や漬物を、どん、どん、と置いた。
「もう!しっかり食べて行ってよね!伯父さんちいつ行っても誰もいないんだから。ちゃんと食べてる?」
そして味噌汁をそっと出した。
「それで……俺を呼び出したのは、何の用だ?」
そう言うと伯父は味噌汁に口を付けた。味噌の香りが鼻腔を通り、体を包み込んだ。……旨い。きちんと食事を取ったのはいつぶりだろう。
気が付くと、皿の上の魚も、ご飯も、すでに胃の中に納まっていた。
「うん……。あのね」
門亜は伯父がおおよそ食べ終わったのを見て、少し声を落とした。
「玲央くんとね、翔大くんのお母さんのお墓の場所を調べてほしいんだ」
味噌汁を飲んでいた伯父の顔は、一瞬にして仕事の顔になった。
「……ああ、分かった。」
「音環がね。7月に有給取ってみんなで行きたいんだって。もちろんボクもその時はお店休もうと思うんだ。……これって、家族旅行だよね?」
不謹慎だけどさ、と言いながらも恥ずかしそうな顔で言った。
「ああ。まあ、何が起きるかわからないが、避けられないことだろう。何かあっても2人で支えてやれ。……よし、仕事もひと段落ついたことだし優先して調べてくるか。……出張になるから、早めに半額振り込んでおいてくれ」
門亜は、はにかむような笑顔でうなずいた。
幸せそうで何よりだ。伯父は肩の荷が下りたような気がした。
読んでくださりありがとうございます。
第12章 閑話休題 伯父への依頼です。
この章は3つに分かれます。
門亜の伯父は過去に何回か音環のことを『呪物』と呼んでいましたが、今日はしっかり聞かれてしまいました。
音環が意地悪く「呪物が通りますよ」と言うあたり、ずっと前から呼ばれていたことを知っていたのでしょうね。




