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継承  作者: 群青 ひら
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第7章 冬のはじまり④

「うちの庭にもかまくら作ろうって、門亜と話をしているんだけど……どう?玲央も手伝う?」


音環の言葉に玲央はふい、っと音環の方を向くと、目をキラキラさせてうなずいた。


「週末に作ろうと思っているんだ。門亜が準備をしてくれてる。雪、もっと降るといいな。3人で入れる大きなの、作ろうな」


玲央は大きくうなずいた。


――土曜日になった。


「音環、この棒持ってここに立ってて」


門亜はそう言うと、まるでコンパスで円を描くように雪の上に円を描いた。そして中心から1本、円に向かって直線をひくと、もう1本少し離れた場所にも直線を引いた。


「こんなもんかなぁ。内側の雪、ちょっとバケツに入れちゃお。玲央くん、ボクが『いいよ』って言ったらこの霧吹きで表面をシュシュってやってね」


……何かがおかしい。音環は足元に並ぶバケツに不穏なものを感じた。


居室部分の雪をバケツに入れるのは分かる。ただ、バケツの数が5個もあるのはなぜだ?そして、霧吹きをふきかける、とは?


一方、玲央は門亜に言われて楽しそうに霧吹きで吹きかけていた。バケツを持ってきてほしい、と言われ、玲央は音環の足元にあるバケツを持って行った。


頬を上気させている玲央を見て、音環は何も言えなくなってしまった。


「音環、玲央くんが作ったバケツのブロック、ひっくり返してこの線に沿って並べてね。外側に並べるんだよ。」


そう言うと、門亜はバケツごと音環に渡した。うえぇ。重い。水を含んでいるからなお重い。それでも音環はバケツをひっくり返しては線の上にブロックを並べていった。


「さあ!もっとブロックを作るよ!玲央くん、このバケツにこのあたりの雪を詰め込んで、半分くらいになったらさっきみたいに霧吹きでシュシュってやってね。そしたらその上にまた雪を入れてね」


門亜は鼻歌を歌いながら、バケツを持って庭の奥の雪を詰めに行った。音環の耳に自作の『草大福には野菜が入っている』が聞こえて来た。


機嫌のいい時の歌だ。ノリノリだな。音環が門亜の背中を見ていると、しばらくして戻ってきた。そして、満タンになったバケツを音環の足元に置いて行った。


……かまくらと言うより、イグルーか。俺、体持つかな。


それでも音環は、玲央の足元やそこらに並び出したバケツを、持って行ってはひっくり返して線の上に並べていった。


ちょうど一列目が並び終わった時。


「こんな感じでいいのか?」


図面を見ていた門亜に声をかけた。門亜は並んだブロックの数を数えると


「2つ足りない……おかしい……」


とつぶやいた。バケツの寸法は計算した。そこから円の外側に配置すれば……計算上は個数が合わないといけないはず。


ぶつぶつと門亜はつぶやいていたが、ふと気になりブロックに近づいて行った。そして、ブロックを少し傾けると


「あっ!」


顔を音環に向けた。


「線の外に並べてって言ったじゃん。並べなおして」


えー。重いし、腰が痛いし、出来ればこのまま進めたいんですが……。というよりなんだよその図面。


「ちょっと小さくなるだけだろ。腰痛いから勘弁してよ」


音環の言葉に門亜は図面を見せながら早口でまくしたてた。


「ダメだよ。天井が崩れちゃう。キーになるブロックを入れなくちゃいけないんだから、個数は守ってくれないと!」


その時、不安そうに音環を見る玲央と目が合った。ああ……分かったよ。やりなおすから。音環はがっくりと力を落とした。


「分かったよ。並べなおすから門亜も手伝って」


音環は大きく腕を上に向けて伸ばすと、体をほぐしながらブロックに向かって行った。


「そういえば、その図面、何?」


音環は隣でブロックをずらしている門亜に言った。ふと、イーゼルで図面を引いている映画のワンシーンが思い浮かんだ。


門亜は、その瞬間笑顔になり、そして「よくぞ聞いてくれました」というような顔になった。


「丈夫なかまくらの図面を引いたんだ!」


見て見て!と言うように、音環に図面を見せた。さっきは門亜の勢いに押されて図面に目がいかなかったが……よく見ると、壁厚や傾斜まで細かく書かれている。


玲央も合流して、ほんの少しの間、休憩となった。


「かなり本格的だけど……門亜って、そんな特技、あったっけ?」


高校は同じだったから……大学か?などと音環が考えていると、


「ボク、大学は建築だったじゃん」


門亜は言った。


――えっ?知らないですけど。大学は別だったから……あっ!工業大学に行ったと大河が言っていた!


今まで大河と一緒の大学だと思っていた。


音環は背筋が冷たくなった。そして、話題を変えるように言った。


「それじゃ、この前仕事探す時、建築士とかそっち方面探せばよかったんじゃないか?」


音環は言った。すると、門亜の顔からは、さっきまでの笑顔が消えていた。


「受験資格はあったんだけど取ってなかったんだよね……OB訪問で、接客があるって聞いてボクには無理だって思ってさ」


雲行きが怪しくなってきた……。音環はブロック並べに戻りたくなってきた。


読んでくださりありがとうございます。

かまくら『建築』編です。

この話を書いているときに青森県内の大学を調べたのですが、建築士の受験資格が取れる大学があると知りました。

一口に大学、と言っても、いろんな特徴があるんだなと知った次第です。

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