第6章 冬支度④
音環はさりげなく味噌汁を飲んだ。玲央は味噌汁に口を付けたが、一口飲んだところで戸惑いながら汁椀をテーブルに戻した。
「大丈夫だ。無理して飲まなくていい。ご飯をたくさん食べたんだから、それだけで合格だ」
そう言うと、音環は鮭を一口大にほぐしてご飯の上に乗せた。そして口に運んで噛むと、今日のは上手く焼けたな、と満足した。
「ごちそうさま。先に食器洗っちゃうね」
と言った門亜の目は眠そうだった。
「門亜さ、もし今日の買い物よかったら俺が運転するか?ついでに『ライクアバード』に行って買いたいものがあるんだ」
音環の言葉に門亜は「うーん」と口元に手を当てて考えた。玲央くんはどうかな……。
「行くのは島ビレッジ?それともMカルティ?もし、玲央が疲れそうだったらライクアバードは後日にして俺、送迎だけでもいいよ」
その時、門亜はピタリ、と思考が止まった。玲央?あれ?いつの間に?
門亜は玲央の顔を見た。玲央は音環の言葉を気にも留めずに味噌汁をどうしようか考えているようだった。
「音環、いつの間に玲央くんを呼び捨てに?」
門亜は静かに聞いた。
「ん?この前男同士の約束をしたときかな?な、玲央」
音環が玲央に声をかけると玲央は目線を音環に向けて、うん、とうなずいた。
「男の約束?」
「そ。これから門亜の帰りが遅くなるけど、心配しないで一緒に待ってような、って約束」
さらり、と言う音環の言葉に門亜は「ぐいぐい行くなぁ」と感心した。そうだ。音環はいつもそうだ。小学校の時だって、XYZ会のテキストをやっていたボクにぐいぐい来たんだっけ。
うらやましぞ!
「買い物、玲央くんがいいならいいよ。玲央くんは……どう?」
そう、門亜が聞くと玲央は門亜を見てうなずいた。門亜は何となく置いてけぼりになったような気がした。
「じゃ、音環お願いね。玲央くんの味噌汁、僕が飲んじゃおう!玲央くん、歯を磨いて準備しておいで」
そう言うと門亜は玲央の汁椀を持って立ったままぐいぐい、と飲んだ。
――音環に来てもらってよかった。門亜は思った。
子供服とはいえ、防寒着とオーバーパンツ、洗い替えもそろえるとそれだけで袋にパンパンになる。玲央の場合は最初から揃えるから……。
門亜は隣でカートを押す音環を見て、まさかこんなに大荷物になるとは思わなかった、と思った。
そして、音環はカートの下に毛布を4枚ほど入れていたのが気になった。ボクたちの?なら出すよ、と門亜は言ったが、違うよ、と音環は言った。
あれ?音環ってそんなに寒がりだったっけ?
「あとはスノトレだな」
音環は言うと、エレベーターに向かった。門亜は慌てて自分のカートを押すと、傍らの玲央をそっと見た。
「スキーに行くの?」
玲央はそっと門亜に言った。
「ううん。青森の冬はこれが当たり前なんだ」
門亜はそう答えると、玲央は不思議そうな顔をした。
――買ったものを荷室に詰めると音環は「お昼どうする?」と門亜と玲央に聞いた。
時計を見ると13時を越えていた。
門亜は夢中になって気が付かなかった、と慌てて玲央を見た。
玲央は不思議そうな顔をして門亜を見た。……もしかして、朝のご飯2杯が効いている?
「玲央くん、お昼ご飯、どう?お腹空かない?」
玲央は首を横に振った。それを見た音環は門亜に言った。
「俺はお腹空いてきたかな。門亜は?」
「ボクはどっちでもいいかな……」
音環は失敗した、と思った。門亜が食事に興味を持つことはあまりない。
「じゃさ、ちょっとリッチなイタリアンに行かないか?」
音環の言葉に門亜は焦った。ねえねえ!玲央くんのためにそんなに力入れないでよ!
門亜の抗議するような目線に気が付いた音環は、ニヤリ、といたずらがばれた時のような顔をした。
「祭瀬だよ。内装が高級感あふれるだろ。間違い探し、新しくなったらしいぞ」
間違い探し、の言葉に玲央は音環をじっと見た。よし!かかった!
「音環、ライクアバードの用事は結構かかる?」
門亜はぷぅ、と膨れながら音環に聞いた。
「いや?毛布は買ったから、ソファーを見たいかな。目ぼしいものは見つけてあるから、後は座り心地とかの確認。古い家具の有料引き取りも頼むからオンラインでやっちゃう」
仕事が早いなぁ……。追いつかないや。
「じゃさ、先にライクアバードに行ってそれから『ちょっとお高級なイタリアン』に行かない?のんびりしたいや。ボク」
門亜は『ちょっとお高級』なところだけ声を高くして強調すると、再び膨れて横を見た。音環は門亜の様子を見て軽く笑った。
「じゃ、行くか」
音環はエンジンをかけると、ゆっくりとMカルティを出た。そして、少し走らせると、ライクアバードの駐車場に車を滑り込ませた。
「疲れちゃったから、車で待っててもいい?」
何となくうつらうつらとし出した玲央を見て門亜は言った。すると音環は鍵を渡して
「もし暑かったり寒かったりしたらエンジンかけて。そんな時間かからないと思うから」
そう言うと、自動扉に走って行った。
門亜はライトグリーンの看板を見ながら
「ボクや玲央のためにお金をかけないでくれるといいんだけど」
と思った。
第6章はこのエピソードで終わりになります。
相変わらず門亜のカンは鋭いなと思いながら書いていました。
他人同士が一緒に住むと言うのはドタバタとしながら固まっていくものなのかな、と改めて感じています。
読んでくださりありがとうございます。




