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継承  作者: 群青 ひら
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第6章 冬支度②

「俺に話を持ち掛けるくらいだから、不動産屋もほとほと困っているみたいなんだよ。俺のエリア浪岡なのに、話を持ち掛けた不動産屋は青森駅近くだからね。


昔からの付き合いと言うのが理由だけどさ……興味があるなら俺を助けると思ってやってみないか?」


順調にいけば、玲央の夕飯も一緒に作れるようになるよ、と言う音環の言葉に、再び心が揺れた。都合がよすぎる。そもそも、音環の家に来ることからして。


でも、玲央くんのことを考えたら、関わる時間が一番多く取れそうなんだよな。


ふう。門亜は息を吐いた。ここが落としどころなのかなぁ。1人で育てるって、誰かの力を借りないと出来ないんだなぁ。


「うん……やってみる。でも、玲央くんのお世話はボクがするんだよ。音環に頼らなくちゃいけないこともあるけど、必要以上に頼りたくないから。そこはお願いね」


門亜はそう言うと、念を押すように言った。


「お願いね」


分かったよ……。門亜が一度こうと決めると梃子でも動かない。まあ、顔色もよくなったしいいか。


門亜の頬に赤みが戻ったのを見ながら音環はコーヒーカップを持った。


「そういえば、もう一つの相談って?」


音環はコーヒーカップを口元に持っていきながらふと、聞いた。


「うん……あのね。伯父さん、離婚するみたいなんだ」


はい?


突然の言葉にぶっ!と音環は勢いよく息を吐き出してしまった。すると、運の悪いことに、その風圧がコーヒーをカップから押し出し、音環の手に思いっきりかかってしまった。


「あっ!あちち!何だって?あっっっちぃ!」


タオルタオル!音環は慌ててタオルを取りに行った。テーブルにもあふれたコーヒーが飛び散っていた。


その時。門亜は玲央がリビングを覗いているのに気が付いた。


「どうしたの?トイレ?」


玲央はうなずくとそのままぱたぱたとトイレに向かった。鍵を閉めると……。


くすくす。声を出さずに笑い出した。


……音環さん、おかしい!


玲央は布団に戻ってからもしばらく笑いが止まらなかった。


――音環は脱衣所からタオルを持ってくるとこぼしたコーヒーを拭き取って、タオルと一緒に流しの蛇口の下に手を置いた。


「離婚するみたいって……伯父さん、なんで?」


音環は手を冷やしながら門亜に聞いた。伯父さんってもう60超えているだろ……退職もすでにしているから退職離婚じゃないし。


「ボクもわからないんだ。離婚したら財産分与で家を処分するから、という話だったから……」


うーん。とても不可解だ。音環は水が流れるのを眺めながら、ひと月近く前に会った門亜の伯父の顔を思い出していた。


DVしそうにないし……仕事が忙しい、だったらもっと早くに離婚しているだろうし。


「伯父さんに女性でもいるとか?」


「いや、いないよ!ボクたちの写真ぐらいだけだよ!」


門亜の言葉に音環はハッとした。


……ああ、あの写真……門亜と俺でロリータ服を着た時の……。確か、伯父さんに渡したって言ったよな。いや、俺が渡しておけ、と言ったんだけど。もしかしてそれか?7年は経っているぞ。


音環は急な罪悪感に襲われた。


「ボク、伯母さんに聞いてみようかな。実家に帰ったって聞いたけど、青森市内だから会えると思うし。働いているスーパー知っているし。……何だか、やだもん」


カップを両手で抱えながら肩を落とす門亜に、音環はやめておけ、と言おうとしたが止めた。


……十分ありうる。音環はコーヒーを一気に飲みほすと、


「俺にできることがあったら言って」


と、声を震わせながら門亜に頼み込んだ。




「門亜、もうそろそろ玲央くんの冬支度しないと、あっという間に寒くなるよ」


土曜の朝、朝食が出来た、と呼びに行った音環は、布団から出ようとしない門亜に言った。


「もし買い物に行くなら俺の車使っていいよ」


と言う、音環の声に門亜はうーん、と布団の中で体を伸ばした。


眠いけど、今日はここまでかぁ。門亜は目をこすりながら布団から出た。


音環に仕事探しを相談した翌週。午後だけ有給をとった音環と青森駅前で待ち合わせをした。


一本裏手の道に入って少し歩くと、ガラス戸に格子の入ったいかにも小料理屋、と言った感じの店が見えてきた。入口には不動産屋の社員らしい、スーツを着た人が立っていた。


「お世話になります。こちらが……先日話した門亜です」


音環がスーツの人に紹介をした。すると、スーツを着た人はちらり、と門亜の方を見て


「どんな人が来るのか気になっていたけど、この人なら大丈夫そうだね」


と言った。


……どういう意味だ?門亜は怪訝な顔をしそうになったが、慌てて顔を整えた。


「こんにちは。おばちゃんいる?」


格子戸をガラリ、と開けるとスーツの人が声をかけた。すると、奥まったキッチンから「はーい」と言う声がして、割烹着を着た年配の女性が出てきた。


「おばちゃん、この人がこの前話した人。今日一緒にやってみて、よさそうだと思ったら引き継いでみない?」


とスーツの人は言った。


割烹着の女性は門亜をじろじろとみると途端にパッと明るい顔をした。


「まあ!かわいい!私ね、こんな娘が欲しかったの!」


その言葉に、挨拶をしようとした門亜は頭を下げたところで固まった。……娘?


「おばちゃん、初めまして。音環と言います。そして、こちらが今回お世話になる門亜。男だけど大丈夫ですか?」


音環が慌てて言うと、割烹着の女性は「あらやだ」と言いながら顔を赤らめた。


「男の子だったのね。でも大丈夫よ。料理が出来れば。ねえ、あなた料理はどれくらいできるの?」


女性の言葉に門亜は再び固まってしまった。この前目玉焼きを焦がしました、と言ったら面接終了かな。……まあ、いいや。嘘はいけない。ばれるし。


門亜の伯父さんの離婚話がやってきました。

門亜が落ち着いたと思ったらまた一難……。

こちらの地が固まるまでには少しかかりそうですが、見守っていただけますと幸いです。

読んでくださりありがとうございます。

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