第9話 エリーゼを背負って、初飛行
ほのぼの過ぎてあきてきたかたももう少し頑張って読んでください。
だんだんバトルが多くなってきます。
個人的には前半より中盤、後半のほうが面白いと思ってます。
「では、お願いしますわ」
「軽く言いますね……」
屋敷の中庭で、俺はしゃがみ、エリーゼを背中へ乗せた。
腕が肩に回る。
近い。
普通に近い。
「……大丈夫です?」
「問題ありませんわ」
「俺の方が緊張してるんですけど」
「光栄に思いなさい」
何をだ。
立ち上がると、背中にずしりと重みがかかった。
いや、もちろん口には出さない。
さっき学んだ。
女性の体重に触れてはいけない。
「じゃあ……まずは30センチ」
意識を集中させる。
ふわりと、二人の身体が浮いた。
「……!」
背中でエリーゼが息を呑んだ。
地面から30センチ。
問題なく安定している。
「もう少し」
「はい」
1メートルまで上がる。
「もう少し」
「はいはい」
今度は2メートル。
「もっと」
「最初から飛ばしすぎですよ!」
「大丈夫ですわ」
「何を根拠に!?」
それでも少しずつ高度を上げていく。
5メートル。
10メートル。
やがて、屋敷の屋根が視線より下になった。
「……綺麗」
背中から小さな声が聞こえた。
さっきまでの強気な声とは違う。
庭も、町も、遠くの森も見渡せる。
「こんな景色だったのですわね」
その言葉を聞いた瞬間、連れてきてよかったかもしれないと思った。
だが、その直後。
「……あ」
身体が重くなる。
まずい。
飛び続けていたせいで、限界が近い。
高度を下げる。
いつもの感覚より、明らかに魔力の減りが早い。
「降ります!」
「もうですの?」
「落ちるよりいいでしょ!」
地面まで残り数メートル。
あと少しというところで、《飛行》が切れた。
「うわっ!」
ドサッ。
二人で芝生の上を転がる。
「いたた……」
「エリーゼ、大丈夫ですか!?」
「ええ」
起き上がって確かめると、幸い怪我はなかった。
「よかった……。やっぱり人を乗せると、消耗が全然違う……」
エリーゼは少し考え込んだあと、口を開いた。
「もう一度」
「え?」
「もう一度ですわ」
「今落ちましたよね?」
「最後だけです」
「最後が一番大事なんですよ!」
結局、休憩を挟んで2回目。
また休憩して、3回目。
「もう十分じゃないですか?」
「まだですわ」
それから4回目。
5回目になる頃には、俺は完全に専属アトラクション係になっていた。
ただ、回数を重ねるほど飛行は安定していく。
背負った状態での姿勢や、上昇、下降、旋回の感覚を少しずつ掴めるようになってきた。
5回目は、高度20メートルほどまで上がった。
少し風が強い。
「怖くないんですか?」
「怖い、とは?」
「高いところとか。落ちるかもしれないとか」
少し間があった。
「……最初は、少し」
意外だった。
「でも、あなたが必死な顔で支えてくださっているのが分かりますから」
「必死なの、見えてるんですか」
「それに」
「それに?」
「落ちても、あなたなら何とかしてくれる気がしますの」
「その信頼、正直プレッシャーです」
「光栄に思いなさい」
つんとした言い方だったけれど、悪い気はしなかった。
無事に着地した、その瞬間。
頭の中に表示が浮かんだ。
《飛行(Lv22)》
滞空時間:18分
最高高度:45m
他者1名を短時間浮遊可能
「解禁された!?」
エリーゼが振り向く。
「何がですの?」
「人を、離れたまま浮かせられるみたいです」
「今も浮かせていましたわよ?」
「いや、俺が背負うんじゃなくて……たぶん、離れた状態で」
背負って飛ぶことはできた。
でも、触れずに誰かを浮かせるのは、まだ試していない。
失敗したら、そのまま落とすことになる。
さすがに人間相手に「ちょっと試してみよう」で使える能力じゃない。
「……これは、しばらく保留だな」
「何をぶつぶつ言っていますの?」
「安全第一って話です」
エリーゼは満足そうに髪を整えた。
「では、明日も来なさい」
「え?」
「明日も飛びますわ」
「配達の仕事は?」
「優先事項です」
「こっちにも仕事の予定があるんですけど」
「では、配達の合間にでも」
「地味に無茶な要求ですね、それ」
「わたくしにとっては、これくらい普通のお願いですの」
貴族の「普通」は、どうやら基準がバグっている。
空飛ぶ配達屋、貴族令嬢専属タクシー化の危機。
最後まで読んでいただきありがとうござます。
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