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落ちてる途中で異世界なんて聞いてない ~飛行スキルで、なんとかやっています~  作者: FUKA


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第8話 覗いてしまった令嬢の着替え

お色気系はこれが最初で最後ですね。

お色気レベルの話しでもないですが。

エリーゼはここから最後まで重要なキャラになります



配達屋の仕事にも慣れてきた頃、ガレスからいつもより少し真面目な顔で呼び出された。


「今日は貴族の屋敷への配達だ」


「貴族?」


「失礼のないようにしろ」


「その言い方だと、普段の俺が失礼みたいじゃないですか」


「違うのか?」


否定できなかった。


届けるのは急ぎの書状。


向かったのは、町の少し外れにある大きな屋敷だった。


門をくぐると、広い庭の中央に噴水があり、その向こうに白い石造りの建物が立っている。


使用人に案内され、執事らしき老人から説明を受けた。


「書状は、屋敷の反対側におります者へお渡しください」


「歩いて回るより、飛んだ方が早そうですね」


「……構いませんが」


執事が少し不安そうな顔をする。


「窓の近くは飛ばぬよう」


「もちろんです」


俺は中庭からふわりと浮かび、高度10メートルまで上がった。


窓には近づかないよう、屋敷から少し距離を取って進む。


順調だ。


白い壁を横目に、2階付近の高さを移動していく。


そのとき、突然の突風が吹いた。


「うわっ!」


身体が横へ流され、屋敷の壁が一気に近づく。


まずい。


慌てて姿勢を戻そうとした、その瞬間。


開いた窓から、レースのカーテンがふわりと大きく揺れた。


そして――目が合った。


窓の向こうには、金髪の少女がいた。


しかも着替えの途中で、薄い水色のドレスに腕を通しかけている。


時間が止まった。


少女の目が見開かれる。


俺の目も見開かれる。


バシン!!


窓が勢いよく閉まった。


「違う!! 事故!!」


動揺した俺は完全に飛行制御を失い、そのまま中庭へ落下した。


ガシャン!


植木鉢を3個破壊。


「……終わった」


俺の社会的な何かが終わった。


すぐに衛兵に囲まれる。


「違います! 不可抗力です!」


屋敷の扉が勢いよく開き、さっきの少女が出てきた。


今度はきちんとドレスを着ている。


ただし、顔は真っ赤だった。


「あなたね!!」


「不可抗力です!!」


「空から覗くとは何事ですの!」


「覗いてないです! 流されたんです!」


「一緒ですわ!」


一緒ではない。


でも、この状況で何を言っても無駄なのは分かる。


俺はそのまま屋敷の一室へ連行された。


少女は腕を組み、俺はなぜかその前で正座させられていた。


「わたくしが着替えている最中でした」


「本当に見てません。一瞬です」


「一瞬でも問題ですわ!」


正論だった。


完全敗北だ。


「あの……せめて、お名前を伺っても?」


少女は少し不機嫌そうに答えた。


「エリーゼ・フォン・アーレンスですわ」


年齢は俺より3つほど下だろうか。


気が強そうな、いかにも貴族令嬢という雰囲気だ。


「俺は相沢悠真です」


「知っていますわ」


「え?」


「町で有名ですもの。『空から落ちて机を壊した男』」


「そこまで広まってるの!?」


「『ハエと呼ばれて子どもに本気で抗議した男』」


「そっちも!?」


「『空飛ぶ配達屋』」


「最後だけ使ってください!」


エリーゼが少しだけ口元を緩めた。


どうやら怒りは、ほんの少し収まったらしい。


「ところで」


「はい?」


「本当に空を自由に飛べるのですわね」


「まあ、最近はそれなりに」


「人を乗せても?」


「……人?」


嫌な予感がする。


エリーゼは窓の外を見た。


「わたくし、ほとんどこの屋敷の外へ出たことがありませんの」


「そうなんですか?」


「勉強、礼儀作法、魔法、社交。毎日そればかりですわ」


その横顔が、少しだけ寂しそうに見えた。


「だから――」


エリーゼが振り向く。


「わたくしを乗せて飛びなさい」


「え?」


「空を見てみたいのです」


完全な命令だった。


「……分かりました。ただ、その前に一つだけ」


「なんですの?」


「俺、まだ誰かを乗せて飛んだことないんですよ」


「では、わたくしが最初ですわね」


「そういう前向きな話じゃなくてですね」


「努力なさい」


無茶振りだ。


「そもそも、人一人って結構重いですよ?」


エリーゼの眉がぴくっと動く。


「わたくしが重いと?」


「違う! そういう意味じゃない!」


「今、わたくしの体重について言いましたわよね?」


「人類一般の話です!」


「女性に向かって言う言葉ではありませんわ」


「すみません!」


なんで覗き事故から体重事故まで起こしてるんだ、俺。


とりあえず先に、本来の仕事だった急ぎの書状を届ける。


その後、屋敷へ戻ってしっかり休憩を取った。


その間もエリーゼは庭で待っている。


本当に飛ぶ気だ。


「……やります?」


「当然ですわ」


こうして、俺の人生で初めてとなる、人間を乗せた飛行実験が始まることになった。



最後まで読んでいただきありがとうござます。


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