第6話 異世界エアメール、はじめました
第5話を読んでいただき、ありがとうございます。
少しずつ、この世界での生活にも慣れてきたユウマ。
最初は「飛べるだけ」と思っていた《飛行》スキルも、使い方次第では意外と役に立つようで――。
今回もユウマなりに、《飛行》でなんとかします。
第6話です!
翌日、俺はガレスに改めて呼び出された。
「昨日の話の続きだ」
「宅配、ですよね」
「話が早い」
やはり中世ヨーロッパ風の世界で空を飛べると言ったら、行き着く先は宅急便らしい。黒猫はいないのか、この世界。ホウキだ! ホウキを買わないと!あと、自転車に乗った空を飛びたい丸眼鏡の少年とか。……いや、それはさすがに欲張りか。
「まあ、便利屋根性だけでも似てりゃ十分か」
「何の話だ」
「こっちの話です」
最初の仕事は、城壁にある見張り塔から、別の見張り塔への書状の配達だった。
「距離は?」
「壁沿いに500メートルほどだ」
時速30キロなら、約1分で着く。
「余裕です」
「速くなったな」
少し前までは、こんな距離ですら大仕事だった。
俺は書状を革袋に入れ、肩に掛ける。
「じゃあ、行ってきます」
《飛行》で高度20メートルまで上がり、そのまま城壁に沿って真っすぐ飛ぶ。
歩けば遠いが、飛べば近い。
これは、思っていた以上に仕事になるかもしれない。
――と思った直後、横風が吹きつけた。
「うおっ!?」
身体が流される。
慌てて姿勢を戻した瞬間、肩に掛けていた革袋がすぽっと抜けた。
「あっ」
革袋が落ちていく。
「待て待て待て待て!」
急降下して、地面へ落ちる寸前で革袋を捕まえる。
そのまま勢い余って、近くの屋根へ突っ込んだ。
バキッ。
瓦が1枚割れた。
下からガレスの声が飛んでくる。
「請求な」
「仕事1件目で赤字!?」
それでも、書状自体は無事に届けられた。
翌日からも、小さな配達を何件か任されるようになった。
城壁の塔や兵舎、役所に商店。
気づけば町では、「空飛ぶ配達屋」と呼ばれるようになっていた。
そんなある日、市場で声を掛けられた。
「おい、お前」
振り返ると、見覚えのある男が立っていた。
「……あ」
「覚えてるか?」
「ヘッドライトを買ってくれた人」
道具屋の主人、ドムスだ。
「名前で覚えろ」
「すみません」
ドムスが小さな箱を差し出した。中には薬瓶が数本入っている。
「隣町に親父がいる。脚を悪くしててな。この薬を届けたい」
「隣町って、どのくらいです?」
「歩けば半日ほどだ。15キロくらいある」
今の俺なら、一度の飛行で進めるのは約6キロ。途中で2回休憩を挟めば届く。
「大丈夫だと思います」
「今日中に?」
「はい」
ドムスが眉をひそめた。
「……本当に?」
「たぶん、1時間半くらいあれば」
「半日の距離を?」
「飛ぶので」
しばらく沈黙が流れた。
「化け物か」
「一応、人間です」
薬箱を大事に抱えて町を出る。
中の瓶を割るわけにはいかない。速度よりも安定を優先し、高度も取りすぎないようにする。
飛んで、降りて休み、また飛ぶ。
途中までは順調だった。
森沿いを飛んでいると、地上に緑色の影が見えた。
ゴブリンだ。
「今日は急いでるんで、失礼します」
当然、向こうが聞いてくれるはずもない。
こちらに気づいたゴブリンが、地面から石を拾い上げた。
「いやいや、届かないだろ」
ゴブリンが石を投げる。
届いた。
「マジか!」
石が肩をかすめ、身体が傾く。
しかも運の悪いことに、ちょうど飛行時間の限界が近づいていた。
高度が一気に落ちる。
「うわあああ!」
薬箱を胸に抱えたまま草むらへ突っ込み、そのまま地面を転がった。
すぐに薬箱を確認する。
無事だ。
よし。
顔を上げると、ゴブリンがこちらへ走ってきていた。
「いやいやいや!」
俺は立ち上がり、そのまま走り出す。
戦う?
無理だ。武器はナイフしかないし、そもそも俺は配達員だ。
「地上戦はしない主義なんだ!」
少し走って息を整え、再び浮上する。
今度こそ十分に距離を取った。
「さらば地上勢!」
逃走成功。
何とか隣町へ到着し、門番に事情を話すと、すぐにドムスの父親の家へ案内してくれた。
老人はベッドに横になっていた。
「今日中に届くとは思わなかったよ」
「間に合ってよかったです」
「ドムスのやつ、心配性でな」
そう言いながらも、老人はどこか嬉しそうだった。
帰り道、俺は少しだけ考えた。
ただ荷物を運ぶだけだと思っていた。
でも、その荷物を待っている人がいる。
「配達って、思ったより責任重大だな」
リンドベルへ戻る頃には、完全に腹が減っていた。
報酬をもらい、パンとスープを食べ、宿のベッドへ倒れ込む。
「文明最高……」
翌朝、仕事の報告に行くと、ガレスが呆れた顔で聞いてきた。
「どうだ」
「物流、楽しいです」
「戦わなくていいしな」
「ほんとそれ」
それからも、俺は配達を続けた。
書状や薬、小包、時には食べ物まで。
飛んで、降りて、休んで、また飛ぶ。そんな日々の中で、《飛行》も少しずつ成長していった。
《飛行(Lv19)》
滞空時間:15分
最高高度:40m
「順調だな」
そんなある日の配達中、抱えていた荷物が一瞬だけ軽くなった。
「……あれ?」
持ち直してみると、重さは元に戻っている。
「兆し来た?」
自分以外の何かも、そのうち飛ばせるようになるかもしれない。
空飛ぶ配達屋には、まだ伸びしろがありそうだ。
最後まで読んでいただきありがとうござます。
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