第38話 ドラゴンに乗ってみたい
暖かい目で見ていただくエピソードです
魔法の練習を始めて、しばらく経った。……相変わらず、俺は魔法が下手だった。
「…………」
目の前に浮かぶ、小さな光。
「できた!」
「はい。今回はかなり安定していますわ」
「おお!」
超絶ヘタなのは変わらない。
それでも、ほんの少しずつ上達していた。
そんなある日。
俺はふと思った。
「……そういえば」
異世界に来てから、まだ、ちゃんと楽しめていないことがある。俺は『イセ100』を開いた。
ページをめくり、ある項目で手が止まった。
『ドラゴンに乗る』
「…………」
ガルーダとの戦いでは背中に助けてもらったけど、今度は落ち着いて乗ってみたい。
考えただけで、胸が高鳴った。
ドラゴン。
異世界の象徴みたいな存在だ。
しかも、この国にはドラゴンに乗って空を飛ぶ人がいる。
レオンだ。
「よし」
俺は立ち上がった。
「レオンに頼んでみよう」
◇
王都の訓練場。
俺はレオンを見つけた。
「レオン」
「ユウマ。どうしたんだ?」
いつもの爽やかな笑顔。
「ちょっとお願いがあるんだけど」
「俺にできることなら、何でも言ってくれ」
「ドラゴンに乗せてもらえないかな?」
「…………」
レオンが一瞬、目を丸くした。
「ドラゴンに?」
「うん」
「乗ってみたいのか?」
「ずっと乗ってみたかった」
レオンは少し考えたあと、笑った。
「もちろんいいよ」
「本当に?」
「ああ。ただ――」
レオンは少しだけ真面目な顔になる。
「ドラゴンは大きいし、飛行中はかなり揺れる」
「大丈夫」
「本当に?」
「俺、空飛べるから」
「……そうだったな」
レオンが笑う。
「それなら、少し安心だ」
◇
訓練場の奥。
1頭の飛竜がいた。
レオンの相棒だ。
大きな翼。
鋭い爪。
力強い体。
近くにいるだけで、その存在感に圧倒される。
「……でかい」
思わず声が出た。
飛竜だろうが何だろうが、俺からすれば十分ドラゴンだ。
「こいつが俺の相棒、アルトだ」
レオンがアルトの首元を撫でる。アルトはレオンを見ると、静かに目を細めた。
「よろしくな」
俺も近づいてみる。
アルトが俺を見る。
「…………」
俺も見る。
「…………」
なんとなく緊張する。
すると、アルトが俺の匂いを嗅いだ。
「うわっ」
思わず後ろに下がる。
レオンが笑った。
「大丈夫。敵意はないよ」
「そう?」
俺は恐る恐る近づく。
そして、そっとアルトの体に触れた。
「……すごい」
硬い鱗。
けれど、その奥には確かな体温があった。
「これに乗るのか……」
「ああ」
レオンが手を差し出す。
「乗ってみよう」
「うん!」
レオンに手を借りながら、背中に乗る。
想像していたより高い。
「…………」
俺はアルトの背中から地面を見る。
「高いな」
「まだ地上だよ」
「分かってる」
レオンが前に座る。
「しっかり掴まって」
「ああ」
アルトが翼を広げた。
――バサッ!
強烈な風が巻き起こる。
「うおっ!」
そして、地面を蹴った。
一気に空へ。
「うわあああああっ!」
俺は思わず声を上げた。
地面がどんどん遠ざかる。
城が小さくなる。
街が小さくなる。
「すげぇ……」
風が全身を通り抜ける。
俺が自分で飛ぶのとは違う。
自分の意思で飛んでいるわけじゃない。
飛竜の翼で空を飛んでいる。
「どうだ、ユウマ!」
「最高!」
思わず笑ってしまう。
レオンも笑った。
「それならよかった!」
アルトはさらに高度を上げていく。
雲が近づいてくる。
そして、雲を抜けた。
「…………!」
目の前に広がったのは、一面の青空。雲海。そして太陽。
「……綺麗だ」
それ以上、言葉が続かなかった。
レオンが振り返る。
「気に入ったか?」
「ああ」
俺は頷いた。
「すごくいい」
しばらく、何も言わずに空を飛んだ。
◇
やがて、アルトが速度を上げた。
「うわっ!」
体が後ろに持っていかれる。
「ユウマ、大丈夫か?」
「大丈夫!」
俺は必死にしがみつく。
「これ、レオンはいつもやってるの?」
「ああ」
「すごいな……」
風圧が強くなる。
アルトはさらに加速する。
自分で飛んでいるなら、次にどう動くかは分かる。
でも今は違う。
飛竜が次にどう動くのか、俺には分からない。
「これでもまだ全力じゃない」
「え?」
「この子は、もっと速く飛べる」
「マジか……」
俺はアルトを見る。
こんな巨大な体で、こんな速度で飛べるのか。
そして思い出す。
レオンは、この国でも屈指の竜騎士だ。王国の空では最速クラスと言われている。その理由が、少し分かった気がした。
◇
しばらくして、アルトは訓練場へ戻ってきた。
地面に降りる。
俺はアルトから降りた。
「…………」
しばらく、その場に立ち尽くす。
「どうだった?」
レオンが聞く。
俺は笑った。
「最高だった」
「そうか」
「ありがとう、レオン」
「こちらこそ」
レオンは爽やかに笑う。
「俺も楽しかったよ」
俺はアルトの首元をそっと撫でる。
「お前もありがとうな」
アルトは小さく喉を鳴らした。
俺は空を見上げた。
自分で飛ぶ空とは、少し違った。
ドラゴンの背中から見る空。
それは、俺にとって新しい景色だった。
『ドラゴンに乗る』
――クリア。
「……次は何をしようかな」
空を見上げる。
まだまだ、やりたいことは残っている。
戦争が始まる前に、できるだけこの世界を楽しもう。
最後まで読んでいただきありがとうござます。
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