第37話 魔法を学んでみる
イセ100も最初はふざけて書き始めたのですが、意外と重要な設定になりました。
魔王軍との戦争。
レオンから聞いた話が、頭から離れなかった。
魔王軍が動き始めている。
この国も戦いに巻き込まれる可能性がある。もし本当に戦争になれば、俺だって戦場に出ることになるかもしれない。
いや、そもそも生き残れるとは限らない。
「…………」
そう考えたら、急に怖くなった。異世界に来てから、いろんなことをやってきた。
空を飛んだ。
空飛ぶ車を作った。
ダンジョンにも行った。
ロボットまで作った。
やりたいことを、いろいろやってきた。
でも、まだやっていないことがある。
「……やりたいことを、やっておこう」
戦争が始まる前に、もし何かあったとしても「あれをやっておけばよかった」なんて思わないように。
俺は家へ戻ると、『死ぬまでにやりたいこと100』――通称『イセ100』を開いた。
ページをめくり、その中の1つで手を止めた。
『魔法を覚える』
異世界に来たなら、やっぱり魔法くらい使ってみたい。俺はエリーゼのところへ向かった。
「エリーゼ」
「はい?」
「魔法を教えてくれないか?」
「魔法を?」
エリーゼが少し驚いた顔をする。
「うん。俺も魔法を使ってみたい」
「そういうことでしたら、もちろんですわ」
エリーゼは笑った。
「では、まず簡単な魔法から始めましょう」
「おお!」
いよいよだ。
異世界に来てから、ずっと憧れていた。
俺は手を前に出す。
「こうですの」
エリーゼが手をかざす。
すると、その手のひらに小さな光が生まれた。光はふわりと浮かび、そのまま空中を漂う。エリーゼが指先を少し動かすと、光はそれに合わせるように滑らかに宙を動いた。
「おお……!」
「これが魔法……」
「これは簡単な光の魔法ですわ」
「俺にもできる?」
「ええ。まずは魔力を手のひらに集めて――」
エリーゼの説明を聞く。
魔力を感じる。
集める。
そして、形を作る。
「なるほど」
俺は手を前に出した。
「いくぞ……」
集中する。
魔力を集める。
「…………」
何も起こらない。
「…………」
もう一度。
「…………」
何も起こらない。
「ユウマさん」
「ちょっと待って」
俺はさらに集中する。
「…………っ」
すると、指先に小さな光が灯った。
「おお!」
成功だ!
……と思った瞬間。
ぽんっ。
消えた。
「…………」
「…………」
エリーゼが微妙な顔をしている。
「どう?」
「……はい」
「はい?」
「魔法ですわ」
「だよな!」
俺は嬉しくなった。
「俺、魔法使えた!」
「一応……」
「一応?」
エリーゼが少し考える。
「……かなり小さいですけれど」
「…………」
「そして、かなり弱いですわ」
「…………」
「しかも、持続時間も短いですわね」
「…………」
俺はもう一度手を出した。
「今度こそ!」
集中する。
魔力を集める。
すると、また小さな光が灯った。
「できた!」
俺が喜んだ瞬間。
ぽんっ。
消える。
「…………」
「…………」
俺はエリーゼを見る。
エリーゼも俺を見る。
「……もう一回」
「はい」
何度も挑戦した。
光。
消える。
光。
消える。
光。
消える。
やがて、少し大きな光が灯った。
「できた!」
今度は少し大きい。
俺は思わず笑った。
「見てくれ!」
「ええ」
エリーゼも笑っている。
「ちゃんと魔法になっていますわ」
「よし!」
俺は調子に乗った。
光が出せた。
ということは、次は攻撃魔法だ。日本人として、火の魔法といえばこれしかない。
「次は火だ!」
「え?」
「火の魔法!」
「まだ早いですわ」
「大丈夫、大丈夫」
俺は手を前に出す。
「ファイア!」
何も起こらない。
「…………」
「…………」
「ファイア!」
何も起こらない。
「ファイア!」
やっぱり何も起こらない。
「…………」
エリーゼが口元を押さえている。
「……笑ってる?」
「笑っていませんわ」
「絶対笑ってるだろ」
「ふふっ……」
「笑ってるじゃん!」
エリーゼは楽しそうに笑った。
「ユウマさん、魔法の才能は……」
「ある?」
「……これからですわ」
「それ、ないってことじゃない?」
「そういう意味ではありませんわ」
「ほんと?」
「はい」
エリーゼは真面目な顔に戻った。
「ユウマさんは、魔力そのものは十分にあります」
「そうなのか?」
「ええ。むしろ多いくらいですわ」
「じゃあ、なんで使えないんだ?」
「問題は、その魔力を魔法として形にする技術ですわ」
「なるほど……」
飛行能力では魔力を使っている。物を浮かせたり、飛んだりもできる。
でも、それと魔法は違うらしい。
「魔力を使うことと、魔力を自在に操ることは別なのですわ」
「……難しいな」
「ですから、練習ですわ」
「分かった」
俺はもう一度手を前に出した。
「やってみる」
「はい」
集中する。
魔力を集める。
さっきよりも丁寧に。
すると、小さな光が生まれた。
「おお!」
今度は消えない。
1秒。
2秒。
3秒。
「やった!」
俺が喜んだ瞬間。
ボンッ!
安定していたはずの光が、一気に膨れ上がった。
「うわっ!」
俺は驚いて手を引っ込める。
光はそのまま消えた。
「…………」
「…………」
「今のは?」
「……成功、ですわ」
「成功なの?」
「はい」
「じゃあ、俺って魔法の才能ある?」
エリーゼは少し考えた。
「……非常に個性的ですわね」
「それ、褒めてる?」
「もちろんですわ」
「絶対違うだろ」
俺はため息をついた。
でも、少しだけ嬉しかった。魔法を使えるようになれば、できることがもっと増える。戦争になったとしても、大切な人たちを守れる力になるかもしれない。
「よし」
俺は拳を握る。
「魔法も使えるようになるぞ」
「頑張りましょう」
エリーゼが笑う。
「ただし――」
「ん?」
「ユウマさんは、かなり練習が必要ですわ」
「……やっぱり?」
「はい」
即答だった。
「俺、そんなに下手?」
「……はい」
「即答かよ!」
エリーゼは楽しそうに笑った。
俺も笑う。
まだまだ練習は必要らしい。
でも、これも異世界に来たからこそできることだ。
『魔法を覚える』
イセ100の新しい挑戦が、また1つ始まった。
……ただし。
俺の魔法修行は、超絶ヘタなところからのスタートだった。
最後まで読んでいただきありがとうござます。
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