第36話 ガルーダの羽と、二人の贈り物
少しずつ前に進みます
少し気になることがあった。
最近、フィリアの様子がおかしい。
「フィリア」
レオンが声をかける。
「はいっ!」
フィリアが振り返る。
「この前の――」
「す、すみません!」
「え?」
フィリアは顔を真っ赤にして、その場から逃げていった。
「…………」
レオンが立ち尽くす。
「……どうしたんだ?」
俺は隣で見ていた。
「さあ?」
「ユウマ」
「はい?」
「俺、何かしたかな?」
「…………」
俺は笑いそうになる。
「レオンは何もしてないですよ」
「そうなのか?」
「はい」
「なら、どうして……」
レオンは首を傾げる。
「さっぱり分からないな」
本当に分かってない。
◇
その日の午後。
エリーゼと2人で休憩室にいると、
「はぁ……」
エリーゼはため息をついた。
「どうしたんですか?」
「フィリアのことですわ」
「ああ……」
俺も苦笑する。
「やっぱり気になりますよね」
「ええ」
エリーゼは少し困ったような顔をする。
「フィリアも、レオン様も……」
そのとき、扉の外から声がした。
「ユウマ、エリーゼ」
扉が開いた。
レオンだった。
「レオン?」
「少し相談したいことがあるんだ」
「フィリアのことですか?」
「ああ」
レオンは頷いた。
「最近、フィリアが俺を見ると逃げるんだ」
レオンは本気で困っていた。
「何か悪いことをしたのかと思っているんだが……」
「何か心当たりはありませんか?」
「それが、まったくないんだ」
「…………」
俺は少し考えた。
「あの羽、使いません?」
「羽?」
「ガルーダの羽です」
俺は持って帰ってきた羽を取り出した。
「これで服を作ってフィリアにプレゼントしたらどうでしょう」
「服ですの?」
「はい」
「ガルーダの羽は軽くて丈夫です。普通の刃物じゃ、ほとんど傷もつかないらしいですから」
俺は羽を見る。
「これで戦闘用の服を作りましょう」
俺はレオンを見る。
「まあ」
エリーゼが少し驚く。
「レオンからプレゼントさせるんです」
「なるほど……」
エリーゼが微笑む。
「それなら、きっと喜びますわね」
レオンは羽を見る。
「でもいいのか? 貴重なガルーダの羽だぞ?」
「元はといえば俺のせいですし……」
ぼそっと呟く。
「ユウマ、今何か言ったか?」
「いや、別に」
「?」
レオンは首を傾げた。
……うん。黙っておこう。
「でもサイズも好みも分からない」
「だから、エリーゼに協力してほしいんです」
「わたくしに?」
「はい。フィリアの服のサイズや好みを探ってほしいんです」
エリーゼは少し考えてから答えた。
「分かりましたわ」
「ありがとうございます」
レオンもほっとしたように笑った。
「助かる」
こうして、フィリアへのプレゼント作戦が始まった。
◇
数日後。
エリーゼはフィリアと2人で服屋を訪れていた。
エリーゼ行きつけの店だ。
「ここですわ」
「ここ……ですか?」
フィリアは店の入口で立ち止まる。店内には、色とりどりの服が並んでいる。
「買い物に付き合ってほしいと言われましたけど……」
「ええ。今日は少し見て回りましょう」
どうやら服屋に入るのは初めてらしい。見慣れない光景に戸惑っているのか、フィリアはエリーゼの裾をつまんで店内を見回している。
「ふふっ」
エリーゼが微笑む。
「どうしましたの?」
「いえ……」
フィリアは少し恥ずかしそうにする。
「こういうお店、初めてなので……」
「そうでしたの」
エリーゼは優しく笑う。
「では、今日はわたくしが一緒に見て差し上げますわ」
「はい」
2人は店内を歩き始めた。
「この服など、どうですの?」
「きれいですね」
「では、こちらは?」
「……こちらも素敵です」
エリーゼは何気ない顔をしながら、フィリアの反応を1つ1つ覚えていく。
エリーゼが声をかけた。
「フィリア」
「はい?」
「普段、どんな色の服がお好きですの?」
「好きな色ですか?」
「ええ」
フィリアは少し考える。
いくつか並んだ服を見る。
「私は……青系が好きです」
「青ですのね」
エリーゼは覚えておく。
「そういうエリーゼ様は、どんな色がお好きなんですか?」
「わたくし?」
エリーゼは少し考えて、淡いピンクの服へ目を向けた。
「こういう優しい色は好きですわね」
「淡いピンク……」
フィリアが小さく頷く。
「では、こういうデザインはいかがです?」
「動きやすそうですね」
「フィリアは戦うこともありますものね」
「はい」
「では、動きやすさを重視したほうがよさそうですわね」
「そうですね」
エリーゼは頷いた。
「せっかくですから、こちらの服も試してみません?」
「え?」
「きっと似合いますわ」
フィリアは少し戸惑いながらも頷いた。
「……はい」
◇
その後、店員にフィリアのサイズを測ってもらう。
「では、こちらに立ってください」
「はい」
フィリアは言われた通りに立つ。測り終えたところで、フィリアがエリーゼを見る。
「エリーゼ様は測らないんですか?」
「わたくしは今日は……」
「せっかくですし、一緒に測ってもらいましょう」
「まあ……そうですわね」
結局、エリーゼも店員にサイズを測ってもらうことになった。エリーゼはその様子を見ながら、心の中で思った。
――これで準備は整いましたわ。
ガルーダの羽。
フィリアのサイズ。
そして、本人の好み。
あとは――
服が完成するのを待つだけだ。もちろんエリーゼは知らない。自分の好みとサイズも、同時にフィリアに知られていたことを。
◇
それから数週間後。
ガルーダの羽を加工した2着の服が、ようやく完成した。俺とレオンは服を受け取りに来ていた。
「これが……」
レオンは服を見つめる。
ガルーダの羽を使った、フィリア専用の戦闘服。白を基調とした、軽やかなデザイン。胸元から腰にかけては身体に沿うように仕立てられ、動きやすさも考えられている。その白い生地のところどころに、フィリアの好きな青色が入っている。肩や袖には細い青のラインが走り、腰まわりにも青い装飾が施されている。派手すぎないのに、白と青の組み合わせがよく映える。
「素晴らしいな」
「でしょう?」
俺も満足している。
「きっとフィリアも喜びますよ」
「ああ」
レオンは嬉しそうに笑った。
◇
その日の夜。
レオンはフィリアを食事に誘った。
「フィリア」
「はい?」
「少し話したいことがあるんだ」
「……はい」
フィリアは緊張した様子でレオンについていく。
食事を終えたところで、レオンは1つの包みを取り出した。
「これを」
「……?」
フィリアが受け取る。
「開けてみてくれ」
「はい……」
フィリアが包みを開く。
「……!」
中に入っていたのは、新しい戦闘服だった。
「これは……?」
「ガルーダの羽を使って作ってもらったんだ」
「ガルーダの……羽?」
「ああ」
レオンは優しく笑う。
「軽いのに、普通の刃物じゃほとんど傷もつかないらしい」
「……」
「フィリアは前に出て戦うことが多いだろ?」
レオンは何でもないことのように続けた。
「少しでも君を守ってくれるものがあった方が、俺も安心だからな」
「――っ」
フィリアの顔が、一気に赤くなった。
「……私のことを、心配してくださっているんですか?」
「もちろんだ」
レオンは爽やかに笑った。
「大切な仲間だからな」
「…………はい」
フィリアは服を胸に抱く。
「……大切にします」
「喜んでもらえたなら、俺も嬉しいよ」
少し離れた席では、俺とエリーゼがその様子をこっそり見守っていた。もちろん、本人たちには内緒だ。
「……ちゃんと渡せましたわね」
「ですね」
エリーゼが2人を見つめる。
「よかったですわね」
「そうですね」
「でも……」
エリーゼが服を見つめる。
「少し羨ましいですわ」
「やっぱり」
俺は笑い、包みを取り出した。
「じゃあ、これ」
「?」
俺はエリーゼに包みを渡した。
「わたくしに?」
「はい」
「……開けても?」
「どうぞ」
エリーゼが包みを開く。
「……!」
中に入っていたのは、エリーゼのために作った魔道服だった。白を基調とし、胸元や袖、裾にパステルピンクをアクセントとしてあしらった、上品で可愛らしいデザインだ。ガルーダの羽を使っているため、とても軽く仕上がっている。
「これ……」
「エリーゼにプレゼントです」
「……」
エリーゼは言葉を失う。
「どうして……?」
「実は、フィリアにも協力してもらってたんです」
「フィリアに?」
「はい。あの日の買い物で、エリーゼの好きな色とか、サイズとかも調べてもらってました」
「まあ……」
エリーゼは驚いた顔でフィリアを見る。
「いつの間に……」
「レオンからフィリアへのプレゼントを作るときに、一緒にお願いしていたんです」
「そういうことでしたの……」
エリーゼはしばらく服を見つめていた。それから、大切そうに胸元へ抱く。
「……ありがとうございます」
小さく、でも嬉しそうに笑った。
「とても嬉しいですわ」
「よかった」
俺も笑う。
その横では、フィリアがレオンからもらった服を嬉しそうに眺めていた。ガルーダの羽から生まれた2着の服は、2人の乙女にとって大切な贈り物になった。
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