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落ちてる途中で異世界なんて聞いてない ~飛行スキルで、なんとかやっています~  作者: FUKA


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35/39

第35話 海の町の宴と、二人の乙女

男で旅行にいって同じ部屋とまるの当たり前だよね?

ガルーダを倒した俺たちは――

「……疲れた」

「ユウマ」

レオンも、さすがに少し疲れた顔をしていた。

「今日はもう1泊していかないか?」

「……賛成です」

即答だった。

「帰るのは明日にしましょう」

「そうしよう」

こうして俺たちは、予定を変更してもう1泊することになった。

「ところで……」

マルコが倒したガルーダを眺めていた。

「この魔物の素材ですが――」

「素材?」

「はい。翼、爪、羽根……どれも非常に価値があります」

マルコの目が輝いている。

「もしよろしければ、私が買い取らせていただけませんか?」

「え?」

俺はガルーダを見る。

「そんなに高く売れるんですか?」

「かなりの値段になると思います」

俺はレオンを見る。

「レオンはどうします?」

「俺は――」

レオンは少し困ったように笑った。

「俺は王国騎士だからな」

「王国騎士?」

「国の任務で討伐した魔物の報酬や素材を、個人的に受け取るわけにはいかない」

「ああ……なるほど」

そういうことか。

公務員みたいなものなんだな。

「じゃあ、俺がもらっていいんですか?」

「ユウマは冒険者だから問題ないだろう」

「じゃあ……お願いします」

マルコとの交渉が始まった。

しばらくして。

「これでいかがでしょう?」

提示された金額を見て、俺は目を丸くした。

「……こんなに?」

「はい」

「すごい……」

思わぬ臨時収入だった。

俺は財布を見る。

「レオン」

「なんだ?」

「今日は宴にしましょう」

「宴?」

「せっかく臨時収入が入ったんですから!」

「……なるほど」

レオンが笑う。

「いいな」

◇

その日の夜。

俺たちは港町の少し豪華な料理店にいた。

テーブルの上には、港町ならではの海産物を使った料理や肉料理が所狭しと並んでいた。昨日の焚き火で食べた魚とはまた違う豪華さだ。

「すごいな……」

レオンが料理を見る。

「こんなに食べていいのか?」

「今日は特別です」

「そうか」

俺はグラスを持ち上げる。

「じゃあ――」

「乾杯」

「乾杯!」

グラスがぶつかる。

「いやあ……」

俺は料理を口に運ぶ。

「うまい!」

「本当に美味しいな」

レオンも笑う。

「昨日の焚き火もよかったが、こういう料理もいいな」

「でも、昨日の魚も美味しかったですよ」

「ああ」

レオンが少し遠くを見る。

「また釣りに来たいな」

「じゃあ、また来ましょう」

「約束だ」

俺たちは笑った。

気がつけば、かなり遅い時間になっていた。

「今日は本当に楽しかったです」

「俺もだ、ユウマ」

「釣りもできたし」

「魔物とも戦ったな」

「それはできれば、もういいです」

2人で笑う。

その夜も、俺とレオンは同じ部屋に泊まった。港町はガルーダ騒ぎの影響もあって宿が混んでおり、空いている部屋がほとんどなかったのだ。結局、昨日に続いて2晩連続の相部屋になった。

◇

翌朝。

宿を出ると、昨日ガルーダの素材を買い取ってくれたマルコが待っていた。

「ユウマさん!」

「おはようございます」

「昨日は本当にありがとうございました」

マルコはそう言うと、何かを抱えて近づいてきた。

「これは、お礼です」

「お礼?」

渡されたのは、ガルーダの大きな羽だった。

それも、1枚ではない。

「こんなに?」

俺は手に取ってみる。

驚くほど軽い。

「……軽いですね」

「ええ。ですが、その軽さからは想像できないほど頑丈なんです」

マルコが説明する。

「普通の刃物では、ほとんど傷をつけることができません」

「そんなに?」

俺は羽を眺める。

「これだけあれば、服を何着か仕立てることもできるでしょう」

「服?」

「軽くて丈夫ですから。加工すれば防御力の高い素晴らしい衣服になると思います」

「なるほど……」

俺は羽を持ち上げる。

軽い。

それなのに、触った感触からは普通の羽とは思えない強さを感じる。

「ありがとうございます」

「こちらこそ。昨日は貴重な素材を譲っていただきましたから」

マルコは笑った。

「大切に使ってください」

「はい」

俺は羽を大事にしまう。

「じゃあ、そろそろ行きますか」

「そうだな」

レオンが頷く。

俺たちは港町を後にし、王都へ向かって飛び立った。

◇

一方、そのころ王都では。

「……遅いですわ」

エリーゼは窓の外を眺めていた。ユウマが海へ行ってから、もう2晩が過ぎている。

最初は何も思わなかった。

「レオン様と一緒なら、まあ大丈夫でしょう」

そう思っていた。

しかし。

帰ってこない。

「……まだ帰ってきませんの?」

エリーゼは時計を見る。

「まさか……」

嫌な想像が頭をよぎる。

「ユウマさん……」

エリーゼは胸の前で手を握った。

「レオン様と……」

そこまで考えて、顔が熱くなる。

「……いえ」

首を振る。

「そんなはず……」

しかし。

「でも……」

また想像してしまう。

「……もしかして」

エリーゼは一人で悶々とする。

◇

同じころ、別の場所でも。

「……遅い」

フィリアもまた、落ち着かない様子で空を見上げていた。

「レオン様……」

フィリアは小さく呟く。

「……まだ帰ってこない」

いつもなら、もっと冷静でいられる。

けれど。

「ユウマさんと2人で……」

そこまで考えて、フィリアも顔を赤くした。

「……まさか」

胸がざわつく。

「いや……でも……」

フィリアもまた、悶々とし始める。

◇

そして、その日の午後。

町の通り。

エリーゼが通りを歩いていると、

「……あら?」

向こうから歩いてくる女性。

「フィリア?」

「エリーゼ様?」

2人が足を止める。

「奇遇ですわね」

「はい」

少しの沈黙のあと、エリーゼが口を開いた。

「……フィリア」

「はい?」

「少し、お話ししませんこと?」

「……私も、そう思っていました」

2人は近くの店へ入った。

顔を合わせれば話すことはあったが、こうして2人きりで話すのは珍しい。

◇

「それで……」

エリーゼが紅茶を一口飲む。

「フィリアは、どうしてそんなに落ち着かないんですの?」

「……」

フィリアが固まる。

「別に……」

「そうですの?」

「はい」

「では、なぜずっと窓の外を見ていましたの?」

「……」

フィリアは黙り込む。

エリーゼが少し身を乗り出す。

「もしかして……」

「……」

「レオン様のことですか?」

「――っ!」

フィリアの顔が一気に赤くなる。

「な、なぜ……」

「やっぱり」

エリーゼが微笑む。

「フィリア、レオン様のことがお好きなんですのね?」

「……はい」

小さな声だった。

エリーゼは目を丸くする。

「まあ……」

「でも……」

フィリアは俯く。

「レオン様は、ユウマさんと一緒に海へ……2日間も……」

「……」

今度はエリーゼが黙った。

「……その話ですわ」

「え?」

「実はわたくしも、それが気になっていましたの」

2人が顔を見合わせる。

「……まさか」

「……同じことを考えていました?」

「はい」

しばらく沈黙が続いた。

「ふふっ」

「……ふふ」

2人は同時に笑い始めた。

「わたくしたち、何を心配していますの?」

「本当ですね」

「まだ何も起きたと決まったわけでもありませんのに」

「はい」

2人は笑いながらも、どこか複雑な表情をしていた。

「……でも」

エリーゼが呟く。

「帰ってきたら、ちゃんと聞きませんとね」

「私も……」

フィリアが頷く。

2人の恋愛相談は、まだ始まったばかりだった。

◇

その日の夕方。

エリーゼとフィリアは訓練場の休憩室で2人の帰りを待っていた。王都へ戻った俺たちは、そのままレオンの飛竜を戻すため訓練場へ向かった。

「ただいまー!」

いつものように声をかけた。

「ユウマさん!」

エリーゼが飛び出してきた。

「お帰りなさいませ!」

「ただいま」

「……」

エリーゼは、怪我がないか確かめるように俺の全身を見た。

そして、その後ろから――

「ただいま」

レオンが入ってきた。

「レオン様!」

フィリアの表情が明るくなる。

「お帰りなさいませ!」

「ありがとう、フィリア」

レオンは爽やかに笑った。

その笑顔を見たフィリアの顔が、ほんのり赤くなる。

俺は2人の様子を見て、なんとなく察した。

「……あれ?」

「何ですの?」

エリーゼが振り向く。

「2人とも、なんか変じゃないですか?」

「そ、そんなことありませんわ!」

「そうですか?」

「ええ!」

フィリアも慌てて頷いている。

「私も何もありません」

「ふーん……」

俺は2人を見て、ちょっと意地悪してみることにした。

「そういえば」

「?」

「レオンとは、同じ部屋に2泊しました」

「…………」

エリーゼの動きが止まった。

フィリアも止まった。

「……同じ部屋?」

エリーゼが聞き返す。

「はい」

「2泊……?」

「はい」

フィリアの顔が赤くなっていく。

「……同じ部屋で?」

「そうですよ」

「……」

「……」

2人が顔を見合わせる。

「…………」

「…………」

俺は2人の表情を見て、確信した。

――完全に変なことを考えている。

「いやいや」

俺は笑いを堪える。

「2人とも、何を想像してるんですか?」

「な、何も!」

エリーゼが勢いよく否定する。

「そうです!」

フィリアも続く。

「本当に何も考えていません!」

「へえ……」

俺はニヤニヤする。

「ちなみに」

俺は追い打ちをかける。

「夜も一緒でしたよ」

「――っ!」

「――っ!」

2人が同時に息を呑んだ。

「ユウマさん!」

エリーゼが睨む。

「それ以上は言わなくて結構ですわ!」

「はいはい」

俺は笑う。

「冗談ですよ」

「……もう」

エリーゼは頬を膨らませる。

その横で、フィリアも俯いている。

「……レオン様と2人で……」

「フィリア?」

「い、いえ! 何でもありません!」

どうやら、こっちは完全に誤解している。

俺はレオンを見る。

「レオン、何か言ってやってくださいよ」

「何を?」

「2人とも変な想像してますよ」

「?」

レオンは本気で分かっていない。

「変な想像?」

「……」

「……」

エリーゼとフィリアが固まる。

俺は笑いながら説明した。

「いや、同じ部屋に2泊したっていうのが――」

「ユウマ」

レオンが苦笑する。

「誤解させるような言い方はやめよう」

「だって面白いから」

「もう……」

レオンは困ったように笑った。

そこで、俺はふと思った。そういえば、みんなレオンのことを「爽やかなイケメン」と思っている。

確かに顔はイケメンだ。

爽やかだ。

優しい。

謙虚。

誰にでも丁寧。

だけど、俺は知っている。

昨日、釣りの途中で海水を思いきりかぶったレオンが、濡れた服を乾かすために上半身裸になっていたことを。

そして、その身体がとんでもなく鍛え上げられていたことを。

「……」

俺はレオンを見る。

フィリアもレオンを見る。

エリーゼもレオンを見る。

「……どうした?」

レオンが首を傾げる。

「レオン、顔は爽やかイケメンだけど、脱いだらゴリマッチョなんだよな」

「――っ!」

「ユウマさん!!!」

俺は笑った。

エリーゼとフィリアは、まだ何かを勘違いしたままだった。

海で何があったのか、2人に説明するのはもう少し後でいいだろう。

たぶん。



最後まで読んでいただきありがとうござます。


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