第3話 文明を見つけたら不審者になりました
第2話を読んでいただき、ありがとうございます。
異世界に落ちてから、森でのサバイバル生活を続けてきたユウマ。
木の実を食べ、狼から逃げ、カラスに襲われながらも、《飛行》は少しずつ成長してきました。
そして今回――
ついにユウマが、待ちに待ったものを発見します。
「文明!!!!」
第3話です!
それから数日。
最高高度15メートル、滞空時間6分。
俺は毎日のように木々の上へ出て、森を見渡すようになっていた。
「ふふ……地上は愚かだな」
狼に追い回されていた頃のことを忘れ、完全に調子に乗っている。
その日も上空から森を眺めていると、遠くに何本もの煙が立ち上っているのが見えた。
焚き火にしては数が多い。
目を凝らすと、森の向こうに石壁らしきものが見える。その内側には建物が並び、塔のような影まで立っていた。
夕日を受けた町の輪郭が、オレンジ色に縁取られている。
「……町?」
間違いない。
人が暮らしている場所だ。
「文明!!!!」
思わず叫んだ。
一か月以上、森しか見ていない。
ようやく見つけた人の暮らす場所に興奮しすぎて、《飛行》の残り時間を忘れていた。
身体を支えていた力が消える。
「ぎゃあああああああああ!!」
枝葉に何度もぶつかりながら落ち、最後は顔から地面へ突っ込んだ。
「痛っ……!」
文明を見つけた記念すべき瞬間に、顔面から地面へ着地した。
それでも、町は見つけた。
森を出られる。
問題は、ここから町までの距離だった。
直線でも数キロはある。
《飛行》を使えるのは6分間。移動速度も、今のところ早歩きより少し速い程度だ。
「一気には無理だな」
飛んでは降り、魔力が戻るまで身を隠して休む。
それを繰り返して進むしかない。
すでに日が沈みかけていたため、その日は森で夜を明かすことにした。
◇
翌朝。
昨日見つけた町の方角を確かめ、《飛行》を使う。
木々の上まで浮かび、そのまま町へ向かって進み始めた。
「待ってろ、文明!」
気持ちばかりが先走り、飛び方が安定しない。
右へ左へとふらつきながら、何度も進路を修正して森の上を飛んでいく。
6分後、魔力が尽きた。
「着地ぃぃぃ!」
木の枝へどうにか飛び移ったものの、勢いを殺しきれず、身体を幹へぶつけた。
「地味に痛い!」
それでも、町には確実に近づいている。
魔力が戻るまで30分。
枝の上に座り、ひたすら待つ。
「文明……ベッド……風呂……」
温かい風呂を想像しただけで、泣きそうになった。
まともな設備のない森で一か月以上暮らした疲れが、一気に押し寄せてくる。
魔力が戻ると、再び空へ上がった。
今度はさっきよりも安定している。木々の間を避けながら、町へ向かってまっすぐ進む。
「俺、ちょっと空の民っぽくなってきたな」
そう呟いた直後、横から飛んできたカラスのような魔物に体当たりされた。
「またこいつか!」
身体が大きく傾き、高度が一気に下がる。
「やめろやめろやめろ!」
どうにか振り切り、近くの枝へ着地した。
力の抜けた膝が小さく震えている。
「空も安全じゃないんだった……」
何度も学んだはずなのに、町を見つけた興奮ですっかり忘れていた。
もっと高く上がれば、木々や空を飛ぶ魔物を避けて進めるかもしれない。
次の飛行では、いつも以上に魔力を集中させた。
身体は15メートルを越え、18メートル、20メートルと上昇していく。
「上がった!?」
頭の中に文字が浮かんだ。
《飛行(Lv13)》
滞空時間:6分
最高高度:20m
「レベル上がった!」
視界が一気に開けた。
森の向こうに、町の全景が見える。
町を囲む石壁や並んだ煙突、大きな門が見える。その周囲には、人らしき小さな影が動いていた。
「町だ……」
今度こそ、はっきり見えた。
物語やゲームに出てくるような、石造りの町だ。
嬉しさと緊張で胸が震える。
そのとき、また身体を支えていた力が消えた。
「だから、今切れるなって!」
枝葉の中へ落ち、途中の太い枝へしがみつく。
感動するたびに残り時間を忘れている。
そろそろ本気で気をつけないと、町へ着く前に死ぬ。
それからも、飛行と休憩を繰り返した。
魔力が戻れば飛び、尽きる前に降りる。
休憩中に木の実を食べ、水筒に集めておいた朝露を飲む。
途中で狼に見つかったときは、すぐに上空へ逃げた。
「悪いな。俺はもう地上の生物じゃない」
狼が跳び上がる。
だが、今度は牙が届かない。
思わず笑った直後、残っている魔力が少ないことに気づいた。
「……まずい」
慌てて近くの枝へ降りる。
魔力が切れる直前に着地できた。
狼を見下ろすことに夢中になって、また残り時間を忘れるところだった。
そんなことを繰り返しながら、半日ほどかけて進んだ。
やがて木々が途切れ、目の前に平原が広がった。
その先には、灰色の石を積み上げた高い城壁がある。
壁の向こうから、人の話し声や荷車の音がかすかに聞こえてきた。
「……来た」
門の前には、鎧を身につけ、槍を持った衛兵たちが立っている。
ようやく、ほかの人間に会えた。
空から近づけば怪しまれる。
最悪の場合、攻撃されるかもしれない。
「よし……歩こう」
俺は地面へ降り、森から平原へ踏み出した。
人のいる町へ向かって歩いている。
それだけのことが、今はどうしようもなく嬉しい。
「俺、生きてる……」
そのとき、門の方から声が飛んできた。
「おい! 森から誰か出てきたぞ!」
衛兵たちが一斉に槍を構える。
「待て待て待て待て!」
驚いた拍子に、反射的に《飛行》を使ってしまった。
身体が1メートルほど浮かぶ。
衛兵たちが固まった。
俺も固まった。
魔力は、もうほとんど残っていない。
「違う! 今じゃない!」
微妙な高さに浮いたまま、必死に叫ぶ。
「敵じゃないです!! ただの遭難者です!!」
「……は?」
歩いて普通に町へ入るつもりが、空中に浮かぶ不審者になってしまった。
初めての人類との接触は、どう見ても失敗だった。
――現在の飛行スキル――
《飛行(Lv13)》
最高高度:20m
滞空時間:6分
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