第28話 ダンジョン攻略、意外と長い
意外と長いけどエピソードとしては短め。だって地下よりも空が舞台の物語なので
「よし。行こう」
俺たちは巨大な石造りの入口をくぐった。中は薄暗く、壁に埋め込まれた魔石らしい灯りが一定間隔で淡く光っている。少し進んだところで、前方から物音がした。
ゴブリンが数体。
「来た!」
俺が浮遊剣を出そうとした、その前だった。
クロが地面を蹴る。
一瞬。
先頭のゴブリンが倒れた。
「……クロ、つよ!?」
続けて、エリーゼが杖を向ける。
「下がっていなさい」
炎が走った。
残りのゴブリンがまとめて吹き飛ぶ。
沈黙。ルナは剣を抜いた姿勢のまま止まっている。ノアも杖を持ったまま頷いた。俺も同感だった。
「俺、何のために浮遊剣持ってきたんだろう」
エリーゼが当然のように髪を払う。クロは前足を舐めていた。余裕すぎる。
序盤は、本当にそんな感じだった。クロが前へ飛び出し、エリーゼが魔法を撃つ。たまにルナが残った敵を斬り、ノアは罠や魔力の痕跡を確認する。そして俺は――
「……これ、俺は何をすれば?」
「指示でも出したらどうですの?」
「それだ」
少し考える。
「じゃあ、クロ。前」
「にゃあ」
「エリーゼ、魔法」
「最初からそうしていますわ」
「ルナ、残りお願いします」
「はい!」
「ノア、罠よろしく」
「……ずっとやってる」
俺は満足げに頷いた。ノアは即答する。
「……ただ見てるだけの人」
「手厳しい」
ダンジョンは一本道ではなく、何度も分岐がある。似たような石壁と通路が続く。ノアが地図を書き、ルナが先を確認する。途中で宝箱を見つけたと思えば、その手前に罠があることもあった。
「止まって」
ノアがしゃがみ込む。
「……床、踏まない方がいい」
「なんで?」
「矢が飛んでくる」
「さらっと怖いこと言いますね」
飛べる俺には床の罠は相性がいい。でも全員が飛べるわけではない。俺がルナを少し浮かせ、エリーゼとノアは安全な場所を通る。こういう時は、俺の能力も便利だった。数時間進んだところで、休憩を取ることになった。外が見えないので、今が昼なのか夜なのかもよく分からない。ただ、体の疲れ方でそろそろ休むべきだと分かる。
野営道具、食料、水。全部まとめてロープで一つの荷物にしてある。俺はそれを浮かせながら運んでいた。
「ダンジョンって普通、荷物が一番つらいんですけど」
ルナが言う。
「空飛ぶ荷物持ちです」
「配達屋らしいですわね」
「本業ですから」
クロだけは荷物にもならず、好きなところを歩いている。
1日目。
1泊。
2日目。
また1泊。
3日目。
さらに1泊。
奥へ進むほど、敵は明らかに強くなり、数も増えた。エリーゼとクロだけで全部片付ける、というわけにはいかない。ルナが前衛で敵を止め、ノアが魔法で足を止める。エリーゼが大きな魔法でまとめて削り、クロが隙を突く。俺は浮遊剣を飛ばし、仲間に迫った敵を横から弾く。時には敵を天井近くまで浮かせ、そのまま落とした。
「天空落とし!」
ドンッ。
思ったより地味だった。
「……室内だと弱体化する技だな」
「当たり前ですわ」
高さが足りない。技にも向き不向きがあるらしい。
4日目。さすがに最初の勢いは消え、エリーゼが壁にもたれる。
「……思ったより長いですわね」
クロも隣で丸くなった。
「にゃあ……」
「クロまで疲れてる」
ルナが笑う。俺も笑ったけど、体は普通に重い。何度も荷物を浮かせ、何度も剣を飛ばす。狭い通路では仲間に当てないよう細かく軌道を変え、危ない時は人まで浮かせる。それを何日も繰り返していた。
そして5日目。
ルナが聞いた。
「もう、何日目でしたっけ、これ」
ノアが指を折る。
「……5日目」
「本当に5日経ってた」
「体感だと、もっと短い気がしてました」
エリーゼが俺を見る。
「あなたが暇そうにしていた時間が長かったからでしょうね」
「否定できません」
でも、ずっと暇だったわけじゃない。その証拠に、身体の奥で何かが変わった。
《飛行(Lv50)》
「……上がった」
いつもの感覚のはずだった。いや、違う。何かがおかしい。これまでなら、どこまで高く飛べるか、どれくらい長く飛べるか、どれくらい重いものを動かせるか、何個まで同時に制御できるか。その全部に、なんとなく“ここまで”という感覚があった。でも今は、それがない。
「……なんか、違う」
「どうしましたの?」
「限界が……分からない」
「無限ということですの?」
「いや、それは違うと思います。魔力は普通に減りますし」
限界がなくなったんじゃない。固定された上限が消えた。たぶん、使えるだけ使える。その代わり、使えば使うほど魔力は減る。そんな感覚だった。
「Lv50で仕様変更とか聞いてないんだけど……」
当然、誰も答えてくれない。
その少し後、通路の先に巨大な扉が現れた。今までの扉とは明らかに違う。重厚な石の表面には見たことのない紋様があり、空気まで重い。
ルナが息を吐く。
「いよいよですかね」
ノアが扉を見る。
「……たぶん、最深部」
「ようやくか……」
5日。長かった。俺たちは扉を押し開ける。広い空間に高い天井。奥の暗闇から低い唸り声が響き、何かが動く。巨大な四足の魔獣。鋼のような鱗。頭部から伸びる太い2本の角。赤黒い目が俺たちを捉え、その咆哮だけで空気が震えた。
ノアが小さく呟く。
「……ベヒモス」
「べ、ベヒモス!?」
聞いたことがある。俺の世界でも、強い怪物の名前として有名だった。
エリーゼが杖を構える。
「これは、少し骨が折れそうですわね」
ルナも剣を抜き、クロの毛が逆立つ。でも俺は、さっき変わったばかりの感覚を確かめていた。今まであった“ここまで”がない。
「……ちょうどいいかも」
「何がですの?」
「試したいことがあります」
5日かかったダンジョン攻略。
最後の敵だけは。
どうやら、あっさり終わりそうな気がした。
――現在の飛行スキル――
《飛行(Lv50)》
最高高度:――
滞空時間:――
固定上限が消失。
高度・速度・重量・持続時間・同時制御数は、使用する魔力量に依存する。ただし、魔力そのものは有限であり、無制限に飛行・制御できるわけではない。
最後まで読んでいただきありがとうござます。
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