第27話 ダンジョン攻略、やってみたい
ダンジョンって実際は暗いし怖いし、絶対行きたくないよね。
王都へ戻って数日。婚礼も無事に終わった。姫も王太子も、少なくとも俺が見た限りでは穏やかに笑っていた。護衛の仕事も終わり、配達もひと段落。久しぶりに、自分のために何かしてもいい気がした。
「……ダンジョン攻略、やってみたい」
異世界に来たら、一度はやってみたかったことだ。その勢いのまま冒険者ギルドへ行き、受付で止められた。
「登録証をお願いします」
「……そういえば俺、冒険者じゃなかった」
何度も依頼を受け、何度も魔物と戦い、ワイバーンまで倒した。なのに、正式な冒険者登録はまだだった。
「今さらですね」
受付嬢に笑われた。
「自分でもそう思います」
手続きを済ませる。結果――
《冒険者ランク F》
「……F」
「全員そこからです」
「ワイバーン倒してても?」
「規則です」
規則は強かった。目的のダンジョンについて聞く。王都から少し離れた場所にある、中規模のダンジョン。ただし――
「入場条件はDランク以上の冒険者を含むパーティです」
「俺Fなんですけど」
「ですので、Dランク以上の方と組んでください」
詰んだ。……いや、心当たりがある。
その日の午後、ルナとノアを呼び出した。
「ダンジョン?」
ルナが目を輝かせる。
「はい。一度、ちゃんと攻略してみたくて」
ノアが首を傾げる。
「……ユウマさん、登録したの?」
「今日」
「ランクは?」
「F」
少し間があった。
「……似合わない」
「俺もそう思います」
2人は最近Dランクへ上がったらしい。これなら入場条件を満たせる。
「一緒に来てもらえません?」
ルナは即答した。
「もちろんです!」
ノアも小さく頷く。
「……借りを返す、いい機会」
「助かります」
準備期間を3日取ることにした。食料、水、寝袋、回復薬、替えの装備。ダンジョンは日帰りできる保証がない。
「なんか遠足みたいだな」
「命の危険がある遠足ですわ」
横から声がした。振り返ると、エリーゼがいた。
「……なんで、ここにいるんですか?」
「わたくしも行きますもの」
「今回は配達じゃないですよ?」
「知っていますわ」
「じゃあなんで?」
「ダンジョンへ行くのでしょう?」
「答えになってない」
いつものことだった。
「冒険者登録は?」
「してありますわ」
「戦えるんですか?」
エリーゼがじろりと見る。
「幼い頃から魔法教育は受けていますわ」
「初耳なんですけど」
「聞かれませんでしたもの」
まあ、エリーゼが魔法を使えること自体はもう何度も見ている。今さら心配する方が失礼かもしれない。足元ではクロが丸くなっていた。
「お前も参加登録いらないの?」
「にゃあ」
「猫は自由だな」
ナイトストーカーだけど。
3日後、町外れの倉庫前に集合した。俺、エリーゼ、ルナ、ノア、クロ。荷物も全部揃っている。
「じゃあ、行きましょうか」
「はい!」
ルナが元気よく答える。
俺は倉庫の扉を開けた。中に置かれているものを見て、全員が止まる。7人乗りのステップワゴンをイメージした箱型の車体に、車輪はない。左右には翼を思わせる板状の飾りがあり、前面には大きな窓。座席は7人分だ。ルナが首を傾げる。
「なんですか、これ?」
ノアもじっと見る。
「……車輪のない馬車?」
「違います」
俺は胸を張る。
「空飛ぶ車です!」
「ええーっ!」
ルナの反応は満点だった。ノアは車体を見回す。
「……動力源は?」
「もちろん俺」
沈黙。
「見てください、このフォルムを! カッコいいでしょ! 貯金のほとんどをかけて作った特注品だ」
「うん、まあ確かにカッコいいですけど」
ルナが微妙な顔をし、エリーゼが腕を組む。
「でも、結局ユウマが飛ばしているのなら、普通に飛ぶのと何が違いますの?」
「分かってないな、エリーゼ様は」
「何をですの」
「これはロマンなんです」
「ろまん」
「空飛ぶ車。男なら一度は憧れるでしょう」
「わたくしは男ではありませんわ」
「だから分からないんですよ」
「腹が立ちますわね」
俺は満足だった。仕組みは単純。というか、単純すぎる。車体そのものを一つの無機物として遠隔浮遊させる。それだけだ。魔道具でも、魔力エンジンでもない。本当に俺が動力源だ。乗員は車体に乗っているだけなので、制御対象は車体一つ。理屈の上では問題ない。
問題は重量だった。車体、4人、クロ、さらに数日分の荷物。
「……重っ」
少し浮かせただけで分かる。魔力の減りが速い。
「これ、思ったより燃費悪いな」
「今さらですの?」
「設計段階では、もっと夢が勝ってました」
「現実を見なさい」
厳しい。最初は地面すれすれをゆっくり進む。問題なし。少し高度を上げても揺れはない。
ルナが窓へ張りつく。
「すごい! 本当に浮いてる!」
ノアも外を見る。
「……馬車みたいに座って移動できる。風も当たらない」
「快適でしょ?」
「……快適」
よし。俺は少し速度を上げた。ただし、全速力にはしない。車体ごと人を運ぶのは初めてだ。安全優先。それでも、徒歩や馬車よりずっと速い。景色が次々と後ろへ流れていく。
ルナが地図を見る。
「これ、もう半分以上来てません?」
ノアが頷く。
「……歩いたら半日」
「空飛ぶ車ですから」
俺は得意げに言う。エリーゼが横から見る。
「ユウマが飛ばしているだけですけれど」
「そこは言わないでください」
やがて、山裾に巨大な石造りの入口が見えてきた。古い門の奥には暗い通路が続いている。空飛ぶ車をゆっくり降ろす。
「着きました」
ルナが目を丸くする。
「もう?」
「もうです」
全員で荷物を降ろす。食料も寝袋も回復薬もある。日帰りするつもりはない。クロが入口を見て尻尾を揺らした。
「お前、楽しそうだな」
「にゃあ」
ルナが拳を握る。
「いよいよですね!」
ノアが俺を見る。
「……帰りたい?」
「まだ入ってもないですよ」
巨大な入口を見上げる。異世界に来てから、ずっと一度はやってみたかった。ダンジョン攻略。
「よし。行こう」
――現在の飛行スキル――
《飛行(Lv49)》
最高高度:500m
滞空時間:120分
できること:
・安定した高速飛行
・長距離飛行
・高速域での急上昇・急降下・急停止
・荷物を持った状態での飛行
・他者の遠隔飛行
・生物への遠隔飛行
・物体の遠隔飛行
・外部3対象まで同時制御
・無機物の位置・角度・姿勢制御
・無機物の回転制御
・回転させながらの高速移動
・浮遊剣
・ユウマ手裏剣
・天空落とし
空飛ぶ車のような大型無機物も制御可能。ただし、車体・乗員・荷物を含む総重量が大きいため、魔力消費は非常に大きい。
最後まで読んでいただきありがとうござます。
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