第24話 RPGの王道、やってきました
困ってる人を助けるのはRPGの勇者の王道ですね。
「人の命がかかっているそうです」
商業ギルドの受付嬢にそう言われ、俺はすぐに依頼人のもとへ案内された。待っていたのは、王都から少し離れた村の使いだという男だった。かなり急いできたらしく、息を切らしている。
「村がヴェノムサーペントの群れに襲われました」
「討伐は?」
「それは済んでいます。ですが……何人も毒を受けてしまいまして」
ヴェノムサーペント。名前からして、どう考えても毒蛇系のモンスターだ。
「この街の薬師様に、薬を処方していただきたいのです。できれば、ご本人ごと村までお連れいただきたい」
「距離は?」
「馬で半日ほどです」
それなら、俺ならもっと早い。
「分かりました。すぐ行きましょう」
紹介された薬師は、白髪の初老の男性だった。
「あなたが噂の空飛ぶ配達屋さんかね」
「はい。今日はよろしくお願いします」
「正直、空を飛ぶというのは初めてでね。少々緊張しておるよ」
「安全第一で飛びますので、ご安心を」
見ず知らずの人間を、命のかかった状況で運ぶ。それは今までとは少し違う。薬師本人だけではなく薬箱もある。どう運ぶか頭の中で組み立てていると――
「では、行きますわよ」
聞き慣れた声がした。振り返ると、エリーゼがいた。
「……どこへ?」
「村ですわ」
「エリーゼ、今回関係ないですよね?」
「人命がかかっていますのよ?」
「いや、それはそうですけど」
なんでいるんだ。
まあ、王都で配達を始めてからも似たようなことがあった。最近、必要がないのになぜかついてくることがある。本人に聞いても、たぶんそれらしい理由が返ってくるだけだ。
「……分かりました。行きましょう」
「最初からそう仰ればよろしいのですわ」
なぜ俺が折れた側なのだろう。街の外へ出る。今回は俺自身が飛び、薬師とエリーゼを遠隔で浮かせ、さらに薬箱も別に浮かせた。外部制御は3対象。今の俺が同時に扱える、ちょうど上限だ。
「では、浮かせます」
薬師の身体がゆっくり地面を離れる。
「おお……」
エリーゼも浮上し、薬箱がその横へ続く。
「これは……思ったより安定しておるな」
「これでも場数は踏んでますので」
高度を抑え、薬師の様子を確認しながら速度を上げていく。
「おお……これはすごい景色だ」
「怖くないですか?」
「歳を取ると、怖いものより面白いものの方が勝るのだよ」
達観している。
「わたくしも最初は怖かったですわ」
横からエリーゼが言う。
「最初から飛びたがってませんでした?」
「それとこれとは別ですわ」
そういうものらしい。
村には30分もかからず到着した。
「本当に、こんなに早く……!」
村人が驚いている間にも、薬師はすぐ患者のもとへ向かった。俺とエリーゼも後に続く。家の中には何人もの患者が寝かされていた。顔色が悪く、中には苦しそうに息をしている人もいる。薬師の表情が変わり、一人ずつ傷口と症状を確認していく。俺には何もできない。ここからは専門家の仕事だ。しばらくして、薬師が立ち上がった。
「……やはりヴェノムサーペントの毒だな」
村長らしい男性が身を乗り出す。
「治せますでしょうか」
「治せる。だが、この毒に効く薬草の持ち合わせがない」
「え」
思わず声が出た。
薬師が俺を見る。
「ここから一日以上歩いた先に泉がある。そこに生える青葉草が必要なのだ」
村長の顔から血の気が引く。重い沈黙が落ちた。
村長がうつむく。
「ああ、このままでは村のみんなが……!」
チラ。
「……」
「ああ、このままでは村のみんなが……!」
チラ。
明らかにこっちを見ている。周囲の村人まで、ちらちらとこちらを見る。
「あの、皆さん、こっち見すぎでは?」
「わたくしたちが取ってきますわ!」
エリーゼが宣言した。
「俺まだ返事してないんですけど」
「民が困っているのです。放ってはおけませんわ」
「まあ、行きますけど」
ていうか、君はやっぱりついてくるんだ。毒に苦しむ村、足りない薬草、遠くの泉まで採取に行く。
「……RPGの王道きた」
「……あーるぴーじー?」
「なんでもないです」
異世界ファンタジーに来たら、一度くらいこういうクエストをやってみたかった。状況は笑えないけど。
「薬草の特徴を教えてください」
薬師から形と色を詳しく聞く。
「俺たちが取ってきます」
「頼む。私はその間に、できる処置をしておく」
これで役割分担は決まった。薬師は患者を診る。俺は時間と距離を縮める。村人に聞いた方角へ、エリーゼと飛ぶ。徒歩で1日以上という距離も、空からなら話が違う。森と丘を越え、30分ほどで木々の間に小さな泉が見えた。
「あれですわね」
「たぶん」
泉のほとりに降りる。青みがかった葉の草が群生していた。薬師から聞いた特徴と一致する。
「これですね」
「念のため、多めに採りましょう」
二人で手分けして摘み取る。エリーゼも慣れない手つきながら、かなり真剣だ。
「貴族令嬢が薬草採取とは」
「今更ですわ。もう色々やっていますもの」
「それもそうでした」
十分な量を確保し、まとめて浮かせる。
「戻ります。少し飛ばしますよ」
「構いませんわ」
帰りは速度を上げた。ただし、薬草は傷めないよう俺たちとは別に浮かせて固定する。エリーゼと薬草なら、まだ余裕がある。
「思ったよりあっさりでしたわね」
「モンスターに襲われなかっただけ運が良かったです」
言ってから。
フラグっぽいな、と思った。
何も出るな。
何も出るな。
何も出るな。
幸い。
何も出なかった。
よし。
村へ戻ると、薬師はすぐに薬草を受け取った。刻み、煮出し、いくつかの薬と混ぜ合わせていく。俺には何をしているのかさっぱり分からない。やっぱり専門家はすごい。完成した薬が患者たちに処方される。しばらくして、苦しそうだった患者の呼吸が少しずつ落ち着き始めた。薬師が一人ずつ確認して、ようやく息をつく。
「峠は越えたようだ」
村長の肩から力が抜けた。
「ありがとうございます……!」
「もう少し遅れていれば危なかったかもしれん」
村長が俺たちへ何度も頭を下げる。
「本当に、ありがとうございます!」
「俺は運んだだけですよ」
薬師が笑った。
「あなたのおかげだよ、配達屋さん。いや、これはもう配達屋の域を超えているな」
「薬師さんを届けて、薬草を届けただけなので。配達です」
「そういうことにしておこう」
なんか納得されていない気がする。帰りの空で、薬師が王都の方向を見ながら言った。
「あなたの噂、王都に戻ったら広めておこう。困っている人が、他にもきっといる」
「あまり広めすぎないでくださいね。体は一つなので」
「善処しよう」
「期待できない返事だ」
薬師が楽しそうに笑い、エリーゼも横で笑っていた。
王都へ戻る頃には、さすがに魔力もかなり減っていた。自分で飛びながら、薬師、エリーゼ、薬箱を同時に長距離輸送。そのあと薬草を取りに高速往復。かなり飛んだ。そして――
《飛行(Lv47)》
最高高度も滞空時間も伸びている。外部制御は3対象のままだが、今日ずっと限界数を動かしたおかげか、以前より明らかに安定していた。
「戦うより、こういうので上がる方がやっぱり俺らしいな」
「配達屋ですものね」
「はい」
そこは譲れない。翌日、宿舎で朝食を食べていると、王城から使者がやってきた。
「ユウマ殿。陛下がお呼びです」
俺はパンを置く。
「……今度は何です?」
「隣国へ届けていただきたい品があるそうです」
配達。それなら話は早い。
「配達なら本業ですね」
――現在の飛行スキル――
《飛行(Lv47)》
最高高度:400m
滞空時間:100分
できること:
・安定した高速飛行
・長距離飛行
・高速域での急上昇・急降下・急停止
・荷物を持った状態での飛行
・他者の遠隔飛行
・生物への遠隔飛行
・物体の遠隔飛行
・外部3対象まで同時制御
・無機物の位置・角度・姿勢制御
・無機物の回転制御
・回転させながらの高速移動
・浮遊剣
・ユウマ手裏剣
・天空落とし
自分+外部3対象での長距離飛行と高速往復により、複数対象の同時制御がさらに安定。
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