第23話 王都でも空飛ぶ配達便、はじめました
宅急便って商標登録されてるらしいので念のため配達便にしてます。
レオンとの模擬戦の翌日、宿舎に王城から一通の書状が届いた。宛先は俺。差出人は――国王。
「……本当に話を通してくれたんだ」
謁見の際、王都でも配達の仕事を続けたいとお願いした。
その時、王様は商業ギルドへ話を通しておくと言っていた。
仕事が早い。
「王命ですもの。後回しにできる者はいませんわ」
エリーゼが当然のように言う。
「便利だけど、怖いですね」
「慣れなさい」
「慣れていいものなのかな……」
クロを肩に乗せ、商業ギルドへ向かった。王都の商業ギルドは、リンドベルのものよりずっと大きく、人の出入りも多い。受付で書状を差し出す。
「こちらを」
「はい。確認いたし――」
受付嬢の手が止まった。封蝋を見て、俺を見て、もう一度封蝋を見る。
「……陛下からのご紹介状?」
「一応、普通の配達屋なんですけど」
「普通の配達屋に陛下は紹介状を書きません」
ですよね。
紹介状があるからといって、何も聞かれず終わるわけではなかった。名前、出身、仕事内容、配達方法、取り扱う荷物。ひと通り説明する。ただし、手続きは恐ろしく早かった。
「王都内での商業活動に必要な登録は、こちらで完了です」
「もう?」
「陛下からの紹介状がございますので」
やっぱり王様、強い。
「屋号はこちらでよろしいでしょうか」
受付嬢が書類を見る。
「『黒猫ユウマの空飛ぶ配達便』」
「はい」
受付嬢の視線がクロへ向いた。
「ちなみに、屋号の黒猫とは……」
「こいつです」
「にゃあ」
「……本当に黒猫でしたか」
本当に黒猫です。たぶん。
商業ギルドの掲示板の近くに、小さな案内を出させてもらった。『黒猫ユウマの空飛ぶ配達便 急ぎの配達、承ります』その下でクロが丸くなっている。完全に看板猫だ。
「お前、馴染みすぎじゃない?」
「にゃあ」
この地方でも有数の危険種らしい猫が、完全に看板猫をやっていた。
最初の依頼はすぐに来た。貴族の使用人らしい男が、封をした書状を差し出す。
「至急、こちらを伯爵家までお願いしたい」
「場所は?」
説明を聞く。馬車なら半刻ほど。
「余裕です」
俺は書状を受け取り、外へ出る。クロを背に乗せて浮上。高度を上げると、王都の街並みが一気に広がった。石造りの建物に大通り、貴族街。遠くには王城。
「……で」
俺は止まった。
「どれだ?」
空を飛べても住所は分からない。説明された目印を探しながら飛ぶ。たぶん、あっち。いや、こっちか? 結果、目的の屋敷を一度通り過ぎた。
「空を飛べても地図がなきゃ配達できない……」
結局、予定より少し遅れて到着した。それでも馬車よりはずっと早かったらしく、依頼人には喜ばれた。
帰り道、俺は真っ先に王都の地図を買った。
「ようやく普通の配達屋らしい悩みですわね」
宿舎で地図を広げていると、エリーゼが覗き込んできた。
「空を飛べるようになってから、普通の悩みが減ってたので新鮮です」
「良かったですわね」
「良くはないです」
翌日から地図を頭に入れながら配達を続けた。大通り、商業区、貴族街、職人街。少しずつ王都の形が分かってくる。2件目の配達では、浮上した瞬間に通りがざわついた。
「あれが噂の……」
「空を飛ぶ配達屋か」
「田舎から来たっていう?」
視線が集まる。
「リンドベルでは、もう誰も見上げなかったのにな」
少しだけ懐かしい。最初の頃は、あっちでも散々見世物扱いされ、ハエとまで呼ばれた。それが今では、王都でまた最初からだ。まあ、配達が増えるなら悪くない。
エリーゼは、当然ながら全部の配達についてくるわけではない。彼女にも王都での貴族としての用事がある。だから基本は俺とクロ――のはずなのだが。
「今日は一緒に行きますわ」
ある朝。
当然のようにエリーゼが言った。
「今日、エリーゼの用事と方向逆ですよ?」
「知っていますわ」
「じゃあ、なんで?」
「たまには王都を空から見たい気分なのです」
「……それ、配達についてくる理由になってます?」
「なっていますわ」
本人がそう言うなら、たぶんなっているんだろう。こうして、必要があるわけでもないのに、なぜかエリーゼがついてくることが時々あった。その日、声をかけてきたのは上品な身なりの老婦人だった。
「あなたが、空を飛んで届けてくださる方?」
「はい」
「急ぎで届けたいものがあるのだけれど、お願いできるかしら」
場所を聞く。王都の反対側で、馬車ならかなり時間がかかる。その表情を見て、リンドベルで配達を始めた頃を思い出した。
「配達って、結局どこでも同じなんだな」
「感慨深そうですわね」
「ちょっとだけ」
「では、早く届けて差し上げなさい」
「はい」
……やっぱり、なんでついてきたんだろう。
数日後、配達の合間に王城の訓練場へ寄った。レオンとの約束があったからだ。
「約束通り、稽古をつけよう」
今日は騎竜なし。レオンは地上から、俺の飛び方と浮遊剣の動きを見ている。
「ユウマ。今の剣は動かす前に視線が先に向いている」
「分かります?」
「分かる。相手にも読まれる」
「言うは易しですね、それ」
「体で覚えるしかない」
爽やかに言う。良い人なんだけど、訓練は全然優しくない。
数時間後、俺は地面に大の字になっていた。レオンが水を差し出してくる。爽やかな笑顔で、憎めない。
王都での生活は、少しずつ形になっていった。配達、特別協力員としての訓練、レオンとの稽古、そしてまた配達。王様を飛ばし、この国でも屈指の竜騎士と戦って、その翌日には手紙を届けている。
「……うん。こっちの方が落ち着く」
「にゃあ」
クロも同意してくれたらしい。何件も王都を飛び回るうちに、建物を避ける動きも、高度調整も、短距離での加速と停止も自然になっていく。荷物を浮かせたまま運ぶことにも慣れた。そして――
《飛行(Lv46)》
「上がった」
戦闘じゃない。ただ配達を繰り返しただけだ。もちろん、レオンとの稽古もあったけど。最初に配達を始めた頃から、俺の飛行スキルはこういう使い方でもちゃんと伸びてきた。なんだか、その方が俺らしい気がする。
その日の午後、商業ギルドへ戻ると、受付嬢が俺を見つけて立ち上がった。
「ユウマさん!」
いつもと声が違う。
「どうしました?」
「至急の依頼です」
受付嬢の表情は真剣だった。
「かなり急ぎです」
「場所は?」
「その前に、依頼内容を」
一拍置いて――
「人の命がかかっているそうです」
俺は地図をしまった。
「聞きます」
――現在の飛行スキル――
《飛行(Lv46)》
最高高度:350m
滞空時間:90分
できること:
・安定した高速飛行
・長距離飛行
・高速域での急上昇・急降下・急停止
・荷物を持った状態での飛行
・他者の遠隔飛行
・生物への遠隔飛行
・物体の遠隔飛行
・外部3対象まで同時制御
・無機物の位置・角度・姿勢制御
・無機物の回転制御
・回転させながらの高速移動
・浮遊剣
・ユウマ手裏剣
・天空落とし
王都での反復飛行とレオンとの稽古により、都市部での精密飛行と短距離の加減速制御が向上。
最後まで読んでいただきありがとうござます。
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