第22話 竜騎士レオン、爽やかすぎる
さわやかイケメンは正義
翌日、王城の訓練場へ呼ばれた俺は、空を見上げていた。広い。とにかく広い。騎士たちが何人も訓練できるほどの敷地。その中央に、巨大な竜が一頭いる。青みがかった鱗に大きな翼、鋭い爪。そして、その首元を撫でている男。背が高く、爽やかな笑顔で、立ち姿にも無駄がない。……なんだこの完成度。男がこちらへ歩いてきた。
「ユウマだな?」
「はい」
「俺はレオン。レオン・カゼハヤだ」
名前まで爽やかイケメンかよ……。
「王都空中機動部隊の指揮を任されている」
「偉い人だった」
レオンが笑う。
「そんなに構えなくていい。今日はユウマが空でどう動くのか、俺自身の目で見てみたくてね」
「なんかもう、憧れの先輩みたいな喋り方ですね」
「よく言われる」
冗談めかして片目をつぶる。様になっている。ずるい。
隣のエリーゼまで感心したように言った。
「あら、なかなか感じのいい方ですのね」
「あなたまで簡単に懐柔されないでください」
「褒めただけですわ」
レオンが楽しそうに笑った。話は早かった。レオンは俺の飛び方を見るため、模擬戦を提案してきた。高度は150メートルまで。致命傷につながる攻撃は禁止で、戦闘続行不能、もしくは降参で終了。
「お互い全力を尽くそう」
爽やかな笑顔で拳を軽く差し出され、俺も合わせる。
「いや、なんでこんな爽やかに戦う流れになってるんですか」
「嫌か?」
「……ちょっと楽しみではあります」
「なら十分だ」
この人、ずるいな。開始位置へ移動し、俺は浮上して短剣を3本展開する。レオンは騎竜の背へ軽く飛び乗り、騎竜が翼を広げた。開始の合図。
次の瞬間。
「消えた!?」
横から風圧が叩きつけてきた。反射的に上へ逃げると、その直下を巨大な影が通過する。
「はやっ!?」
音が遅れて届く。俺はさらに上昇し、レオンの騎竜が追う。速い。とにかく速い。でも、すぐに分かった。速いのは竜だ。ただし、あの速度で俺の位置を読み、先回りしているのはレオン本人だ。
「これ、竜が速いだけじゃないな……!」
急降下。レオンも追う。横へ逃げても追いつかれる。急停止すると、騎竜は大きく旋回してまたこちらへ向く。無駄がない。なら、遠隔で捉えられれば。集中し、レオンと騎竜を意識の中で掴もうとする。
「……駄目だ」
速すぎる。視界には入っているのに、捉えたと思った瞬間にはもう別の場所にいる。ワイバーンより速く、しかも動きが読めない。
「天空落としは無理か……!」
「何か狙っていたな?」
レオンの声が横から聞こえた。
「気づくんですか!?」
「視線で分かる」
怖いな、この人。追いかけても無理。捉えるのも無理。だったら、相手を狙わなければいい。来る場所に先に置く。俺は短剣3本を散らし、レオンを見る。一度離れた。次に来る角度、騎竜の旋回方向、速度。
一本目を空中へ静止。
二本目を少し下。
三本目をさらに横。
レオンが加速する。
来る。
一つ目。
避けた。
二つ目。
騎竜が翼を傾ける。
三つ目。
ブンッ。
布が宙を舞った。
「……当たった?」
レオンが少し離れた場所で止まり、自分のマントを見る。端が少しだけ切れていた。そして、笑った。
「すごいな、ユウマ」
「怒らないんですか?」
「模擬戦だろ?」
爽やかすぎる。
「なら、こちらも少し速度を上げる」
「今まで本気じゃなかったんですか!?」
嫌な予感しかしない。次の瞬間、本当に見えなくなった。右――いない。上――いない。後ろ――
「ここまでだ」
首筋のすぐ横で、訓練用の槍が止まっていた。
「……参りました」
完敗だった。地面へ降りる。悔しい。悔しいはずなのに、なぜか笑っていた。
「強すぎません?」
「いや」
レオンは首を振る。
「危なかった」
「え?」
「あの剣の置き方だ。もう少し読みが正確なら、まともにもらっていた」
「それ、謙遜しすぎでは」
「本当にそう思ってる」
レオンが騎竜の首を撫でる。
「それに、俺より強い人間なら他国にもいる」
「レオンさんより強い人が?」
「セレスティア王国の剣聖、アレクシス・レイヴァン。俺は一度も勝ったことがない」
「そんな人がいるんですか」
「世界は広いよ」
レオンは俺へ視線を戻した。
「俺なら、もっと速く飛ぶことを考える」
「はい」
「ユウマは、自分ではなく相手の進路を読んで、そこへ武器を置いた」
少し笑う。
「戦い方そのものが違う。だから面白い」
「褒めすぎです、それ」
「冗談じゃなく本気だ。俺はお世辞を言わない主義でね」
「やだ、何この人。イケメンすぎない?」
思わず声に出た。
「ん? 何か言ったか?」
「いえ、なんでもないです」
フィリアもこちらへ来る。
「実力は十分確認できました」
嫌な言葉だ。実力確認。
「念のため言っておきますけど、兵士にはなりませんよ」
「分かっている」
答えたのはレオンだった。
「軍人になれとは言わない」
「じゃあ?」
「王都空中機動部隊の特別協力員になってほしい」
「特別協力員?」
「必要な時だけ、力を貸してほしい。それ以外は自由だ」
「配達の仕事を続けても?」
「もちろんだ」
即答。それなら。
「分かりました」
「助かる」
レオンが手を差し出し、俺も握り返した。
軍人ではない。配達屋のまま、必要な時だけ空の仕事を手伝う。それなら悪くない。その直後、身体の奥で感覚が変わった。
《飛行(Lv44)》
「上がった……」
レオンとの高速空戦。急上昇、急降下、急停止、横移動。その全部をしながら、短剣3本まで制御した。負荷としては相当だったらしい。飛べる高さの感覚も広がっている。今なら、300メートルくらいまで届きそうだ。もちろん、今日の模擬戦では150メートルまでしか上がっていない。あくまで、新しい上限が感覚として分かるだけだ。
「また伸びたのか?」
レオンが聞く。
「みたいです」
「ますます面白いな」
本当に楽しそうだ。帰り際、レオンが言った。
「また会おう」
「次も模擬戦ですか?」
「いや。次は稽古として」
「なんか違うんですか、それ」
「模擬戦は白黒つけるもの」
レオンは騎竜へ手をかける。
「稽古は、お互いのためにやるものだ」
そのまま軽々と背へ乗った。
「今日はよく休め。無理をしたのは、ユウマの体の方が知っているはずだ」
「はい」
騎竜が翼を広げ、一気に空へ上がっていった。最後まで爽やかだった。その夜、王都の宿舎の屋根の上で、エリーゼが隣に座っている。
「楽しかったですわ」
「見てた人はそうでしょうね」
「死ぬかと思いました」
「模擬戦ですわよ」
「気持ちの問題です」
エリーゼが少し笑う。
「でもあなた、笑っていましたわよ」
「……まあ」
否定できない。負けた。完敗だった。でも、空にはまだ上がある。それを知れただけでも、今日負けた意味は十分にあった。
――現在の飛行スキル――
《飛行(Lv44)》
最高高度:300m
滞空時間:80分
できること:
・安定した高速飛行
・長距離飛行
・高速域での急上昇・急降下・急停止
・荷物を持った状態での飛行
・他者の遠隔飛行
・生物への遠隔飛行
・物体の遠隔飛行
・外部3対象まで同時制御
・無機物の位置・角度・姿勢制御
・無機物の回転制御
・回転させながらの高速移動
・浮遊剣
・ユウマ手裏剣
・天空落とし
高速飛行中の精密制御が向上。ただし、レオンのように高速かつ不規則に動く対象は、依然として遠隔ロックが極めて難しい。
最後まで読んでいただきありがとうござます。
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