第20話 王都からのお迎え
やっぱある程度進んだら王都だよね
それから数日後。
俺はアーレンス伯爵邸に呼ばれていた。呼び出したのはエリーゼでも伯爵本人でもなく、この国――アルヴェイン王国の王都から来た騎士だった。
「失礼。名乗りが遅れました」
銀色の鎧を身に着けた女騎士が、まっすぐ俺を見る。
「王都騎士団所属、フィリア・ヴァンスと申します」
「相沢悠真です」
「存じています」
ですよね。
わざわざ王都から来てるんだし。隣ではエリーゼが、なぜか少し誇らしげな顔をしていた。
「ええ、彼ですわ」
「勝手に代表しないでください」
「事実ですもの」
フィリアが小さく咳払いする。
「今回、王都より正式な要請をお持ちしました」
嫌な言葉だ。正式、要請、王都。どれもだいたい面倒事の匂いがする。
「……先に聞いていいですか?」
「どうぞ」
「俺、何かしました?」
フィリアが一瞬だけ黙った。
「逆です」
「逆?」
「グランドセンチピードの討伐。ワイバーンの討伐。加えて、人や荷物を空中で運ぶ能力」
あ、そっちか。
「報告は王都まで届いています」
「届かなくてよかったのに……」
「それは無理でしょう」
正論。
フィリアは姿勢を正した。
「よって、王都への出頭を――」
「出頭!?」
思わず立ち上がる。
「俺、本当に何かしました!?」
「……失礼」
フィリアが少しだけ眉を寄せた。
「招聘です」
「そこ間違えたら駄目な言葉ですよ!」
エリーゼが横で笑いを堪えている。フィリアは何事もなかったように続けた。
「国王陛下が、あなたと直接話をしたいと望んでおられます」
「王様が?」
「はい」
嫌な予感が、一段階上がった。
「念のため言っておきますけど」
俺は先に釘を刺す。
「俺、兵士にはなりませんよ」
フィリアはすぐに頷いた。
「承知しています」
「俺、配達屋なので」
「それも報告にあります」
「そこまで?」
「かなり詳しく」
怖いな王都。
「今回の招聘は、軍務への就任命令ではありません」
「本当に?」
「本当です」
フィリアは淡々と説明する。
「自力で空を飛ぶ人間は、少なくとも王都では確認されていません」
「へえ」
「さらに、他者を飛ばす。荷物を遠隔で運ぶ。魔物を空中へ持ち上げる。高速で長距離移動する」
並べられると、我ながら変だな。
「そしてワイバーンを単独で討伐した」
「単独ではないです」
「?」
「クロに助けてもらいました」
「……猫に?」
「猫です」
フィリアが少しだけ困った顔をした。説明すると長いのでやめておこう。
「ともかく」
フィリアは続ける。
「陛下は、あなたの能力そのものに強い関心をお持ちです」
「戦力として?」
「それだけではありません」
「それだけ、ってことは戦力としても見てますよね」
「否定はしません」
正直な人だ。
「ですが、輸送、救助、偵察。用途は多岐にわたります」
「配達も?」
「もちろん」
そこは大事。
「ただ、最近は各地で魔物の動きが活発になっています」
「魔物?」
「魔王軍を名乗る者を見た、という報告もあります」
「魔王軍?」
「まだ真偽は確認中です。ですが、何か起きた際に、あなたのような能力がどこまで使えるのか、陛下は把握しておきたいのでしょう」
話が急に大きくなってきた。
「では、王都へ来ていただけますか」
俺は少し考えた。
王様。正直、会いたくはない。でも、断ったら断ったで、もっと面倒なことになりそうだ。
「……行きます」
「ありがとうございます」
「ただし、兵士にはなりません」
「承知しています」
二回目。
大事なので何度でも確認する。
そのときだった。
「当然、わたくしも同行しますわ」
エリーゼが即答した。
「まだ誰も聞いてませんよ?」
「聞かれる前に答えましたの」
「そういう問題ですか」
フィリアがエリーゼを見る。
「同行をご希望で?」
「ええ」
「王都までとなると、伯爵家としての許可が必要ですが」
そこで、部屋の奥にいたアーレンス伯爵が口を開いた。
「その通りだ」
エリーゼが父を見る。
「お父様」
「分かっているな、エリーゼ」
「もちろんですわ」
「王都見物ではないぞ」
「分かっています」
少しだけ、いつもの勢いが弱くなる。
伯爵はしばらく娘を見たあと、口を開いた。
「許可しよう」
「ありがとうございます!」
一気に笑顔。
「ただし、アーレンス家の名を背負っていることを忘れるな」
「はい」
きちんと頭を下げる。
こういうところを見ると、やっぱり貴族なんだなと思う。
フィリアが説明を続ける。
「王都までの旅費、宿泊先は王家側で用意します」
「高報酬とか装備支給とかは?」
「何の話です?」
「いや、なんとなく」
ちょっと期待した。
「今回はまず謁見です」
「ですよね」
世の中そんなに甘くない。
その日の話し合いが終わったあと、伯爵に呼び止められた。
「ユウマ。少しいいか」
「はい」
別室で二人きり。なんだろう。王都の注意事項かな。
伯爵はすぐには話さなかった。
少し考えるように俺を見る。
「エリーゼのことだ」
「はい」
やっぱり王都での同行についてか。
「娘は、君を随分と信頼している」
「ありがたいです」
「それだけではないように見えることもある」
「?」
伯爵が軽く息を吐く。
「エリーゼは伯爵家の娘だ」
「はい」
「君がどういうつもりであれ、周囲はそう単純には見ない」
「……王都に行く話ですよね?」
伯爵が目を閉じた。
「君はそのままでいてくれ」
「?」
よく分からない。
ただ、なんとなく非常に繊細な話をされている気はした。
その後。
俺が部屋を出たあと。
伯爵はエリーゼを呼んだらしい。
その会話を。
俺はもちろん知らない。
「エリーゼ」
「はい」
「本当に同行するのだな」
「もちろんですわ」
「理由は?」
「アーレンス家が保護してきた人物ですもの。王都で何かあれば、わたくしが説明できます」
「それだけか?」
一瞬、エリーゼが黙る。
「……それに」
エリーゼは少し視線を逸らした。
「ユウマを一人で王都へ行かせるのは、心配ですもの」
伯爵は静かに娘を見る。
「エリーゼ」
「はい」
「あの男は平民だ」
「分かっていますわ」
「仮にお前が特別な感情を持つようになれば、身分の差は簡単な問題ではない」
「……まだ、そのような話はしておりませんわ」
少しだけ間が空く。
「ですが」
エリーゼは顔を上げた。
「あの方なら、きっと身分の差くらい、なんとかしてしまいますわ」
伯爵が目を細める。
「ずいぶんと信頼しているのだな」
「ええ」
迷いなく。
「だって、ユウマですもの」
出発までの数日、俺はいつも通り配達を続けた。
王都へ行くからといって、店を畳むつもりはない。
ドムスにその話をすると、いつもの調子で聞かれた。
「王都行くなら、配達屋はどうする?」
「畳みませんよ。俺の本業ですから」
「そうか」
ドムスは少しだけ間を置いた。
「……寂しくなるな」
「帰ってきますよ」
「ならいい」
ぶっきらぼう。でも、ちょっと嬉しい。
ルナとノアにも会った。
「王都でも依頼できます?」
「料金次第です」
「そこは友情価格じゃないんですか!?」
「仕事なので」
ノアがぽつり。
「……商売人」
「褒めてます?」
「……たぶん」
怪しい。
ガレスからは「王都で問題を起こすなよ」と言われた。
「俺が問題を起こしてるみたいに言わないでください」
「起こしてるだろう」
反論できない。
出発前夜、屋敷の庭でエリーゼが隣に立っていた。
「怖いですか?」
「正直ちょっと」
王様、王都、知らない場所、面倒事の予感。
「わたくしもです」
意外だった。
「エリーゼでも怖いんですね」
「失礼ですわね」
「いや、いつも強いから」
少しだけ笑う。
「ですが」
エリーゼが空を見る。
「あなたがいれば、空は怖くありません」
「その信頼、地味にプレッシャーです」
「知っていますわ」
にっこり。
ひどい。
「王都へ行っても、配達屋は続けるんでしょう?」
「もちろん」
「でしたら」
エリーゼが俺を見る。
「あなたは、あなたのままですわ」
なんとなく、その言葉で少し気が楽になった。
翌朝、王都から用意された馬車が動き出す。
俺とエリーゼ、フィリア、クロ。正式な一行として王都へ向かう。
俺は途中、何度か馬車を離れて空へ上がった。
周囲の道や森、遠くの街道を上から確認する。
「偵察までできるのですね」
馬車へ戻ると、フィリアが感心したように言った。
「配達で慣れました」
「普通、配達で偵察能力は身につきません」
「俺もそう思います」
王都までの長距離移動、上空確認、馬車への合流を何度も繰り返す。
気づけば、あの感覚が来ていた。
《飛行(Lv42)》
「また上がった」
長距離で使い続けたせいだろう。
飛べる高さも、維持できる時間も伸びている。
「王都に着く前に成長するとは」
フィリアが言う。
「俺も予定してませんでした」
予定してレベル上げできるなら苦労しない。
そして数日後、空へ上がった俺の視界に今まで見たことのない景色が入った。
地平線の向こうには巨大な城壁、その奥には無数の建物が並んでいる。さらに、空へ伸びる尖塔は一つや二つじゃない。
「……でか」
思わず声が漏れた。
隣を遠隔で飛んでいたエリーゼが少し得意げに笑う。
「王都ですもの」
――現在の飛行スキル――
《飛行(Lv42)》
最高高度:250m
滞空時間:70分
できること:
・安定した高速飛行
・長距離飛行
・荷物を持った状態での飛行
・他者の遠隔飛行
・生物への遠隔飛行
・物体の遠隔飛行
・外部3対象まで同時制御
・無機物の位置・角度・姿勢制御
・無機物の回転制御
・回転させながらの高速移動
・浮遊剣
・ユウマ手裏剣
・天空落とし
長距離飛行時の安定性と持続時間が向上。
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