第19話 クロの正体と、エリーゼの小言
苦肉の策!
でもクロは話しませんし、飛びませんよ。
そこは守ります
第19話 クロの正体と、エリーゼの小言
翌日。
宿の部屋で、俺はクロと向かい合っていた。
「……なあ、クロ」
「にゃあ」
「猫って、ワイバーンに飛びかかるっけ?」
「にゃあ」
「聞いた俺が悪かった」
昨日の光景が頭から離れない。
ワイバーンの突進。
避けきれない距離。
そこへ。
木の枝から飛び込んできた黒い影。クロはワイバーンの顔面へ体当たりし、爪で目元を切り裂いた。
その隙がなければ、かなり危なかった。
「お前、普通の猫じゃないだろ」
「にゃあ」
「やっぱり会話にならないな」
クロは何事もなかったように前脚を舐め始めた。
そういえば、昨日の行商人もクロを見て何か言いかけていた。
『その猫……』
あの反応。
やっぱり何かある。
「よし」
俺は立ち上がった。
「調べに行くか」
クロを連れて、冒険者ギルドへ向かった。
受付で事情を話すと、職員がクロをじっと見る。
「昨日のワイバーン討伐に関わった猫、ですか」
「猫です」
「……猫ですよね?」
「俺もそう思ってたんですけど」
言いながら不安になる。
職員は奥から別の職員を呼び、さらに古い魔物図鑑まで持ってきた。
クロはというと、受付台の上で丸くなり、完全にくつろいでいる。
「特徴は?」
「黒い毛。最近かなり大きくなりました」
「身体能力は?」
「ワイバーンに飛びかかりました」
職員の手が止まる。
「今まで人を襲ったことは?」
「ないです」
「魔物は?」
「昨日ワイバーンを」
「それは聞きました」
ですよね。
しばらく資料をめくったあと、職員が1枚のページで手を止めた。
「……可能性が高いのは、これですね」
俺ものぞき込む。
描かれていたのは、鋭い目と長い尾を持ち、妙に堂々とした黒い大型の猫型魔物。
「ナイトストーカー?」
「ええ。この地方でも、特に危険とされる猫型魔物です」
「危険種……」
クロを見る。
クロは受付台の上であくびをした。
説得力がない。
「ただ」
職員が続ける。
「成体のナイトストーカーは、もっと大きいです。体格も違います」
「じゃあ、クロは?」
「毛並み。成長速度。身体能力。かなり一致しています」
少し考えて、職員は言った。
「おそらく、ナイトストーカーの幼体でしょう」
「幼体……」
俺はもう一度クロを見る。
「お前、子猫だったのか」
「にゃあ」
見た目はもう普通の猫より大きいけど。
そのとき、後ろから聞き覚えのある声がした。
「え、その子そんなにすごい子だったんですか!?」
振り返ると、ルナとノアだった。
昨日の怪我は軽かったらしく、2人とも今日は普通に歩いている。
「聞いてたんですか?」
「途中から!」
ノアがクロを見る。
「……やっぱり」
「やっぱり?」
「……道理で、ワイバーンが警戒してた」
「気づいてたんですか」
ノアは少し間を置く。
「……冒険者の勘」
「便利な言葉ですね、それ」
ルナはクロの前へしゃがみ込む。
「でも、こんなに可愛いのに」
「にゃあ」
クロがルナの手へ頭を寄せる。
危険種らしい。
「……本当に?」
思わずもう一度聞いてしまった。
職員が俺を見る。
「どうします?」
「どうするって?」
「ナイトストーカーだとすれば、今後さらに大きくなる可能性があります。危険性も――」
「でも、クロはクロですよね」
口から自然に出た。
職員が少し黙る。
俺はクロを見る。
町の路地で出会い、いつの間にかついてきて、配達にも一緒に来て、昨日は俺を助けてくれた。
「今まで俺や誰かを襲ったこともないですし」
「にゃあ」
「むしろ昨日は助けられました」
職員はしばらく考えた。
「……現時点で問題を起こしていないなら、こちらから何かすることはありません」
「よかった」
「ただし、何か変化があればすぐ報告してください」
「分かりました」
横でルナが小声で言う。
「普通に飼っていいんだ……」
俺も少し思った。
ギルドを出たあと、一度宿へ戻ろうとした。
ところが、その前に呼び止められた。
「ユウマ」
聞き覚えのある声に嫌な予感を覚えながら振り返ると、エリーゼが立っていた。
笑っている。……なのに、怖い。
「こんにちは」
「こんにちは、ではありませんわ」
ですよね。
「昨日」
一歩。
「ワイバーンと」
もう一歩。
「戦ったそうですわね?」
「……誰から聞きました?」
「町中で噂になっていますわ」
情報が早い。
エリーゼは腕を組む。
「以前、申し上げましたわよね?」
「……何をでしょう」
「危険な場所へ行くなら、一声かけなさいと」
以前、確かに言われた。
「今回は向こうから来たんです!」
「屁理屈ですわ」
即却下。
「いや、本当に配達中だったんですよ」
「それは理解しています」
「じゃあ――」
「だからといって、危険ではなかったことになりますの?」
「……なりませんね」
「よろしい」
逃げ道がない。
「でも」
つい言ってしまった。
「勝ちましたよ」
エリーゼの目が細くなる。
言った瞬間に失敗したと分かった。
「勝てば、危険ではなかったことになりますの?」
「……なりませんね」
「先ほども同じことを申し上げましたわよね?」
「はい」
完全敗北。
エリーゼが近くのベンチへ腰掛けると、クロが足元へ寄っていき、ひょいと当然のように膝へ乗った。
エリーゼは説教を続けながら、普通にクロを撫で始める。
「それとクロ。あなたもですわ」
「にゃあ」
「勝手にワイバーンへ飛びかかるなんて、危険ですのよ」
「にゃあ」
「返事だけは立派ですのね」
俺は思わず言う。
「俺より扱い優しくないですか?」
「気のせいですわ」
絶対違う。
そういえば、クロのことをまだ話していなかった。
「エリーゼ」
「何ですの?」
「クロ、ナイトストーカーの幼体らしいです」
撫でていた手が止まった。
「……ナイトストーカー?」
「知ってるんですか?」
「知っていますわよ。有名な魔物ですもの」
エリーゼがクロを見る。
クロも見る。
しばし。
沈黙。
「……本当に?」
「俺も同じこと言いました」
「にゃあ」
クロだけ平常運転。
「危険なんですか?」
「成体なら、相当ですわ」
「やっぱり」
「ですが」
エリーゼはクロの頭を撫でる。
「この子は今まで、あなたを守ってきたのでしょう?」
「はい」
「人を襲ったことは?」
「ありません」
「でしたら、少なくとも今すぐ騒ぐ必要はありませんわ」
冷静だ。
「ただし」
エリーゼが俺を見る。
「どこまで大きくなるかは、気になりますわね」
俺もクロを見る。
「そこなんですよ」
最近、明らかに成長している。
「これ以上大きくなったら、肩に乗れなくなるな」
「その心配ですの?」
「重要ですよ」
「もっと別の心配をなさい」
また小言が増えた。
しばらくして、エリーゼの怒りも少し落ち着いたらしい。クロは完全に膝の上で寝ている。
エリーゼが静かに言った。
「ユウマ」
「はい」
「次からは」
少し間を置く。
「危険なことがあったら、ちゃんと話してくださいませ」
さっきまでの説教とは少し声が違った。
「あの」
「何ですの?」
「心配してくれてます?」
「当然でしょう」
即答。
俺の方が返事に困った。
「善処します」
「約束してください」
「……分かりました」
「本当に?」
「本当です」
エリーゼはようやく満足そうに頷いた。
その膝の上では、この地方でも有数の危険種らしい猫が気持ちよさそうに喉を鳴らしている。
「……危険種って、なんだっけ」
「何か仰いました?」
「何でもないです」
――現在の飛行スキル――
《飛行(Lv40)》
最高高度:200m
滞空時間:60分
できること:
・安定した高速飛行
・荷物を持った状態での飛行
・他者の遠隔飛行
・生物への遠隔飛行
・物体の遠隔飛行
・外部3対象まで同時制御
・無機物の位置・角度・姿勢制御
・無機物の回転制御
・回転させながらの高速移動
・浮遊剣
・ユウマ手裏剣
・天空落とし
最後まで読んでいただきありがとうござます。
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