第17話 ユウマ手裏剣
なんかすみません。どうしてもやりたくなっちゃうんですよ。こういうネタ。
どこを向いても、刃がある形。切っ先を毎回ぴったり相手へ向けなくても、どこかが当たればいい。
四方に刃があり、投げて使う形。俺はしばらく考えた。
「……あ、これ手裏剣だわ」
閃いてしまった。
それも、普通の小さいやつじゃない。もっと大きくして、遠隔で飛ばして回転させたら……。
「……絶対カッコいい」
問題はそこじゃない気もするけど、大事だ。
その日のうちに、町の鍛冶屋へ向かった。
「変わった注文だな」
鍛冶屋が、俺の描いた簡単な図を眺める。
十字形で四方に刃。中心は厚め。
大きさは、端から端まで1メートル以上ある。
「投げて使う武器か?」
「そんな感じです。できれば、1メートル以上で」
「作れなくはないな」
鍛冶屋が図をもう一度見る。
「1週間くれ」
「お願いします」
財布を出しながら、ふと思った。
「ムカデ代が、まさか手裏剣になるとはな……」
「ムカデ?」
「こっちの話です」
1週間後。
出来上がったものを見て、俺は言葉を失った。
四方へ伸びる黒い刃。
中央は少し厚く、握れる程度の空間もある。
「こ、これは……」
厨二心が静かに、しかし確実に疼いた。
「忍者みたいだ。あの闇多きイケメンが使ってたやつ……」
「何の話だ?」
「独り言です」
受け取ると思ったより重く、普通に投げるには明らかに大きすぎる。でも、俺は普通に投げるつもりはない。
町外れの人がいない場所まで来た。
周囲を確認する。
右。
左。
後ろ。
「よし。誰も見てないな」
十字の刃を持ち上げる。
まずは普通に投げてみる。
「ユウマ手裏剣、えい!」
投げた。
ブンッ。
一応、回転しながら飛ぶ。
狙いは目の前の木。
ズブッ。
刺さった。
刺さったけど。
「……なんか、思ってたのと違う」
刃の一部が中途半端に食い込んだだけだった。
俺が想像していたのは、もっとこう、シュバババッ! と触れたものを切り裂く感じだ。
現実は、ズブッ。地味だ。
「名前負けしてるな……」
そのとき、背後から声がした。
「ユウマ手裏剣ってなんですの?」
「へあっ!?」
振り返ると、エリーゼがいた。
「エ、エリーゼ!? いつから!?」
「今さっきですわ」
「よかった。見られてなかった」
「投げるところは見ていませんが」
助かった。
「それで」
エリーゼが首を傾げる。
「ユウマ手裏剣ってなんですの?」
逃げ場はなかった。
やだ恥ずかしい。
土遁の術使いたい。
そんな都合のいい術は、まだ習得していない。
「……新しい武器です」
「なぜ自分の名前を付けたのです?」
「そこは聞かないでください」
「気になりますわ」
「お願いだから流してください!」
翌日から、ユウマ手裏剣の改良――というより、操作訓練を始めた。
問題はすぐ分かった。
「回転が足りない」
飛ばすだけならできる。
これまでに、物を正確に動かす練習はかなりした。
でも、ただ前へ飛ばすだけでは普通の刃物と大差ない。
手裏剣なら、回らないと。
「じゃあ、回してみるか」
浮かせる。
回転させる。
くるっ。
ガクン。
落ちた。
「……難しい」
もう一度。
浮かせる。
回す。
今度は半回転。
落ちる。
「右を見ながら左を見るみたいな難しさだな」
移動させる制御と回転させる制御を同時にやろうとすると、意識がぶつかる。
ふと、昔見た漫画を思い出した。
ラーメンの具の人も、こんな気持ちだったのだろう。そういえば、あの人は2人に増えてやってたな。
俺は2人には増えられない。
横になぜかいる人ならいるけど。
「今、何か余計なこと考えましたわね?」
「なんで分かるんですか」
この人、妙に鋭い。
そこで気づいた。
「そうだ!」
Lv35になって、小さな無機物なら3つまで同時に制御できる。
だったら、対象そのものは一つでも、意識の使い方を分ければいい。
「進む方向を制御する感覚と、回す感覚を別々に持てば……」
「そんなことできますの?」
「やってみます」
右手を前へ。
飛ばす。
左手を横へ。
回す。
もちろん手を動かす必要なんてない。でも、イメージしやすい。
「浮け」
手裏剣が浮く。
「進め」
前へ。
「回れ」
くるっ。
今度は落ちない。
「おお!」
さらに、くるくると少しずつ速くなる。
「できた!」
まだ遅く、ぎこちない。それでも、飛ばしながら回った。
「これならいけそうだ」
エリーゼが手裏剣を見る。
「随分、嬉しそうですのね」
「男の夢です」
「理解できませんわ」
「でしょうね」
それから数日。
配達の合間に、ひたすら練習した。
最初は回転させると速度が落ちた。次は速度を上げると回転が崩れ、その次は方向転換しようとして落とした。一つずつ慣らしていく。
回す。
飛ばす。
止める。
戻す。
また回す。
2日目には、回転だけならかなり安定した。
3日目。
回転したまま直進。
4日目。
速度を上げる。
5日目。
高速回転したまま、狙った位置へ飛ばす。
そして。
キィィィン――。
鋭い風切り音が鳴った。
「お……おお……」
目の前でユウマ手裏剣が高速回転している。
完全に安定している。
「できた……!」
これはかなりカッコいい。
俺は高速回転する手裏剣の下へ移動する。
片手を添えるように構えた。
もちろん触ってはいない。
ただのポーズだ。
でも。
「カッコいい!!」
ラーメンの具の人。
七つの珠を集める漫画の、髪のない人。男なら一度はやってみたいポーズだ。
たぶん。
「何をしてるんですの?」
「今いいところなんで、ちょっと黙っててもらえます?」
「嫌ですわ」
ですよね。
少し離れたところに太い木が立っている。
「試してみるか」
高速回転を維持。
狙いを定める。
飛ばす。
ここは、やっぱりあの言葉しかない。
「菜っ葉よけろーーー!!」
手裏剣が飛ぶ。
エリーゼが即座に言った。
「あれは菜っ葉ではありませんわ。木ですわ」
「知ってます!」
次の瞬間。
ギィンッ!
高速回転した刃が木の幹へ食い込んだ。
ズガッ!
幹に大きな裂け目が走る。
完全に切断はしていない。でも、かなり深い。
「……おお」
思っていたより威力がある。
普通に投げた時とは、まるで違う。
「これが異世界補正か」
「イセカイってなんですの?」
「説明すると長いです」
「では後で聞きますわ」
「聞くんだ……」
ただ、これで何でも切れるわけじゃない。
高速回転させながら高速で飛ばし、しかも狙った場所へ当てる。
それだけで、かなり集中力を使う。試しに2枚同時にやろうとしてみた。
回転。
飛行。
もう一枚も回転。
「……無理」
一枚がふらついた。
慌てて停止させる。
「今は1枚が限界だな」
3つまで浮かせられる。それと、1枚の武器を高速回転させながら正確に飛ばせる。
この二つは、別の話らしい。
数日間、ひたすら回転と高速移動を繰り返した結果、身体の奥でまたあの感覚が来た。
《飛行(Lv37)》
「上がった」
感覚が軽くなる。
回転。
移動。
停止。
方向転換。
それぞれの制御が、少しずつ干渉しにくくなった気がする。俺はユウマ手裏剣を浮かせる。
高速回転。
そのまま前へ。
止める。
戻す。
「……かなり安定したな」
エリーゼが腕を組む。
「ようやく武器らしくなりましたわね」
「褒めてます?」
「今回は褒めていますわ」
珍しい。
ユウマ手裏剣を手元へ戻す。
天空落とし、浮遊剣、そしてユウマ手裏剣。
前にワイバーンと遭遇したとき、俺は空へ逃げて追われ、どうにか振り切るしかなかった。
でも。
今なら。
俺は森の向こうを見る。
「あいつと、もう一回遭遇したら……」
勝てるとは、まだ言えない。
ワイバーンは速い。
しかも、空中では不規則に動く。遠隔で捉え続けるのは難しい。
それでも。
「前みたいに、逃げるだけでは終わらないかもな」
少なくとも、戦うための手札は増えていた。
――現在の飛行スキル――
《飛行(Lv37)》
最高高度:170m
滞空時間:50分
できること:
・安定した高速飛行
・荷物を持った状態での飛行
・他者の遠隔飛行
・生物への遠隔飛行
・物体の遠隔飛行
・外部2対象まで同時制御
・小型の無機物なら3対象まで同時制御
・無機物の位置・角度・姿勢制御
・無機物の回転制御
・回転させながらの高速移動
・浮遊剣
・ユウマ手裏剣
・天空落とし
高速回転と高速移動の同時制御が安定。ただし、高負荷の回転武器を複数同時に扱うのはまだ難しい。
最後まで読んでいただきありがとうござます。
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