第16話 浮遊剣はじめました
剣を飛ばして敵を倒すってすごいありきたりだと思うんですが、意外と思い出せないですけど、だれかいます?
第16話 浮遊剣、はじめました
先日の素材回収で、無機物を遠隔で動かせることは分かった。
ただし、浮かせるだけなら簡単でも、正確に動かすとなると途端に難しくなる。
だから俺は町外れの訓練場に来ていた。地面に座り込み、その前に置かれた訓練剣を眺める。隣では、エリーゼが腕を組んでいた。
「いつまでも“落とすだけ”では芸がありませんわ」
「十分強いと思うんですけど」
「優雅ではありません」
「そこ重要ですか」
「重要ですわ」
即答だった。
でも、今回は俺も少しだけ同意している。昨日、ムカデの外殻を袋に入れるだけであれだけ苦労した。もっと正確に物を動かせるようになれば、できることは増えるはずだ。
俺は地面の訓練剣を見る。
刃は潰されている。
これなら多少失敗しても、いきなり大惨事にはならない。
たぶん。
「外殻より剣の方が、精密操作の練習にはちょうどいいか」
「珍しく自主的ですわね」
「一応、俺も色々考えてはいるんです」
「意外ですわ」
「その反応やめてもらえます?」
集中し、剣を捉える。
「浮け」
ふわっ。
訓練剣が地面から離れた。
30センチ。
1メートル。
そのまま空中で静止。
ここまでは簡単だ。
昨日、何度も外殻を運んだ。
問題は、この先。
「ちょっとカッコよくない?」
「ポーズを取りなさい」
「そこ乗ってくるんですね」
言われるまま、片手を前へ伸ばす。
その横に剣を浮かせる。
……確かにちょっとカッコいい。
「では、右へ」
「はい」
剣がゆっくり右へ動く。
「左」
戻す。
「前」
進む。
「止める」
止まる。
「上」
上がる。
「下」
下がる。
ここまでは、まあいい。
エリーゼが剣を指差した。
「では、切っ先をあちらへ向けてくださいませ」
「了解」
剣を横向きにする。
……つもりだった。
ぐるん。
「おっと」
剣が1回転した。
「もう一度」
集中する。
少しずつ角度を変える。
切っ先が右へ。
行きすぎた。
戻す。
今度は少し上。
「難しいな、これ……」
浮かせて動かし、止めるだけならできる。でも、角度と向きと姿勢の三つを同時に考えると、一気に難しくなる。
「もう少し右ですわ」
「分かってます」
「行きすぎましたわ」
「分かってます!」
剣がふらつく。
次の瞬間。
ブンッ!
俺の頭の横を横切った。
「危なっ!?」
反射的にのけぞる。
訓練剣が地面へ落ちる。
エリーゼが冷静に言った。
「自分を斬ってどうしますの」
「俺もそう思います!」
刃を潰した訓練剣で本当によかった。
それから配達の合間を使って、毎日のように練習した。
1日目。
剣を浮かせる。
前へ。
止める。
横へ。
戻す。
3日目。
剣を水平に保つ。
切っ先を右へ。
左へ。
上へ。
下へ。
5日目。
地面に立てた木の板へ向ける。
「今」
剣が飛ぶ。
ガン!
板の横へぶつかった。
「……刃じゃなくて横腹が当たった」
「棍棒ですわね」
「剣です」
7日目。
固定した藁束を狙う。
切っ先を合わせる。
ゆっくり。
まっすぐ。
「いけ」
剣が飛ぶ。
ズッ。
切っ先が藁束へ刺さった。
「おお!」
初めて、ちゃんと剣らしく刺さった。
「できましたわね」
「やっとですよ」
「動かない的ですけれど」
「今それ言います?」
エリーゼは少しだけ笑った。
腹立つ。
そして練習を始めて10日ほど経った頃、剣を動かす速度そのものはかなり上がっていた。
前。
後ろ。
左右。
上下。
停止。
そこまでは問題ない。
角度も、以前よりずっと安定した。
ただ、動く相手となるとまだ別だった。
ちょうどその日。
訓練場から少し離れた場所で、ゴブリンと遭遇した。
「実戦ですわね」
「なんでちょっと嬉しそうなんですか」
ゴブリンがこちらへ突っ込んでくる。
訓練剣を浮かせる。
切っ先を向ける。
「いけ!」
剣が飛ぶ。
速い。速度だけなら十分だが、ゴブリンが一歩横へ動いただけで角度がズレる。
ガキン!
柄が肩に当たった。
「……あ」
ゴブリンが怒る。
「これ、狙い合ってないな!?」
もう一度、剣を回り込ませる。
今度こそ切っ先を向けたつもりだった。
ガツン!
剣の横腹がゴブリンの頭に直撃した。ゴブリンが白目を剥いて倒れる。
沈黙。
「……刺さってはいない、けど倒れた」
「殴打ですわね、もはや」
「フォローになってないです」
「フォローしたつもりはありませんもの」
正直すぎる。
その後も練習は続いた。
速く動かすのは得意で、止めるのもできる。でも、狙った角度で当てるのは難しい。切っ先を向けたつもりでも、ほんの少しズレる。その少しが、動く相手では大きい。
そして結果は、柄、横腹、また柄。
「これ、剣である意味あります?」
「棍棒として運用してはいかが」
「せめて剣らしく戦わせてください」
「あなたの操作精度の問題ですわ」
「褒めてます?」
「貶していますわ」
正直な返答だった。
さらに数日。
固定された藁束なら、かなりの確率で狙った場所へ刺せるようになった。木の板にも、角度を合わせて当てられる。
だが、動く敵はやはり難しい。
その違いを確かめる機会は、意外と早く来た。森の近くで、今度はオークと遭遇した。
「まっすぐ来ますわよ! 落ち着いて狙いなさい!」
エリーゼが後ろから声を飛ばす。
「分かってます!」
剣を上空に待機させる。
オークが走ってくる。
固定された的とは違う。
上下に揺れ、左右にもぶれる。
切っ先を慎重に合わせる。
「今度こそ……!」
剣を飛ばす。
ブンッ!
狙いは胸元。だが、直前でオークが身体をひねった。
切っ先が肩を浅くかすめる。
「かすっただけ!?」
「動く的に当てるのは、思ったより難しいものですわね」
「他人事ですね!」
オークがさらに迫る。
剣を引き戻す。
もう一撃。
今度は。
ガツン!
柄の側面が側頭部へ直撃。
オークがよろめいた。
「また鈍器運用だ……」
「結果オーライですわ」
「そういう問題ですか!?」
よろめいたところへ、もう一度。
今度は横腹、さらに柄。結局、オークは何度も剣で殴られてその場に倒れた。
俺は肩で息をする。
「口出しだけで戦った気になってません?」
「わたくしは指揮官ですもの」
「いつの間に昇格したんですか」
エリーゼは満足そうだった。
こっちは汗だくだ。
でも、一つ分かった。止まった的を刺すことより、動く相手に当てることの方がずっと難しい。
それでも10日以上、何度も何度も剣を浮かせ、止め、向きを変え、角度を合わせ、飛ばし続けた。
その積み重ねは、無駄ではなかった。
《飛行(Lv35)》
「上がった」
身体の奥で、また感覚が変わる。
一つの剣。
二つの剣。
そして。
地面に置いてあった短剣を3本見る。
「……これ、いけるか?」
集中し、3本同時に捉える。
ふわっ。
短剣が3本、地面から浮いた。
「おお……」
1本、2本、3本と俺の周囲に並ぶ。
完全に止める。
ゆっくり右へ。
左へ。
少し上。
下。
3本とも動く。
まだ速く動かしたり、別々に細かい軌道を取らせたりするのは難しい。
でも、浮かせて並べ、ゆっくり動かすところまではできる。
「……これ、もう飛行っていうより念力じゃないか?」
3本の刃が、自分の周囲に浮いている。
まずい。
めちゃくちゃ男心をくすぐる。
「何をにやにやしていますの?」
「いや、ちょっとカッコいいなって」
「またですの?」
「重要なんですよ、こういうの」
エリーゼには理解されなかった。
俺は3本の短剣を見る。
切っ先を正確に向けるのは、まだ難しい。特に動く相手だと、ほんの少しのズレが致命的になる。
なら。
ふと思う。
切っ先を向ける必要そのものを減らせないだろうか。
どこを向いても当たりやすい形。
「……形を変えたら、もっと使いやすくできるんじゃないか?」
頭の中に、何かの形がぼんやり浮かび始めていた。
――現在の飛行スキル――
《飛行(Lv35)》
最高高度:150m
滞空時間:45分
できること:
・安定した高速飛行
・荷物を持った状態での飛行
・他者の遠隔飛行
・生物への遠隔飛行
・物体の遠隔飛行
・外部2対象まで同時制御
・小型の無機物なら3対象まで同時制御
・無機物の位置・角度・姿勢制御
・天空落とし
無機物の精密操作が向上。
ただし、高速移動中の対象や動く標的への正確な武器制御はまだ難しい。
最後まで読んでいただきありがとうござます。
評価とブックマークで応援いただけると、執筆(は終わってるから投稿かな)の励みになります!
よかったらインスタも見ながら楽しんでください
https://www.instagram.com/yuma.ochitara?stkn=dzl3cXJtMmg0bmkx




