第15話 素材回収は気持ち悪い
素材ってあるあるだけどほんとどこに使ってるか書かれてるアニメってほとんどないよね。
翌日。
俺は再び、昨日の廃坑へ向かっていた。
目的はもちろん、グランドセンチピードの素材回収。昨日は戦うだけで精一杯だったから、今日はその後始末だ。
廃坑の入口付近へ降りる。
「うわ、気持ち悪……」
思わず声が出た。
砕けた黒い外殻と巨大なムカデの残骸。昨日よりは多少ましになっている。でも、見たくないものは見たくない。
「これを、素手で拾えと……」
ギルドマスターの顔が頭に浮かぶ。
『外殻がいい素材になる』
言うのは簡単だ。
拾うのは俺なんですけど。
しゃがみかけて、止まる。
「……いや」
俺は外殻を見る。
人も魔物も遠隔で浮かせられた。
「物だって、いけるんじゃないか?」
手を触れずに、対象を捉える。
外殻の破片を一つ。
「浮け」
ふわっ。
黒い外殻が地面から浮いた。
「おお」
できた。
今まで人や魔物に使っていた感覚と、ほとんど同じだ。
ただし、生き物よりも反応が妙に素直だった。
当然だけど、外殻は暴れないし逃げない。
「不幸中の幸い、ここで役に立つとは」
そのまま袋の上まで移動させる。
あとは中へ落とせばいい。
簡単。
……のはずだった。
「そこ。もう少し右……」
外殻が袋の口を通り過ぎる。
「違う違う。戻れ」
今度は左へ行きすぎる。
「そこじゃない。入れ、入れって!」
何度かやり直して、ようやく袋の中へ。
ぼすっ。
「……何をムカデの殻に説教してるんだ、俺は」
浮かせるだけなら簡単。
でも、思った位置へ正確に動かすとなると話は別らしい。
試しに、もう一枚。
今度は二つ同時。
外殻を二枚捉える。
ふわり。
両方とも浮いた。
「いける」
Lv31になって、外部対象は2つまで。戦闘では人を二人同時に飛ばした。
物でも同じらしい。
右と左の外殻を別々に動かす。
「こっちを先に……いや、そっちじゃない!」
片方に意識を向けると、もう片方が微妙にずれる。袋の口に一枚が引っかかった。
「だからそこじゃないって!」
とにかく地味だ。
グランドセンチピードを空から落とした時とは、まるで違う。
でも、こっちの方が難しいかもしれない。
しばらく外殻と格闘した。
一枚、二枚と浮かせ、移動させ、袋に入れる。
繰り返すうちに、少しずつ操作が滑らかになっていく。最初は袋の口に何度もぶつけていたのに、今ではほぼ狙った位置へ動かせる。
「……慣れてきたな」
戦闘ではなく、ただの素材回収。それなのに、飛行スキルの使い方としてはかなりいい練習になっている気がする。
そしてようやく、使えそうな外殻を回収し終えた。
「終わった……もう二度とやりたくない」
昨日も似たようなことを言った気がする。
たぶん明日も言う。
袋を閉じる。かなり重い。普通なら担いで帰るところだけど、今日は違う。
袋そのものを浮かせる。
「よし」
俺が飛ぶ。
その横を、素材の入った袋がついてくる。こういう使い方なら、かなり便利だ。運送屋としては、むしろこっちの方が本業に近い。
「戦うより、やっぱりこっちだな」
空を飛びながら、しみじみ思った。ギルドへ戻ると、ギルドマスターが目を丸くした。
「おお、本当に持ってきたか」
「頼んだのそっちですよね?」
「いや、そうなんだが」
素材鑑定士が袋の中を確認する。一枚ずつ外殻を取り出しながら、何度も頷いた。
「状態はあまり良くありませんね」
「落としたので」
「でしょうね」
即答された。
「ですが、量があります。それにBランク級の魔物の甲殻は、そう簡単に市場へ出ません」
査定が終わる。
提示された金額を見て、俺は二度見した。
「これ、本当にこんなにもらっていいんですか?」
ギルドマスターが頷く。
「妥当な額だ」
気持ち悪さに耐えた甲斐はあった。
たぶん。
その時。
「あ、ユウマさん!」
聞き覚えのある声。
振り返ると、ルナとノアがいた。昨日の依頼報告の続きで、ギルドに来ていたらしい。
「素材、回収してきたんですか?」
「してきました」
「……顔、疲れてる」
「精神的に削られました」
二人も査定額を見て目を丸くする。
「すごっ! 儲かってますね!」
「……気持ち悪かった分、報われてよかった」
「気持ち悪かった記憶は、お金では消えないんですけどね」
俺は受け取った金額を確認する。
そして、三等分した。
「はい」
ルナが固まる。
「え?」
「二人の分です」
「ええっ!? 私たちの分もあるんですか!?」
「ありますよ」
ノアも首を傾げる。
「……でも、大型を倒したのはユウマさん」
「大型を倒したのは俺でも、依頼を終わらせたのは三人ですから」
ノアが卵を焼き、ルナが逃げてきた幼体を止めた。俺一人だったら、あの後どうしていたか分からない。
「今回は俺の担当が派手だっただけです」
ルナが嬉しそうに笑う。
「太っ腹!」
「……ありがとう」
二人が受け取る。
それでも、俺の手元には十分な額が残った。
「気持ち悪い仕事って、儲かるんだな……」
「それ、仕事選びの基準にしない方がいいですよ」
ルナに正論を言われた。
ギルドを出る。
夕暮れの町を歩きながら、今日の作業を思い返す。
「今日はいい仕事……だったのか、これ」
報酬は良く、素材も回収し、依頼も完全に終わった。でも、一番気になったのはそこじゃない。
外殻を浮かせたときの感覚。
持ち上げるだけなら簡単だった。
移動させることもできる。
二つ同時にも扱えた。
ただ、正確に動かすとなると一気に難しくなる。袋の口へ入れるだけで、あれだけ苦労した。
「もっと繊細に動かせたらな……」
今までの使い方は単純だった。飛んで、浮かせて、持ち上げて、落とす。
天空落としは強い。でも、全部を地面へ叩きつければいいわけじゃない。
もっと自由に、もっと正確に物を動かせるようになったら、何か別のことができる気がする。
その瞬間、身体の奥でいつもの感覚が走った。
《飛行(Lv33)》
「また上がった」
素材回収で?
少し複雑だ。
でも、外殻を何度も遠隔操作したことで、無機物を扱う感覚がはっきり変わっている。
浮かせ、運び、簡単に方向転換させる。そこまではかなり安定した。
ただし、狙った角度や位置、細かな動きはまだ甘い。
「……練習するか」
戦闘のためというより、力をちゃんと使えるようになるために。
――現在の飛行スキル――
《飛行(Lv33)》
最高高度:140m
滞空時間:40分
できること:
・安定した高速飛行
・荷物を持った状態での飛行
・他者の遠隔飛行
・生物への遠隔飛行
・外部2対象まで同時制御
・天空落とし
・物体の遠隔飛行
無機物への基本操作は安定。
ただし、精密な位置・角度・姿勢制御はまだ難しい。
最後まで読んでいただきありがとうござます。
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