第14話 廃坑のムカデ
インスタにノアとルナとイラスト載せますね。
ノアがお気に入りです。
数日後。
ガレスから呼び出された俺は、冒険者ギルドへ向かった。受付の奥では、ギルドマスターが待っていた。
「登録の話じゃない。単発の依頼だ」
「よかった。まだ登録する心の準備はできてないので」
「別に覚悟が必要なものでもないがな」
差し出された依頼書には、閉山した廃坑で虫型の魔物が急増している、と書かれていた。
「数年前に閉山した坑道なんだが、最近になって虫型の魔物が異常に増えているらしい。放っておけば、いずれ外まで溢れる可能性がある」
「それで俺に調査を?」
「いや。お前には運んでもらう」
ですよね。俺は配達屋だし。
「調査するのはこの二人だ」
奥から出てきたのは、まだあどけなさの残る二人の女の子だった。赤毛のショートカットで、見るからに元気そうな子。その隣には、青い髪の物静かな子が立っている。
「よろしくお願いします! 新人冒険者のルナです!」
「……ノアです。よろしく」
ルナが勢いよく頭を下げ、ノアは控えめに会釈した。
「で、この二人を廃坑まで運んでほしい」
「二人一緒にですか?」
「ああ。片方だけ置いていくわけにもいかんだろう」
それはそうだ。
二人と聞いて、先日上がった飛行スキルを思い出す。外部対象は2つまで。
……ちょうど二人いるな。
ギルドの中庭へ移動する。
ルナとノアが並び、その少し前に俺が立った。
「二人同時に飛ばすのは初めてなんで、最初だけ低くいきますね」
「初めて!?」
ルナの顔が引きつる。
「あ。今言うことじゃなかったな」
「今言わないでくださいよ!」
ノアは無言で俺を見ていた。
「……落ちる?」
「落としません」
たぶん、とは言わない。
集中し、ルナとノアの二人を同時に捉える。
今まで一人だった感覚が、左右に分かれた。
「浮け」
ふわり。
二人の足が地面から離れる。
まずは1メートル。
「うわあああ! 浮いてる浮いてる!」
ルナが大騒ぎする横で、ノアは静かに地面を見下ろしていた。
「……高い」
「まだ1メートルですよ」
「ノア、もっと興奮しなさいよ! もったいない!」
「……ちゃんと感動してる。声に出ないだけ」
分かりやすいような、分かりにくいような二人だ。問題なさそうなので、俺も浮かび上がる。
三人で横に並ぶ。
誰にも触れず、誰も背負っていない。それでも三人とも空にいる。
「おお……」
自分でやっておいて、ちょっと感動した。三人で飛んでいると、どうしても七つの珠を集める漫画を思い出す。
「俺もそのうち、両手から光線とか出せないかな」
「何の話ですか?」
「独り言です」
高度を少しずつ上げ、問題がないことを確認してから速度を上げる。町があっという間に遠ざかっていく。
「速っ! これ、馬車よりずっと速いですよね!?」
「まあ、空は道を気にしなくていいですから」
「破格すぎる!」
ノアは前を向いたまま、ぽつり。
「……便利」
評価が簡潔すぎる。
30分ほどで、廃坑の入口に到着した。着地すると、ルナが周囲を見回す。
「もう着いた!?」
「着きました」
「馬車ならまだ全然なのに……」
「だから便利なんです、空」
少し得意になる。
調査はルナとノアの仕事で、俺は坑道の入口で待つことになった。
「何かあったら、すぐ戻ってきてくださいね」
「はい!」
「……行ってくる」
二人が暗い坑道へ消えていく。
しばらくして。
「たすけてー!!」
聞き覚えのある声が響いた。
「早いな!?」
坑道からルナとノアが転がるように飛び出してくる。
「奥に卵が! 壁一面にびっしり!」
「……もう孵ってるのもいる。小さいのが、うじゃうじゃ」
想像した。
後悔した。
「それは見たくないですね」
その直後。
坑道の奥から、さらに大きな何かが這い出してきた。
黒光りする甲殻。
何十本もの脚。
長い胴体がうねりながら、地面を這う。
体長は5メートル近い。
「……グランドセンチピード」
ノアの声が低くなる。
「知ってるんですか?」
「……Bランク指定の魔物」
「それ、強いんですか?」
「……私たちだけなら逃げる」
「理解しました」
ルナも青ざめている。
「普通は複数人で討伐する相手です!」
「聞いてないですよそんなの!」
グランドセンチピードがこちらへ向きを変えた。
「二人とも下がって!」
俺は前へ出る。
戦いたいわけじゃない。むしろ、できるなら今すぐ帰りたい。でも、あれを放置して飛んで逃げたら、廃坑から出てくるかもしれない。
集中し、巨体を捉える。大きいが、動きも狼ほど速くない。対象をロックするだけなら、むしろ簡単だ。
問題は。
「浮け!」
動かない。
「重っ……思ったより、重い!」
さらに魔力を流す。
頭の奥が締め付けられる。
身体の中から一気に力を吸われていくような感覚。
それでも、巨大なムカデの脚が少しずつ地面を離れた。
「浮いた!」
ルナが叫ぶ。
「まだ……!」
1メートル。
2メートル。
さらに上。
グランドセンチピードが空中で暴れる。そのたびに魔力が削られていく。
これ以上はきつい。
俺は息を吸った。
「天空落とし!」
「技名あるんですか!?」
ルナのツッコミと同時に、遠隔飛行を解除する。
巨体が地面へ落ちた。
ドォン!!
地面が大きく揺れ、土煙が舞い上がる。
しばらくして煙が晴れる。
グランドセンチピードは、動かなくなっていた。
「……倒した?」
ルナが恐る恐る近づく。
ノアがじっと確認し、頷いた。
「……動いてない」
俺はその場にしゃがみ込んだ。
「……配達の方がいいな」
本当に戦闘は疲れる。
だが、まだ終わりではなかった。
「……卵と幼体、まだ中にいる」
ノアの言葉に、ルナが顔を上げる。
「そうだった!」
「私が焼く」
ノアが杖を構える。
その横でルナも武器を抜いた。
「じゃあ私は、逃げてくるのを止める!」
「俺は?」
二人が巨大ムカデを見る。
「……もう十分です」
「ですよね」
ノアの炎が坑道の奥を赤く照らす。逃げてきた幼体をルナが次々と仕留めていく。
俺は外から周囲を警戒した。
大型は俺、巣の処理はノア、漏れてきた幼体はルナ。結果的に、ちゃんと役割分担できていた。
一通り片付いた頃、あの感覚が来た。
《飛行(Lv31)》
「上がった……」
どうやら二人同時の長距離飛行とグランドセンチピードの持ち上げが、かなりの負荷だったらしい。外部2対象を扱う感覚が、少しだけ安定している。
「帰れそうですか?」
ルナが心配そうに聞く。
「帰れます。ただ、行きよりゆっくりになります」
「全然大丈夫です!」
「……急がなくていい」
ありがたい。
帰りもルナとノアをそれぞれ遠隔で浮かせる。
俺を含めて三人。
行きより高度を抑え、ゆっくり町へ向かった。日が落ちる頃、ようやく町へ戻った。
着地すると、腕を組んだエリーゼが待っていた。
「随分と遅いご帰還ですこと」
「これには事情が」
「予定の時間、とっくに過ぎていますわ」
少し間を置いて。
「……心配しましたのに」
怒っているというより、心配していたらしい。
「すみません」
エリーゼの視線が、ルナとノアへ移る。
「そのお二人が、今日の依頼の?」
「はい。冒険者のルナとノアです」
「よろしくお願いします!」
「……どうも」
エリーゼは二人を見てから、俺へ視線を戻す。
「そのお二人も、あなたが飛ばしたのですか?」
「仕事ですから」
「……そうですの」
なんだろう。
声がちょっと冷たい。
ノアが小さく呟く。
「……修羅場?」
「違います」
「わたくしも何も申しておりませんが?」
だから怖い。
ルナが俺に小声で聞いてくる。
「……もしかして、彼女さんですか?」
「違います」
「否定が早いですわね」
「早く否定しないと変な空気になるからです!」
エリーゼは小さく息を吐いた。
「それより。危険な場所へ行くなら、せめて一声くらいかけなさい」
「そこまで危険だとは聞いてなかったんですよ」
「結果として危険だったでしょう?」
「……はい」
反論できない。
その日のうちに、三人でギルドへ報告した。話を聞き終えたギルドマスターが、深く息を吐く。
「グランドセンチピードを倒したのか。……とんでもないな、お前」
「二度とやりたくないです」
「私たちも見ましたけど、かなり怖かったです」
「……でも、助かった」
ギルドマスターは頷いた。
「調査結果は上に報告しておく。これで増殖も止まるだろう」
よかった。
これで終わりだ。
「ああ、それと」
嫌な予感。
「まだ何か?」
「倒したグランドセンチピードなんだが、外殻がいい素材になる」
「……はい」
「明日でいい。回収して持ってきてくれないか?」
やっぱり。
「嫌な予感しかしなかったんですよ」
「頼めるのはお前くらいだからな」
俺は天井を見上げた。
明日も、あのムカデに会いに行くらしい。
――現在の飛行スキル――
《飛行(Lv31)》
最高高度:130m
滞空時間:35分
できること:
・安定した高速飛行
・荷物を持った状態での飛行
・人を背負った状態での飛行
・他者の遠隔飛行
・生物への遠隔飛行
・外部2対象まで同時制御
・天空落とし
最後まで読んでいただきありがとうござます。
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