第13話 天空落とし、開発しました
重力最強説
エリーゼの遠隔飛行が安定してきたある日のこと。町外れの開けた場所で練習を終えた俺は、ふと思った。
「これ、人間以外にも使えるんじゃないか?」
「何がですの?」
隣に浮かぶエリーゼが首を傾げる。
「遠隔飛行ですよ。エリーゼを浮かせられるなら、魔物も浮かせられるんじゃないかって」
エリーゼは少し考えたあと、森の方を見る。
「試してみればよろしいのでは?」
「話が早いなあ」
「そのために町の外まで来ているのでしょう?」
確かに。
町中で試して家でも壊したら、今度こそガレスに怒鳴られる。少し森へ入ったところで、狼型の魔物を見つけた。こちらに気づき、低く唸っている。
「じゃあ、やってみます」
俺は空中に浮いていたエリーゼを見る。
「あ、その前に一旦降りてください! 同時に二つは維持できません!」
「あら、そうでしたわね」
急いで着地させる。
今の俺が遠隔で制御できるのは、まだ一つだけだ。
改めて狼を見る。
エリーゼなら、浮かせるときにじっとしていてくれる。
でも狼は違う。左右へ動き、飛びかかるタイミングを狙っている。視界に入っているだけじゃ駄目だ。意識の中で、対象をしっかり捉える。捕まえるような感覚だ。
「……そこだ」
狼が一瞬、動きを止めた。
今だ。対象を包むように意識を集中させる。
「浮け」
ふわっ。
狼の4本の足が地面から離れた。
「クゥン!?」
「いける!?」
1メートル。
2メートル。
3メートル。
狼が空中で必死に足を動かしている。
「何をしていますの?」
「実験です!」
「それは見ればわかりますわ」
まずは低い位置で維持。
思ったより楽だ。
エリーゼより軽い。
ただし、動き回る分だけ対象を捉え続けるのが難しい。軽いから簡単、というわけでもないらしい。
「じゃあ……解除」
ふっ。
ドサッ!
狼が地面に落ちる。
一瞬よろめいたが、すぐにこちらへ牙を向けた。
「……まだ動く?」
「思ったより頑丈ですのね」
「褒められてる気がしません」
でも、ここで一つわかった。
敵を浮かせれば、少なくともその間は地上から攻撃できない。拘束手段としてはかなり使える。
そして、もう一つ。
「……高く上げたら」
エリーゼが俺を見る。
「落下の威力も増しますわね」
「ですよね」
単純な話だ。
高く持ち上げれば、その分だけ落ちたときの衝撃も大きくなる。
もう一度狼を捉える。
今度は少し高く。
5メートル。
さらに上へ。
狼が暴れる。
ロックが外れそうになる。
「くっ……!」
それでも何とか維持する。
そして、解除。
鈍い音が響いた。
狼は動かなくなった。
沈黙。
「……思ったより威力あるな」
「そうですわね」
なんだろう。便利なんだけど、かなり物騒な方向へ進化している気がする。その後は、必要以上の高さを使わずに何度か試した。
動く相手を捉え、浮かせ、維持して降ろす。
狼のように小さく速い相手は軽いが、動きが読みにくい。逆に、大きくて遅い相手は捉えやすいが、浮かせるのに魔力を食う。
どうやら、重さと狙いやすさは別問題らしい。
「わたくしを浮かせる時とは、随分と扱いが違いますのね」
「敵と味方は分けてます、一応」
「一応、が気になりますわ」
「気のせいです」
「名を付けましょう」
突然、エリーゼが言った。
「え?」
「技には名前が必要です」
妙なところで乗り気だな、この人。確かに必殺技っぽくはなってきたけど。
「……エア・ドロップ?」
「雑ですわ」
即却下。
エリーゼが少し考える。
「では――『天空落とし』でいかが?」
「急に必殺技っぽくなったな」
どこかで聞いたような響きがある気もする。でも、この世界の人がそんなことを知っているはずもない。
偶然だろう。
「それでいきましょう」
「良いものは良いのです」
決定が早い。
その日の帰り。
森の奥から、今度は大きめのオークが姿を現した。
太い腕と分厚い身体は、狼とは比べものにならない。
「やれますか?」
「たぶん」
対象を捉える。
動きは遅く、わかりやすい。
だから、ロックそのものは狼より簡単だった。
問題は。
「重っ……!」
浮かない。
魔力を強く流す。
「浮け……浮け……!」
ようやく、オークの足が地面を離れた。
1メートル。
2メートル。
さらに上。
オークが暴れるたび、魔力がごっそり持っていかれる。
「これ以上はきつい!」
残っている魔力を考えると、もう十分だ。
「いきます!」
「何をですの?」
「天空落とし!」
解除。
オークが地面へ落ちる。
ドゴォッ!
大きな音を立て、オークはそのまま動かなくなった。
「……本当に叫ぶんですのね」
「技名付けたのエリーゼですよね!?」
「付けましたけれど、叫べとは言っていませんわ」
理不尽。
狼やオークへ何度も遠隔制御を繰り返したせいだろう。身体の奥で、また感覚が変わった。
《飛行(Lv30)》
「上がった」
表示を確認する。
そして。
「……二つ?」
これまで一つだった外部対象。それを、同時に二つまで捉えられる感覚がある。
「どうしましたの?」
俺はエリーゼを見る。
「外部対象、二つまでいけるようになったみたいです」
「そうですの」
じっと見る。
「……なぜわたくしを見ていますの?」
「いや、試すなら――」
「見ないでくださいませ」
「まだ何も言ってない!」
今日はやめておこう。それより、今回わかったことの方が重要だ。対象を捉えなければ、この力は使えない。小さく速い相手は捉えづらい。大きく遅い相手は捉えやすい。でも重ければ、それだけ魔力を使う。
つまり、何でも浮かせて落とせば勝ち、というほど便利な能力ではない。
ふと森の向こうを見て、あのワイバーンを思い出した。
「……これなら、あいつにも使えるかな」
「ワイバーンですの?」
「はい。でも」
あの速度で空を不規則に飛び回る相手を、果たしてちゃんと捉えられるのか。
「無理に試す必要はありませんわよ」
「ですよね」
まだ。
今じゃない。
町へ戻る途中。
俺はふと気づいた。
「これ……町の中でやったら被害出ますよね?」
「ええ」
「使いどころ間違えたら犯罪ですね」
「ええ」
「肯定しかしてくれないの、逆に怖いです」
「事実ですもの」
怖い能力に進化した。
「くれぐれも、使いどころは選んでくださいませね」
「言われなくても分かってます」
そして数日後。
ガレスから伝言が届いた。
「冒険者ギルドがお前を名指しで呼んでいる」
「……また勧誘ですか?」
「知らん。自分で聞け」
嫌な予感しかしない。
ただ、このときの俺はまだ知らなかった。次の依頼では、今までとは少し違う形で飛行スキルを使うことになる。
――現在の飛行スキル――
《飛行(Lv30)》
最高高度:120m+
滞空時間:30分+
できること:
・安定した高速飛行
・荷物を持った状態での飛行
・人を背負った状態での飛行
・他者の遠隔飛行
・生物への遠隔飛行
・外部2対象まで同時制御
・天空落とし
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