ホバーバイク
今まで「俺」と「ダーリン」で済む話ばかりだったから言ってなかったけど、俺の名前は「中浦悠斗」。そろそろこの名前の明示が必要になるかもしれないので言っておく。
二人で眺めていた夜景の空に、星々や通信衛星ではない光点が現れていた。
「トゥルミナ、あの光は何だろうね?」
「ダーリン、E光学社から双眼鏡の新商品が出てるの。ご注文しますか?」
「肉眼で済まそう。トゥルミナの可視光視力は人間よりちょっと良いんじゃなかったっけ。本体は見える?」
この辺りの上空を一周くらい飛んでから、なんだかライトをこのアパートに向けてる気もする。お隣にかな? 上階にか?
「いや違う、なんで俺のベランダに向けて接近してくるんだ。」
「あれはO社製のホバーバイクと照合できたわよ。ダーリン、危険です……お下がりになって。」
道路交通法なのか航空法なのか分からなくなる空中乗用車が実現するような未来ではないけど、ドローンの一種だからこうして見かける事がある。
ホバーバイクは分離型ドローンの浮上ユニットなので人間は操縦できない規則なのに、違法飛行を楽しむ連中は時々ニュースになるんだ。不良飛行少年……何でもない。
だがドローンだとしても、用事も無しに人の家に着地するのは駐車違反と同じだ。なぜそうやってこのベランダに着地してくる? どこの不良男子だ、……いや、不良女子?
「ああユウト様、お逢いしとうございました、マイハニー。」
「ダーリン、不法侵入者ですわ。ミナにお任せを。」
こういう場合は夫婦だったら、男が前に出て女を危険から遠ざけるはずなのだけど。
「ロボット三原則の第一条、ミナはダーリンをお守りします。」
身を屈めて戦闘姿勢に入った。かと思うと、トゥルミナはホバーバイクのハンドル部分に飛び乗り、下腕部から見せた事もない警備武装を展開して、それを侵入者の蹴り脚が防御する。
「このパートノイドは誰ですか? マイハニー、止めてくださいませ。」
侵入者はそう言いながらも余裕がありそうにホバーバイクから装備をつかみ出すが、トゥルミナは的確に踏みつけて構えさせない。そしてどことなくトゥルミナを傷つけないように身体を翻す。
「やめるんだトゥルミナ、ロボット三原則の第一条! トゥルミナは人に危害を加えないようにしないと!」
ロボット三原則第二条に従ったのかトゥルミナは攻撃を止めて戦闘姿勢に戻る。いや、正確には従ったのではない。
「ダーリン、この御方は人間ではありませんので。」
「フォスロウラです、私を宅配に参りました。マイハニー、ユウト様。」
えっと、誰だっけ。
いやその名前には記憶がある。何かの抽選に応募した時の入力欄で、俺が付けた名前だ。




