はなしあうクルマたち
あまりに極端な集計値なのですぐには信じられなかったんだ。だけど、この数字がそのまま連日、更新され続けている。
[ 交通事故死亡者数 0人 ]
[ 交通事故怪我人数 0人 ]
日本全国で、だ。
もちろん旧来のクルマはたくさん走行しているので、そこには依然として事故数が発生している。その内訳の中の「自動運転カーによる事故」の項目だ。
考えてみるとこれは当然のことだ。
人間を乗せて高速で移動する箱をどう制御するか、という課題がある場合、運転者の過失はすぐにでも事故につながる。それだけではなく、運転者には予期できない状況も事故につながる。それが本来のクルマというものだったのだ。
それがもし都市の監視情報を把握するシステムの上で移動する箱に置き換わった場合はどうなるか。
例えるなら、ほぼ十分に安全なエレベーターという箱に、さらに危険回避管理や安全誘導手段を組み合わせたようなものかな。そうだとすると例外的には発生していたような事故さえも無くなって、ゼロ件になる事は想定できるだろう。
余談もそれぞれ面白い。
例え旧来のクルマ列の中を走っていても、自動運転カーは相手車の挙動を常に監視できているので、自分側が自動運転カーであるだけでも事故に巻き込まれる割り合いが2桁減る。2割ではない、2桁だ。
また例えば持病や発作を起こす運転者による事故は避けられないとされていたが、自動運転カーは乗る人の健康管理や救急機能も備えている。医療関係者の間では「[ 交通事故死亡者数 -20人 ]と統計するべきだ。」と言われているらしい。
さらに、事故を起こさないという事は、若干高額な車種を選んでも価値を大きく失う事がない安心感も生まれるようだ。
さて人間社会というものは、いかに「事故を起こさないクルマ」を心から求めていたか。そこには車両価格の意識を超えて、もっと求められていた需要があった事が浮き彫りになっていく。
旧来のクルマはたちまち嫌悪され、さらには運転免許講習も半日に簡素化されて、人々は自動運転カーを買い求めた。
街を走る車両からは旧来のクルマが一気に数を減らし、見かけるのは自動運転カーばかりになっていった。
とは言え、新たにローンでも組まない限り独身男性が簡単には購入できるものではない事も明らかなんだけど。
クルマを買えない自分と一緒に街を歩いて、楽に移動したがったりしない嫁がいるというのはいいものだ。
もちろん歩行者から見ても、事故が起こらなくなっていく街というのも素晴らしい。ただ、会話が多くなった。
「おはようございます。こちら直進ですが、皆さんのご予定はいかがでしょうか。」
「はーい! 私、右折です! 後ろに3台いますけど、みんな余裕あります!」
「こちら、なんと荷崩れ検知中です。急な加減速は避けたいところですね。」
「わたくしの後部座席で、お子様が熟睡中でして。できればなめらかな走行を希望します。」
「承知しました。それでは、配送バンさんとミニバンさんを先に。黄色さんはその後でいかがでしょう。」
「オッケー。じゃ私、ここで待ってます!」
「ありがとうございます。では、お言葉に甘えて。」
「何よりです。お子様のよい夢が続きますように。」
「皆さん、今日も安全運転で! いってらっしゃーい!」
「あなたもお気をつけて」。
「おはようございます。横断なさいますか?」
「かしこまりました。それでは、横断歩道の手前で待機いたしますね。」
「どうしたんです? 歩行者の方、渡らないみたいですけど。」
「ご事情があるようです。念のため、少しお待ちしましょう。」
「了解です。あのおばあちゃん、いつもこの時間にここにいらっしゃる方ですね。先週、落とし物を拾ってくださったんですよ。」
「そうでしたか。地域の方をよくご存じなのですね。」
「まあ、毎日走ってますからね!」
「おばあさん、どうぞ。路面に段差がございますので、お足元にお気をつけください。」
「いってらっしゃいませー!」
「あの角のお店は、朝になるとパンの香りがしますね。」
「この公園は、午後三時になると子供たちが増えます。」
「この道は、雨の日に傘の人が多いですから注意しましょう。」
「皆さん、前方で道路工事が行われています。通過可能な幅員は一車線分。対向車との交互通行が必要です。」
「了解しました。こちらの乗客は急いでおりません。対向側を先に通して差し上げましょう。」
「こちらも大丈夫です。ちょっと遠回りしてもいいくらいです。」
「私は時間指定の荷物がありますが、あと5分の余裕です。先に通過できると助かりますが。」
「では、配送バンさんを先に通しましょう。その後、対向車列を通し、最後にこちらが進みますよ。」
「お待たせしました。こちら、後方に救急搬送中の車両が接近しています。可能であれば、通過経路を確保していただけますか。」
「承知しました。緊急車両を最優先とします。皆さん、左右の待避スペースを確保してください。」
「こちら、左へ寄りま~す。」
「了解。後続の皆さんにも共有します!」
「停止位置を調整しました。通過幅、確保できています。」
「皆さん、ご協力ありがとうございました。」
「あ、皆さん。歩行者の男性がパートノイドをお連れでいらっしゃいます。そのまま歩行経路の確保をお願いします。」
「お気を付けてこちらをお歩きください。」
「お気を付けてこちらをお歩きください。」
「お気を付けてこちらをお歩きください。」
「お気を付けてこちらをお歩きください。」




