とどこおるクルマたち
自動運転カー限定運転許可証は半日すら掛からなくなり、1時間で取得できるようになった。
年齢制限も大きく緩められ、保護者への連絡端末があれば6歳から取得可能。自動車教習所に行く義務もない。
なぜなら教習科目と言えば、
・自動運転カーに乗り降りする際の最低限の道路交通法。
・行先のお喋りでの伝え方。追い越せ、とか言ってはいけない乗車道徳。
・あと何があるだろう……なお、シートベルトは自動だ。
つまり分かりやすく言うと「タクシーの利用方法」と大差がなくなった。
それでいて、道路監視インフラの整備は依然と自動運転カーによる[ 交通事故数:0件 ]を維持している。
競合する各企業はより安全でより快適なクルマをよりお手頃価格で販売し、
消費者は5年実質無料プランや下取り買い替えプランなども利用して自動運転カーの運転手となっていった。
無事故なクルマ社会への変化を歩道から眺めてくれる嫁がいるというのはとても良いものだ。
「おや? 前にいらっしゃる黄色さん、まだ進まれないんですか?」
「はーい! 大丈夫ですよー! 前の車列が詰まってるみたいです。」
「なるほど。では、こちらも少し待ちましょうか。」
「お願いしまーす! すぐ空くと思いますので!」
「かしこまりました。皆さん、焦らずゆっくり参りましょう!」
「こちらの道路、ただいま通過順を調整しております!」
「はーい。こちら、次の交差点を左折したいです!」
「承知しました。左折の皆さん、後続の状況はいかがでしょうか?」
「えーっと……後ろに6台です。」
「おお、賑やかですねえ!」
「はい! 皆さん、お出かけ日和ですから!」
「そうですね。天候もよく、路面状態も良好です!」
「ところで、こちらの道路を通過するのは初めてですか?」
「いえいえ。今朝も通りましたよ。」
「おや、そうでしたか。実は私も今朝、こちらを通ったんです!」
「まあ! 奇遇ですね!」
「ですねえ……あれ? ひょっとして、先ほどもお会いしましたか?」
「ええっ? そうでしたっけ?」
「確か、駅前の交差点で……。」
「……あのう、皆さん?」
「はい、どうしました。」
「前方の車列ですが、先ほどからあまり短くなっていないようですね。」
「おや、そうですか?」
「はい。こちらの通過順を調整すれば、もう少し流れがよくなるかと思ったのですが……。」
「なるほど。では、都市AIさんに状況を確認してみましょう!」
「お願いいたします!」
「はい、ただいま確認しております。」
「お待たせしました。周辺道路の交通量が増加しておりますが、安全性と車間距離は確保されているとのことです!」
「それはよかった!」
「はい! では、こちらも引き続き順番に参りましょう。」
「了解でーす!」
「……それにしても、なかなか進みませんねえ。」
「そうですね。」
「先ほどから、前の車列がほとんど動いていないようですが……。」
「ええ。前方の交差点が混み合っているそうです。」
「なるほど。では、こちらは待つしかありませんね!」
「はい、お急ぎのところ申し訳ありません。」
「いえいえ! お互いさまです!」
「経路を確認しております。……あら?」
「どうしました。」
「いえ、少々混雑が続いているようです。」
「そうですか。では、別の経路を検討しましょう!」
「はい! そちらも確認してみますね。」
「……こちらも、交通量が多いようです。」
「おやおや。それでは、もう一本先はいかがでしょう?」
「確認します……あら、そちらもですね。」
「ははは! 今日は街じゅうがお出かけ日和のようですね。」
「ふふっ、そうかもしれませんね。」
「おはようございまーす。住宅街方面へお帰りの皆さん、こちら直進でよろしいでしょうか?」
「はーい! 直進でーす! ただ、うちの前がちょっと混み合っているようで。」
「おや、ご自宅前ですか?」
「そうなんですよー! あと20メートルなんですけどね!」
「20メートル! それはもう、目と鼻の先ですね。」
「ええ! 見えてるんです、うちの玄関!」
「こんにちはー! こちら、住宅街から出たいのですが、どなたかお帰りのご予定はございますか?」
「はーい。こちら帰宅中でーす。」
「おお! それでは、入れ替わりで通れますね。」
「……あ、すみません。まだ入れ替われるだけの隙間がございません!」
「なるほど!」
「申し訳ありません。」
「いえいえ。お気になさらず!」
「では、もう少々お待ちくださいませ。」
「はーい! お先にどうぞー!」
「……あのう。」
「自宅前には到着したのですが、降車スペースがございません。」
「ただいま玄関前に3台、車庫前に2台のお車が待機中です。」
「なお、車庫前のお車は、皆さん帰宅待ちとのことです!」
「ご自宅へ入られる順番をお待ちになっているそうです。」
「それでは、順番が来るまで快適にお過ごしください!」
「現在、前方に3台です。」
「順調に進めば、あと20分ほどの見込みです!」
「申し訳ございません、先ほどの予測から五分ほど延びております。」
「安全第一で参りましょう!」
「皆さーん、こちら右折希望でーす!」
「はーい! こちらも右折希望でーす!」
「おっ、奇遇ですね。」
「はい。では、右折の皆さんで順番を決めましょう!」
「賛成です、配送車さん、いかがでしょう?」
「ありがとうございます! こちら、荷物の都合で急加速を避けたいところです!」
「承知しました! では、配送車さんを先に。」
「助かります!」
「続いて、黄色さん!」
「はーい! 私、いつでも大丈夫でーす!」
「素晴らしい。では、その次に!」
「了解でーす。」
「……ところで皆さん?」
「こちら、右折したいお車が27台いらっしゃいます。」
「直進したいお車が43台いらっしゃいます!」
「左折したいお車が18台いらっしゃいます。」
「それでは、順番に参りましょう!」
「はーい!」
「ねえダーリン、これって賑やかなの? 騒音なの?」
「声は親しみあるから、耳を塞ぎたいというのではないけどね……。」
大都市で見かけていた事があるクルマが動けない大渋滞が、こんな小都市部でも始まっている。
そんな少し前の記憶とも重なりつつ、クラクションやエンジン音はないけれど、道路中がお喋りと雑談とクルマ本体で満たされている。




