情報学者
連続ドキュメント特集『2020年代のデータセンター暴走がどう防がれたか』(全6回)
第3回 フェイク動画の津波──真実の映像が消えた数年間
古来、写真のフェイクは存在した。それでも、実写動画映像のフェイクは同じようにはいかなかった。
人間の動体視力というものは、空間と物体の動きを認識し、人の表情と操作も高度に認識する。人の脳の判別能力をしのぐ動画を合成することは不可能であり、そこに動画があればそれは長い間真実の証拠として扱われていた。
だが、2017年から2020年にかけて、その常識は崩れた。
写実動画と区別がつかない偽動画が生まれ、世界は「真実と虚構の境界」を失った。
フェイク動画は氾濫し、表現の自由と法整備が激しく衝突し、本物がフェイク扱いされる“反転現象”が起きた。
現在2036年。AI動画生成が社会から消えて、誰も困っていない。
あの時代は、いったい何だったのだろうか。
今回は、その数年間を振り返る。
司会「テレビの前の皆様、こんばんは。連続ドキュメント特集『2020年代のデータセンター暴走がどう防がれたか』、第3回をお送りします。司会は私、結衣カーネリスです。」
司会「今日は、フェイク情報の津波。実写動画の信頼性が崩れた数年間について、専門家の皆様とともに見ていきます。」
●情報学者・黒瀬准教授
●法学者・御影教授
●国際政治学者・天城教授
「よろしくお願いします。」
司会「3回目となりました。本来の実写動画は、多少の工夫もされていたりしたものです。それがAIによって価値が揺らいでいた時期には、いったい何があったのでしょうか?」
動画フェイクの技術的突破(2017〜2020)
黒瀬准教授「写真のフェイクは、昔からありました。しかし実写動画は、人間の認識力が強く働くため、長い間“騙しにくい領域”だったんです。それが変わったのが、2017年から2020年にかけてです。GANと呼ばれる生成技術、そしてdeepfake技術が登場し、写実動画と区別がつかない偽動画が作られるようになりました。」
司会「動画の壁が破られた瞬間ですね。」
黒瀬准教授「はい。ここからフェイク動画の氾濫が始まります。偽の政治声明、偽の事件映像、偽の災害映像、偽の専門家インタビュー……人間の目が“本物だ”と信じてしまう動画が、無限に生成されるようになった。」
フェイク動画の氾濫(2020〜2024)
2020〜2024年。フェイク動画は、世界中のSNSを埋め尽くした。
偽の政治家の演説。
偽の戦争映像。
偽の災害現場。
偽の専門家コメント。
動画偽造を使った詐欺は18ヶ月で3000%増加し、企業の株価は偽動画ひとつで乱高下した。
真実と虚構の境界が消えた時代だった。
表現の自由と法整備のせめぎ合い(2024〜2026)
御影教授「フェイク動画が社会問題化すると、まず議論になったのは“表現の自由”でした。規制したい政府と、自由を守りたい市民。そして、プラットフォームの責任問題です。偽動画は芸術なのか、犯罪なのか。この線引きが非常に難しかった。」
司会「法整備は追いつかなかったんですね。」
御影教授「ええ。規制の遅れが被害を拡大させました。2024〜2026年は、まさにせめぎ合いの時期でした。」
末期症状(2027〜2028)
天城教授「2027〜2028年になると、状況はさらに悪化します。新発見がフェイク扱いされる。手品師やサーカスの映像が“偽動画だ”と炎上する。火星ロケットの打ち上げが“AI生成だ”と疑われる。現実がフェイク扱いされる“反転現象”が起きたんです。」
司会「真実が疑われる世界……。」
天城教授「文明の末期症状だったと言っていいでしょう。」
サーバー負荷の9割がフェイク(2029)
2029年。世界のデータセンターのサーバー負荷の9割が、フェイク動画によるものだと判明した。
AI企業は、フェイク生成で利益を得ていた。
世界は問い始めた。“これが正しいAIの在り方なのか?”
価値観が転換する瞬間だった。
動画生成サービス禁止(2030)
御影教授「2030年、国際的な禁止決議が行われました。すべてのAI事業者に動画生成サービスが全面禁止されたのです。それにより、瀕死状態だったスタジオ撮影業界が復活して以前のように正しい映像制作がされる世界になりました。本物の映像が価値を取り戻したのです。」
半導体不足が解決(2031)
黒瀬准教授「興味深いのは、2031年に半導体不足が解消したことです。原因は単純でした。動画生成サービスが消えたことでサーバーのGPU浪費が激減したんです。」
司会「問題の根源は、動画生成だった……。」
黒瀬准教授「そう言わざるを得ません。」
司会「そのようにしてAI動画生成が社会から無くなって、実際に誰も困っていない。2036年の今、世界はそれを実感しています。」
黒瀬准教授「真実を守るために、何を残し、何を捨てるべきか。2020年代は、その問いが突きつけられた時代でした。」
司会「では次回は、著作権の崩壊と再構築。AIが人の創作文化の基盤を揺るがした数年間について見ていきます。またお会いしましょう。」
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どこにしまったかな、あったあった。たまには俺もポータブルスクリーンでトゥルミナを撮影してみよう。
自分の家に、実写のまま照れくさがる笑顔で映ってくれる嫁がいるというのはとてもいいものだ。




