気候学者
連続ドキュメント特集『2020年代のデータセンター暴走がどう防がれたか』(全6回)
第1回 地球温暖化とデータセンター ── 置き去りにされた脱炭素政策
2020年代。電子計算機社会は、AIという新しい情報技術を手にした。
まるで人々の仕事を1秒で代替わりするかのように、その技術は、急速に、巨大に、世界を揺るがし、そして何かが暴走していった。
データセンターが暴走しかけた10年間。人類がどこで立ち止まり、何を規制し、未来をどう選び直したのか。
司会「テレビの前の皆様、こんばんは。本日から5日おきにお送りする特集番組、『2020年代のデータセンター暴走がどう防がれたか』が始まります。司会は私、結衣カーネリスが務めさせていただきます。」
司会「さて本日は、各分野の専門家の皆様にお集まりいただきました。データセンター暴走の10年間を、科学・経済・文化・安全保障の視点から紐解いていきます。」
●気候学者・白河教授
白河教授「白河です。気候には人間の活動が影響します。食べ物は腹七分目。ロス食品からもゲップからも、メタンの発生を抑えましょう。」
司会「ありがとうございます。」
●経済学者・三条准教授
三条准教授「三条です。経済は車輪が回り出すと、利益も損失も生みます。損失をあんまり見ないふりをしてはいけません。」
司会「よろしくお願いします。」
●情報学者・黒瀬准教授
黒瀬准教授「黒瀬です。情報とは社会の記録であり、それは食べ物とも血液とも言えます。情報が濁れば、社会は病んでしまうものです。」
司会「病気は避けたいものですね。」
●法学者・御影教授
御影教授「御影です。法律は社会の制限装置ですが、新しい文化の前では後手になります。急ぐ文化に対しては追いつかないといけません。」
司会「まるで速度オーバーのお話です。」
● 国際政治学者・天城教授
天城教授「天城です。企業の力が育つのは国にも良い事ですが、国と国は国際社会を守るという役割を果たさないといけません。」
司会「大切な事だと思います。」
司会「今日は初回です。まずは、地球温暖化政策がなぜ必要だったのか。そして、なぜ2020年代の世界はそれを忘れてしまったのか。この点から見ていきたいと思います。」
白河教授 「脱炭素政策とは、正確には[大気中の二酸化炭素濃度を増やさないための政策]です。 その背景には、250年以上にわたる科学的知見の積み重ねがあります。こちらの年表をご覧ください。」
・1750年:産業革命の開始 後に痕跡を測定するとこの時から二酸化炭素の増加が始まっていた。
・1896年:アレニウスの論文 「CO₂が地球の気温を上昇させる」という仮説を発表する。
・1958年:ハワイで大気中CO₂の継続観測が始まる。その記録に 「キーティング曲線」が現れる。
・1958年:315ppm → 1980年:338ppm 「人類の活動が地球大気に変化を及ぼす」ことが判明する。
・1979年:「チャーニー報告」 CO₂濃度が倍増すると、平均気温が約3℃上昇すると結論が出る。
・1988年:IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が設立され温暖化は「国際問題」として扱われる。
・1997年:京都議定書 先進国に温室効果ガス削減義務を課す国際条約。しかしアメリカは離脱する。
・2001〜2013年:IPCC第3〜5次報告書 「温暖化は人為起源である可能性は95%以上」と結論が付く。
・2015年:パリ協定 世界全体で温暖化に対策し気温上昇を抑えるための目標が設定される。
この時点では、世界はまだ「脱炭素に向かい協調する」と信じられていた。
白河教授「大気組成による気候変動に国境は関係がなく、すべての国に被害をもたらします。だから協力関係が求められたんです。」
司会「しかし、2020年頃から、世界は急に歩調を乱しました。」
白河教授「ええ。原因はデータサーバーの乱立です。」
司会「それは、最初はAIデータサーバーでは無かったんですね?」
白河教授「仮想通貨、主にビットコインの、マイニングサーバーの乱立が始まりでした。」
司会「マイニング、あの素数計算を大量に行うだけで暗号が維持されるという。」
白河教授「そうです。それが如何に環境問題を引き起こしたか、こちらをご覧ください。」
1. 電力消費:国家レベルの消費量
2020〜2021年の世界のビットコイン採掘は173.42TWhの電力を消費しました。これは 多くの国家の年間消費量を上回る規模 です。
Cambridgeの報告では、2025年当時で年間138TWh、世界電力の0.5%と推定されます。
2. CO₂排出量:中規模国家に匹敵
2020〜2021年のビットコイン採掘によるCO₂排出量は85.89MtCO₂相当。
Cambridgeの推定では年間39.8Mt CO₂(スロバキアの年間排出量に匹敵)。
3. 水資源の大量消費
国連大学の研究では、2020〜2021年のビットコイン採掘の水消費は1.65km³。
サハラ以南アフリカの3億人の家庭用水量に匹敵する衝撃的な数字です。
4. 電力源の問題:化石燃料依存
2025年当時の調査では、仮想通貨マイニングの電力源は48%が化石燃料、52%が再生可能エネルギー。
ほぼ半分はCO₂を大量に排出する電力で稼働していました。
5.電子廃棄物(e-waste):深刻な副作用
仮想通貨のマイニングは専用ハードウェア(ASIC)が必要ですが寿命が短く、大量の電子廃棄物を生みました。
6.国際機関による規制議論
OECDや米国OSTPは仮想通貨マイニングの環境負荷を問題視し、規制や改善策を議論していました。
7.2030年に向けた環境負荷の増大予測
2024年当時の研究では、仮想通貨のマイニングによるCO₂排出量は2022年当時で51.7Mt CO₂/年。さらに増加が危惧されました
司会「つまり、データセンターの一種であるマイニングセンター乱立の時点で問題になっていたと。」
白河教授「その通りです。大気の二酸化炭素量の増加にも働きましたし、発電設備の併設や水資源の大量消費などの実践技術が蓄積されていく期間にもなってしまいました。それらが転用されて、AIデータセンターの建設が暴走を始めたのです。」
司会「暴走したと言えるのは、温暖化による自然災害が実際に被害を及ぼし始めたわけですね。」
白河教授「地球の気温は氷河期の変動の中にあるという説も当時はあったんです。でも気候学的な観測で、データセンターの乱立が実被害をもたらしているというのは現実の事態でした。パリ協定による数値的な規制は、マイニングセンターについてはまだ議論もされていました。ですが、AIデータセンターの問題に移行した時には、誰もパリ協定の事を言わなくなってしまったわけです。」
司会「マイニングセンターも減少することはなく、さらにAIデータセンターは数倍にもなる環境負荷を生んでいったんですね。」
白河教授「そうです。電力消費量や水資源消費量も数倍だったと記録されて表れています。そこから同じような比率で、二酸化炭素排出量も増加していたと言えます。結果、地球の温暖化を加速させる世界になってしまいました。」
司会「決議されているはずの気候政策の声が、踏みにじられていた時期の感じがしますね。」
白河教授「仮想通貨マイニングの時代にも、すでに環境負荷は深刻でした。企業も国家も新しい産業だという理由で、擦り合わせに渋々応じていただけでした。ですがAIデータセンターが乱立し始めると、擦り合わせすら誰もしなくなりました。パリ協定は気候変動に対して世界が一致して行動した象徴だったのにです。新しい産業構造の到来を理由にして、かつての決議は古い決議として扱われた。 新しい議論を避けたのです。そこには、大企業にも、投資家にも、国家にも、大切な地球への責任を引き受けない姿勢があったと言わざるを得ません。」
司会「AIは未来を変える力を持っています。 しかしその力をどう使うかは、人間の選択にかかっています。 技術そのものではなく、技術をどう扱うか。そこに文明の成熟が問われた時代だったのです。」
2024年。世界のデータセンター電力消費は、ついに“航空産業全体”を上回った。年間増加率は18%。
氷河は溶け、海面は上昇し、沿岸都市は大水害に襲われた。
それでも、データセンターの投資競争は止まらなかった。
各国は、データセンター産業を国家の主権と見なし、電力規制をためらった。
こうして、データセンター産業は、気候変動という地球規模の副作用を生み出していった。
司会「それでは次回、データセンター乱立の暴走が引き起こした、半導体の奪い合いについて、詳しく見ていきます。またお会いしましょう。」
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そんなドキュメント番組が放送されていた。
自分の家に、地球温暖化問題の原因にならなくなった嫁がいるというのはとてもいいものだ。




