ウォッシャー
幾つかある家事の中でも、洗濯とは元々かなりの重労働だったという伝承がある。
川辺で布を叩き、人間の手や足で汚れを揉み解し、それを洗濯板で擦る。夏場であればまだしも冬ともなれば冷水であかぎれに耐えながらの日々だ。そう、洗剤にも歴史はあるけれど、人肌に優しい界面活性剤などというものは聞いた事がない。
川水の流れで行われていた手足による洗濯が、水源によっては桶の水で行われる事もある。過去の洗濯史には殺菌の効能とも深く関連する場合もあるのだけれど、桶の場合は熱湯が用いられるとその効果が大きい。しかし熱湯では人体で攪拌することができなくなる。
その解決策の過程が19世紀の金属機械技術と重なる事で、手動のハンドル機構によって桶の中を掻き回す、という機械式の洗濯装置が誕生した。洗濯機の始まりだ。
そんな工業技術の進歩が多岐にわたる19世紀、1834年の大きな出来事の一つに発明家ジョセフ・ヘンリーによる電動モーターの発明がある。産業的にはまだまだ蒸気機関のほうが優れていたり、家庭に電気配線が普及するまでには年数が掛かったこともあった。それでも20世紀に移る前後の頃には、ドラムを電気モーターで回転させる洗濯機が発売されていく。
ドラム全体を動かす方式では装置もモーターも大型であるため、当初の洗濯機は高価だった。
それが低価格となり大きく普及するきっかけとなったのが、1953年に三洋電機から発売された噴流式の洗濯機だ。聞いた事がある人も多いだろう、パルセーターという部品を。それまでよりも非常に小さな消費電力と出力のモーターで済むため、以降の洗濯機の主流となっていく。
高度経済成長期当時の日本では「冷蔵庫・洗濯機・掃除機」が家電品における「三種の神器」とまで言われたりもした。
家庭に普及していく最初の洗濯機は、一槽式だった。脱水方法が洗濯物をハンドル式ローラーで挟み込む伝統方式だったので、二槽目が要らなかった。
それが1965年になると贅沢と思われながらも脱水専門のドラムを横に追加した二槽式洗濯機というタイプの製品が登場する。当時の現代人たちは初めて「機械によって水切りされた洗濯物」という手軽さを享受したのだった。
それからは、タイマーが組み込まれたり、電子式になったりする現代化の一方で、一槽式に戻ったり、ドラム回転方式に戻ったりという回帰までもが行われたりしつつ、洗濯機は歴史を歩んできたと言える。
自分の家に洗濯をしてくれている嫁がいるというのは、やっぱりとてもいいものだ。
「ダーリン、この洗濯機はちょっと私には使い辛いわ。」
うん。俺が一人暮らしを始めた頃にコインランドリー通いから抜けるために買ったのは、洗濯から脱水までのこの愛着のある一槽式洗濯機だった。
今は乾燥までしてくれるドラム回転式が最新式のようなんだけど、正直に言うと欠点も幾つかある。若干広い設置場所が必要だしガス工事が伴う。俺の部屋はガス契約していないから手続きや工事が大掛かりだ。
それに洗濯機くらいなら、買い替えは壊れた時にでも考えればいいかなという気持ちになる。室内やベランダに干された洗濯物っていうのも悪くないと思うんだよね。
「そんな事ないわ。今なら6割引きで買えるH社のスーパー洗濯機はベルトコンベアと合体させると自動で物干しに掛けてくれるんだから。」
「その商品って前にも聞いたな。よっぽど売れ残ってるんじゃないだろうか。」




