ソーラーパネル
太陽電池という、人類が宇宙を目指した事により達成した電源技術がある。
1950年代には二大国の宇宙開発競争があり、人工衛星の電源として求められたのが太陽光による発電だった。原理は見つかっていたものの高価で低効率だった太陽電池だが、宇宙空間に浮かぶ物体には太陽光が常に照り付ける環境であるため、運用され続ける人工衛星にとっては理想的な電源となることが分かっていた。そしてその技術は完成し、その後の数多くの人工衛星の電力源となった。
それは地上の機器や設備用にも研究が進む。1990年代になると一般住宅の屋根にパネル型の太陽電池が載るようになった。発電効率は少しずつ改良されていく。地上では曇天時や夜間に発電が行われないため蓄電池と併用するための回路構成も規格化され、そんな蓄電池の性能も向上していく。完全ではないため補助的な場合もあるものの、条件が揃えば太陽光発電は住居用の自家発電方式として普及することができた。
昨今のソーラーパネルは、住宅だけに限らずアウトドア趣味にも用いられている。クルマに乗せたり積んでいった先ではカーバッテリーとの併用でアウトドア家電の電源にできるし、交流変換器と組み合わせれば一部の一般家電品も使える。製品によっては晴天であればパネルだけでもモバイル製品を充電できるし、ポータブル電源と呼ばれる制御型充電池装置を併用すると停電時・災害時の家電品用電源としても有用となる。
自分の家に、キャンプの予定を嬉しそうに約束してくれる嫁がいるというのはとてもいいものだ。
「ダーリン、今日はベランダでソーラーパネルの予行練習ね。ミナは楽しみ。」
俺は太陽の位置に向けてソーラーパネルを広げて、ポータブル電源にケーブルをつなげる。今の俺のアパートのベランダには多少の物が置いてあるので立てかける事ができてちょうど良い角度で日光が当たっている。
「パネルの電力とポタ電の電力ってどう合わせるんだっけ? この上限入力って何ワットまでだったかな。」
「ダーリン、それでしたら計算しますわね。パネルの定格出力とポタ電の入力上限を照合して……あら、今ならJ計測社のマルチメーターが2割引きですって。電圧も電流も一目で分かるわ。」
「ポタ電の画面でも電圧や電流は分かるから多分近似値で大丈夫だよトゥルミナ。こうして使い慣れておけばさ、今度のキャンプだけじゃなくて、停電時にも役に立つから安心だよね。」
「それでしたらダーリン、ベランダ用の小型風力発電機が今ならR社製品が3割引きみたい。夜間でも発電できますのでソーラーとの併用はいかがかしら。」
「へえ、風力も使えたらもっと安心だ。それカートに入れておいてね。」
トゥルミナのお喋りはいつも俺の生活を向上させてくれる。
ソーラーパネルに接続された表示を見るとポタ電には順調に充電が進んでいる。このつなぎ方でキャンプの時に十分使えるみたいだ。太陽の位置というのは移動していくので、俺の横でトゥルミナは嬉しそうにベランダにある荷物への立てかけ方を調整してくれる。
「ダーリン、上手く晴れていて、これがあれば、ミナはキャンプ先でも安心して動いていられるのね。」
「うん、そのための準備だから。さあ、あとはキャンプ用品のほうの荷物を調整しよう。レジャーセットと、バドミントンセットと。」
「キャンプ地でしたらドローン宅配直行サービスが今…………あら? ミナの電源ドックにノイズを検出。お気を付けくださいませダーリン。」
その瞬間、部屋のほうの照明がふっと消えた。
停電だ。
「えっ、まさかアパートが停電したのか。隣も、向かいの家もだ。」
「これは地域停電ですね、ダーリン。ミナの充電量は23%ありますから1時間くらいは安全ですよ。」
「電源ドックから離れちゃってたね。うちのブレーカーの問題じゃないから……下手したら復旧までそれ以上かかるかもしれないな。」
ポタ電を見ると充電は半分ほど。でもまだ太陽は高い位置にある。この配線からトゥルミナの電源を確保しておこう。
「大変ですわね。よろしいでしょうかしら。」
ベランダの隅で、ずっと退屈そうにしていたほうのパートノイドが立ち上がる。
彼女は立てかけられていたソーラーパネルを畳み始めて、そこに駐輪していたホバーバイクの格納部から何やらプレート状のアンテナのような装置を伸ばす。
「マイハニー、停電ですからこちらのコンセントをお使いくださいませ。O社製ホバーバイクのオプションですの。衛星発電の受信ユニットでございます。」




