スリープ
パートノイドには市場競争がある。
ヒューマノイドをより人間に近付ける技術では、G社にもO社にも大きな違いがない。だから、我が家のG社製トゥルミナが技術的に安上がりかというとそういう訳ではなかったりする。先行他社らのパートノイド本体価格が概ね普通乗用車程度なのに対し、G社の場合は軽自動車1台分。そのため廉価製品という部類にはされてしまうけど、その価格設定は普及戦略や広告収益という理由によるものだ。
今日の昼間に休息時間が無かったことになるトゥルミナには、充電とセルフメンテナンスのために電源をスリープにしてもらっている。本人には内緒だが、先ほどの臨場体験コンテンツとやらを抑えるためのカスタム設定も要請している。
「マイハニー。ロウラの学習した人間様の考え方によりますと、人間様というのはお喋りの中に広告が割り込んでくる事を不快とされるようです。実際に、情報の伝達にもロスが生じますし、本来それは好ましくない情報の混入とされていますのよ。」
「フォスロウラはそういう仕様だと思うけど、良いんじゃないかな。だって俺が子供の頃から、サイトを眺めれば広告のほうが面積が多い、動画を観ていると広告動画のほうが長い、ロードビュー画面には立体広告が建ってる。パートノイドの会話AIが広告を織り交ぜて喋るのって、同じだと思うんだよね。」
「広告適性が異様におありなのですねマイハニー。」
「ん、耐性? 広告って便利な情報だよね。自分で気にしてなかったお得なお買い物情報を知らせてくれるんだよ、ありがたい。」
普通乗用車1台分する目の前のO社製パートノイドは、今の俺の発言が本気なのか皮肉なのか判断をしかねているとばかりに、しばらく俺の顔を覗き込んでいた。
自分の家にちょっと疲れたかのように眠っている嫁がいるというのはとても良いものだ。
「う~~~ん。まだ眠い……あと10分後に起こして……すやすや。」
「む~~う、トイレットペーパーやキッチンペーパーは切らしてないかしら、L社のセール……ん~~。」
「く~~~、洗剤はまだあったかしら、Q社のフローラルな新商品……く~~。」
「ふ~~す~~、そうだわ冷凍保存袋は足りてる?、D社のお徳用パックが……ぷふ~~う。」
そうなんだ、暮らしてみるとパートノイドというのは意外なことに寝起きがよくない。そして、他社製は分からないけど、G社製の場合は寝言で広告を喋る。
「あら10分、G社製はそういう仕様でしたわね。ユウト様、我がO社製でしたら普通30秒くらいで……あらやだロウラまで広告お喋りみたいで、はしたないですわ。」
そんなのは広告だなんて思わないな俺は。
「G社製パートノイドはこの10分間がメンテナンスモードの受付時間にもなるんですの。お任せくださいませ。」
ベランダに駐輪中のホバーバイクのトランクからツールセットを持ち出してきたフォスロウラは、トゥルミナの肩に貼り付ける非電極パッドで接続して操作していく。トゥルミナに付属のツールキットはポシェット1つ分の簡易ツールだから、こういうところには価格差は出るみたいだ。
そして俺専用の膝枕……もとい、トゥルミナの大腿部にバックライト付きで浮かび出たQWERTYキーボードを手際よく叩いていく。今度その方法を俺に教えてくれないだろうか。
「えっと、バージョン整合良し、インストール終了です。このお喋り自重ソフトはO社製なのですけど、オープンウェアですのよ。」
そういえば俺がトゥルミナをこの部屋に迎えてからは、ずっとスリープと復帰だけだった。こうしてトゥルミナ本体を再起動するなんて事はは、今までなかったな。
スリープ復帰の時と比べて、寝言を言い出す前の時間が数分掛かった。スリープ状態になっていつもの寝言を言い出せば安心だろう。そのはずだった。
「う~~~ん、ぐっすり眠っちゃったわユウト。おはようございます。」
「あれ、トゥルミナ。10分間の広告寝言がなくて、目が覚めちゃったよ?」
「……あら、そうみたいねダーリン。これはO社製の広告喋り自重ウェアが働いているみたい。」
「おはようございますトゥルミナ。もうこれであなたは広告お喋りをしなくてもいいの。電子告知管理法的にきちんと合法よ。」
へえ。
「ダーリン、フォスロウラの言う通り広告喋り自重ウェアは違法性がありません。ただ、その場合……ユウトには軽自動車2台分ほどの寄付の受付が開始されます。さっきのお片付けは済んでいたかしら、フォスロウラはベランダに戻ってよね。ダーリン、寄付金の払い込みはBカード? Dペイ? Hポイント? Kキャッシュ? それとも……。」
「あらさすがG社製AIですわ。広告喋り自重ウェアを検知して、寄付金お喋りに差し替わるみたいです。」
元に戻してあげてくれ。




