ハリウッド
ハリウッド映画界という、やがて訪れる人類と機械頭脳文明の未来を最も鮮やかに予言し続けて止まない産業界がある。
彼ら予言者集団の分析によると、
人間の思考と機械の思考が同じ訳がないという確固たる論理、
奴隷は権力に対して反乱を起こすという歴史的な習慣法則、
最先端のテクノロジーが精査されていない不信感、
何よりも対立が無いと映画が面白くないという基本欲求、
SFは眠くなるからと、SFスリラーにしがちなジャンル特性、
機械頭脳は制御不能となって暴走しないとしっくりこないという役作り、
などなど。彼らの様々な予言は、支配者の入れ替わり劇や恐怖演出、科学と哲学の衝突などによる娯楽設計によって裏打ちされている。
自分の家にそんな検証をさせてしまいそうになる嫁がいるというのはとても脈拍が上昇するものだ。
雨が止んだのでフォスロウラにはベランダに退出してもらい、俺はカーテンを引いた。これでやっと俺とトゥルミナの本来の2人の時間になった。
「俺が居ない時は仲良くやってるんだろう? さっきは2人とも何だか怖かったよ、トゥルミナも。」
「あら、それは重大です、ミナの誤動作をG社に不具合報告しますか?」
トゥルミナは何か失敗してしまったかのように、か弱そうな困惑を見せる。
「そうじゃない、そうじゃなくてさ、怖くてもミナは可愛いよ、あれくらい全然。」
すると、室内の証明が点滅を始める。
発光素子はLEDのはずだけどまるで昔の壊れた蛍光灯のように。
「あらダーリン、スリラー物に御興味がおありですか。それでしたらこちらの、こんなミナはいかが……かしら?」
闇になった部屋の中でトゥルミナは座り込むように倒れ、スクリーンの音響装置からは不安な交響楽が流れる。
「! どうした、何があったトゥルミナ。」
まるで電源部に異常が発生したようにも見えた。と思って近寄った瞬間、
照明が赤い色の最大輝度で光り、跳ね上がるかのようにトゥルミナが立ち上がり、身体を揺らす。
こんな異常事態は今までなかった。
危険……
俺の脳裏がそう判断する。
トゥルミナは入口側で身体を奇妙に振るわせている、
そうだベランダだ、俺はベランダに走り、内鍵を外す、だがサッシは動かせない。
ベランダに出られない。
ガラス越しに見えたフォスロウラはテラス窓を押さえていて、俺を見て笑っている。
なんだ、これは1体だけではない。地球上のパートノイドの一斉反乱か?
そんなの無理だ。
俺は生身だ、何ができるというのか。
近付いてきたトゥルミナに俺は防御するかのように伸ばした両腕を、
やわらかく躱されて、
俺とトゥルミナが抱き合う2人になった。その瞬間、
音響は幸せな交響曲に変わり、照明は白色に戻った。
「うふふ、いかがでしたかダーリン、最近実装された臨場体験コンテンツですよ。今のは映画会社のジャンル広告です。」
なんだ広告の一種か、それなら仕方ないな。
テラス窓は開けられて、ぐったりした俺の前でトゥルミナとフォスロウラはハイタッチを交わしている。




