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広告嫁  作者: 純銀
コモディタイゼーション
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10/16

テーブル

専業主婦を本業とする女性たちには、主婦友という社会ルールが存在する。町内や商店の話題をアナログに共有したり、慣れない家事を相談し合ったり、余り物があれば分け合ったり。大抵は井戸端会議への参加者の事だ。

ただしその主要メンバーは多くの場合、子供ができてからの母親たちが中心となり、出産や子育ての大変さを分かち合い、さらには町内を共同体として安定せしめる重要なインフラとなっている。大抵は子供を遊ばせる公園や買い物先のスーパーマーケットなどがその開催場所だ。

だが、新婚だったり新しく引っ越してきたり、事情や体質などによっては子供がいない主婦の場合もあり、そんな彼女たちはと言うと、家事だけでは時間を持て余す毎日となる。そんな日中単身の主婦たちは、井戸端会議場で、時として学生気分の延長のままのような、「主婦友」ではない「友だち」を得たりする事もある。


自分の家に友だちを呼んでくれている嫁がいるというのはとても微妙なものだ。

「ダーリン、お帰りなさいませ。お風呂になさいますか?」

「マイハニー、お待ちしておりました。お夕食になさいますか?」

フォスロウラが俺のカバンを持って、トゥルミナが俺の上着を脱がせてくれる。

お風呂と言っても浴室はボタン操作だし、食事と言っても特別な日でもなければ出来合いを温めるだけだ。つまり帰宅時のお迎えは単身生活慣れした俺1人で間に合ってるわけなので、2人も要らないだろう2人も。


俺が家を空けている時間、2人用のテーブルが有効に使われているのは良いとしよう。俺は疲れているけどスクリーンと向き合えるソファが空いているので問題ない。


「日中はひと通り家事とか済んだら、自分で電源をスリープにしてるんだよね? 2人とも休憩できてる?」

視線を交わすトゥルミナとフォスロウラ。その視線の角度は合図や共感というよりも対抗心に見える。


「ミナはダーリンが不在の間のこのお部屋を警備する役目も忘れてないのよ。特に、ベランダに不審者がいる状況ですから、電源をオフにしてる暇なんてありません。」

「不信者じゃないですわよG社の家政婦パートノイド様。ロウラはマイハニーからちゃんと居住権を頂きました居候でございます。」

「おあいにく、ベランダにです、O社の押しかけパートノイド様。早く回収業者に手続きをしましょうダーリン。U商会は24時間対応で即日回収に来てくれますわ。連絡しますか? あ、今ならRリサイクルがポイント倍増中ですって。」


「G社の家政婦パートノイド様、本当に会話に広告が入りますのね。マイハニー、雨天の時には屋内で過ごして良いとおっしゃってくださいましたことをロウラは忘れておりませんわ。」

「ああ、そういえば小雨が降っていたね。君たちは錆びる素材じゃないだろうけど水垢が着くだけでも面倒だから部屋に居て構わないよ。」


俺がさっきドアを開けた時には2人でテーブルに向かい合ってたじゃないか。いいんだよあれで。


「2人で空のティーカップを啜りながら、君たちは何を話すの? 無線で通信したり?」

今度は2人とも揃って両手を小さく振りながら否定する。

パートノイド同士でも意思疎通はアナログ方式のようだ。


ちょっとトゥルミナの管理情報をスクリーンで確かめてみよう。

「確かに、日中スリープだった頃と違ってずっと稼働してたみたいだ。話し相手ができて良かったね、トゥルミナ。」

「ダーリン、そんな。まあこのO社の居候パートノイド様もそんなに悪いところばかりじゃ……あ、え~と、」

「あら、また広告会話? G社製パートノイド様はお喋りがお忙しいのですね。」


「そうですのよ、ダーリン、O社製パートノイドは絶賛好評発売中。今ならウィッグ2つ目を人工頭皮付きで無料サービスキャンペーン中ですって、ご購入なさいませんか? ぎりりり。」

歯ぎしり音が混ざる広告というのはとても珍しい。

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