第67話「少し遠回りの帰り道」
夕方。
オレンジ色の光が、店の床に長く伸びていた。
ドアベルが鳴り、制服姿の高校生が入ってくる。
肩にかけたカバンは少し重そうで、足取りもゆっくりだった。
「いらっしゃいませ」
「……ホットココア、お願いします」
「かしこまりました」
席に座ると、彼は窓の外を見つめる。
帰宅する人の流れが、一定のリズムで動いている。
「帰り道なんですけど」
ぽつりと言う。
「はい」
「まっすぐ帰れば、
十五分くらいなんです」
ココアが運ばれてくる。
「でも、今日は……」
一口飲んで、少しだけ息をつく。
「遠回りしてきました」
「そうでしたか」
「理由は、よく分からないんですけど」
苦笑する。
「なんとなく、
すぐに帰りたくなくて」
カップを両手で包む。
「家が嫌なわけじゃないです」
「はい」
「学校も、別に普通で」
少しだけ言葉を探す。
「でも、なんか……」
視線が落ちる。
「今日の自分のまま、
帰りたくなかったんです」
静かな沈黙。
マスターは、ゆっくりと言った。
「少しだけ、
置いてきたかったのかもしれませんね」
「……置いてくる?」
「今日の出来事や、気持ちを」
ココアの湯気が、やわらかく揺れる。
「そのまま持ち帰ると、
少し重いと感じる日もあります」
少年は、小さく頷く。
「だから、遠回りを」
「はい」
「歩きながら、
少しずつ軽くしていく」
窓の外、空はゆっくりと色を変えていく。
「ここも、
その途中ですね」
少年は、少しだけ笑った。
「確かに」
もう一口飲む。
「さっきより、
ちょっと軽いです」
「それは、よかった」
カップの中身が減っていく。
「帰るときには、
ちゃんと帰れそうです」
「はい」
席を立ち、カバンを持つ。
来たときより、少しだけ軽く見える。
「また、遠回りしたくなったら来ます」
「お待ちしています」
ドアが開き、夕方の空気が流れ込む。
少年は、今度はまっすぐ歩き出した。
喫茶リセットでは、
少し遠回りの帰り道も、
大切な時間になる。




