残留、あるいは進歩
「さぁさぁ! 壊れた物があったらこちらへどうぞ〜!」
「ど、どうぞー……」
昼休み、トキちゃんに連れられて来てみたら……えっと、なぜか壊れた物を集めることになりました。
とは言っても、壊れた物を持ち歩いている人はそんなにいなく、始めてから数分、集まったのは3つ。
ボタンの取れたブレザー(ボタン有り)。穴の空いた靴(片方)。そして、腕の取れたぬいぐるみ(取れた腕は無い)。
「う〜ん、なかなか集まらないね」
「あ、あのさトキちゃん」
「ん? どしたのクッシン?」
「何でいきなり壊れた物を集めようと思ったの?」
「それはほら、昨日言ったじゃん」
昨日……
『あたし、あの2人を応援するよ!』
「だからね、壊れた物を集めて持って行って…」
「200個にして、別の街に?」
「え?」
私の言葉にトキちゃんは首を傾げた。
「だって、こうして集めたら鈴名さん達が行くのが早くなるんじゃ…」
「あぁー!」
「えぇ!?」
「そうだ! 集めたら早く行っちゃうんだ!」
え、えぇぇー……
「それが目的だったんじゃないの?」
「いやいや、あたしは能矢さんに人に興味を持ってもらおうと思ってるんだよ」
人に興味を持ってもらう?
『ボクはね、人間に興味は無いんだ』
能矢さんの言葉を思い出した。
そういえば、そんなことを言っていたけど……
「だってさ、能矢さんだって人でしょ? だから人に興味が無いなんてあり得ないだろうし……それに、あたしがそんなの許せないんだよ」
「トキちゃん……」
「……だからさ」
「だから?」
「……コレ、どうしよっか?」
トキちゃんは先ほど集めた壊れた物を指差した。
「集めてからそんな事言わないでよ……」
「だ、だって〜、コレが渡ったら能矢さんが行っちゃうよ〜」
「そんなこと言われても……あ」
ひょっとしたら……
「何か思い付いた?」
「……私たちで直す。っていうのは?」
「おぉー!」
放課後、私たちは壊れた物を直す材料を求めて商店街に来ていた。
「そういえばトキちゃん。今日部活は?」
「今日は休みだよ〜」
「へぇー」
第一目的は針と糸。それとぬいぐるみの腕の代わりになる布と綿だ。
直す、と言っても。全部縫ってしまうだけしか出来ないけれど、これで能矢さん達の仕事を減らせられ…
「キミ達」
後ろから声をかけられた。振り返って見ると、
「また会ったわね」
能矢さんと鈴名さんが立っていた。
「こ、こんにちは」
どうしよう、壊れた物を見られたらカウントされちゃう。
「ここ、こんなところで、き、きぐ、奇遇ですね〜」
トキちゃん……動揺し過ぎだよ。
「奇遇って、まだ200集まってないからね。今は探してるところよ」
良かった。私たちが持ってるのは分かってないみたい。
「で、能矢の奴がこっちから反応があった、って。それでここに来たんだけど……ちょっ、能矢」
「……」
能矢は私の持つ鞄を見ていた。中にはぬいぐるみが入っている。
「あ、あの……」
もしかして、バレてる? 壊れた物の反応って、能矢さんは壊れた物がどこにあるのか分かるのかな……
「キミ、鞄のここ、壊れてるよ」
「え?」
指差された場所を見ると、鞄の紐が少しほつれていた。
もう2年使ってるし、気にしなければコレくらい……
「ふむ……コレは……」
能矢さんがほつれを見る為に私に近づいた。
私の顔の真横に能矢さんの顔が……
「あ、あぁ、あの……」
か、顔が近いいい。
「どしたのクッシン? 顔赤いよ?」
「だ、だって……」
同い年の男の子が、こ、こんな近くにいたら……
「……なるほど。コレは少し難しそうだね」
見終わった能矢さんが離れ、ほっと一安心。
「その鞄貸して、直すから」
手を伸ばして私の鞄を渡すように催促される。
「え、い、いえ……コレは、大丈夫ですから……」
もし中身を見られたらカウントが増えてしまう。
「いいから貸す」
「あっ!」
伸ばされた手に鞄を取られてしまった。
「ちょっと能矢! 強引はやめなさいって何回言ったら…」
「……雀」
鞄を持った能矢さんが静かに鈴名さんを呼んだ。
「なによ? 能矢が聞かないから何回も言うはめになってるのよ?」
「そんな事じゃなくて、どうやら予想は当たったみたいだよ」
能矢さんが鞄のファスナーを開き、中から腕の取れたぬいぐるみを取り出した。
「コレは……もしかして、依頼かしら?」
鈴名さんが私を見る。
「え、えっと……」
「それは違いますよ!」
トキちゃんが横から叫んだ。
「そ、それはですね! そういうぬいぐるみなんですよ! クッシンの趣味なんですよ!」
え、えぇぇ!?
「片腕の無いぬいぐるみが趣味って……人は見た目によらないものね」
鈴名さん信じてる!?
「ち、違いますよ!」
「違うよ」
私と、能矢さんが否定した。
能矢さんはぬいぐるみの腕が取れて綿が出ている所に手を触れていた。
「コレは本当に壊れた物で、本当の持ち主は彼女じゃないよ」
「え? それってどういうことよ?」
「知らないよ。彼女が本当の持ち主に頼まれたとかじゃないの? とにかくコレと鞄を直すから、雀、針と糸と布と綿」
「はいはい」
鈴名さんは鞄の中から能矢の言った物を取り出して渡した。
「少しかかるから、キミ達は鈴名とおしゃべりでもしてるといいよ」
「こら能矢、自己紹介したんだからキミ達じゃなくて名前で呼びなさい」
「……」
返事をせず、能矢さんはぬいぐるみに針をさして直し始めた。
「はぁ……ああなったら聞く耳持たないのよね。仕方ないわ、アタシ達は言われたようにおしゃべりでもして待ちましょ」
……えーと。
髪を左側で適当そうにまとめた。妙に明るく元気、というか騒がしいのが。もりおか……鴇? 鴇って言ってたよね。
それと……えーと、特徴があまり見当たらない静かなのが、はやし……クッシン? だったっけ?
あ、鞄に名前書いてある。……なんだコレ? コレでクッシンって読むのか?
この漢字は……うん、鳩。鳩でいいや。
名前なんて、どうでもいい。
だって、ボクは人間に興味ないんだから。
人知れず、能矢は彼女たちの名前を覚えていた。普通にではないが、
それはいったい、何を意味するのだろうか?




