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第3話 コピー機と戦う日

今日も頑張る、派遣さん。


 午前中の仕事がひと段落して、フロアが少しだけ静かになった頃だった。


「あ、これコピーお願いできますか?」


 差し出された書類を受け取り、「はい、大丈夫です」と答えてコピー機の方へ向かう。


 コピーくらい、何度もやってきたはずなのに、機械の前に立った瞬間、ほんの少しだけ手が止まった。


 見慣れない画面。

 前の職場より、ボタンの数も多い気がする。


 どこを押せばいいのか、一瞬だけ迷う。


 なんとなく、それっぽいボタンを選んで押してみると、ウィーンと低い音がして機械が動き出した。


 よし、大丈夫そう。


 そう思った次の瞬間、ピッ、と短い音が鳴る。


 画面が切り替わって、見たことのない表示が出ていた。


 小さく息を止める。


 もう一度、別のボタンを押してみる。

 またピッ、と音がして、今度は違う表示に変わる。


 どれが正解なのか分からないまま、少しだけその場に立ち尽くす。


 ふと、後ろが気になる。


 誰も並んではいないけれど、見られているような気がする。


 コピー機の前で止まっている時間が、思っていたより長く感じられた。


 もう一度だけ試してみようとボタンを押すが、今度は何も起きない。


 さっきまでの音が嘘みたいに、急に静かになる。


 そっとフタに手をかけて、ゆっくりと開ける。


 中で、紙が途中で止まっていた。


 やっぱり、と思いながら小さく息を吐く。


 紙を引き抜こうとすると少しだけ引っかかり、ほんの少しだけ端が破れてしまった。


 見なかったことにしたくなるけれど、そういうわけにもいかない。


 紙を整えて、もう一度セットし直す。


 今度は少し慎重に、深呼吸をひとつしてからボタンを押す。


 ウィーン、と音がして、今度はスムーズに紙が流れていった。


 一枚、また一枚と出てくるのを見ながら、ようやく息を吐く。


 思っていたより、長く吐いていた。


 コピーをそろえて書類を持ち、軽く頭を下げる。

「ありがとうございました」と、相手はいつも通りに笑っていた。


 それに、少しだけ安心する。


 コピー機の方を振り返ると、さっきまでのことが嘘みたいに静かにそこに立っている。


 少しだけにらんでから、きっとまた使うんだろうな、と思う。


 コピー機の前を離れるとき、もう一度だけ振り返る。


 さっきまであんなに慌てていたのに、今は何事もなかったみたいに静かに立っている。


 少しだけ、悔しい。


 でも、ほんの少しだけ、ほっとしている。


 ――ちゃんと終わった。


 それだけで、十分な気がした。


 席へ戻りながら、小さく息をつく。


 ――次は、たぶん大丈夫。


 そう思いながら、胸の奥でそっとつぶやく。


 ――今日も、なんとか勝った気がする。

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