第27話 少しだけ違うと思った日
今日も頑張る、派遣さん。
次の日の朝。
オフィスは、いつもと変わらない空気だった。
キーボードの音と電話の声が重なり、同じように一日が始まっていく。
席に座ってパソコンを立ち上げ、ゆっくり明るくなる画面を見ながら、まだ少しだけ体がこの場所のリズムに戻りきっていないのを感じる。
同じように一日が始まる中で、ほんの少しだけ違うことに気づく。
昨日声をかけてきたアルバイトの子が、もう周りの人と普通に話していた。
「さらちゃん、これお願いね」
そんな声が聞こえ、指がほんの一瞬だけ止まる。
その呼び方が、少しだけはっきりと耳に残る。
何気ない声なのに、なぜか聞き流せない。
すぐに指を動かしながら、何も気にしていないふりをするけれど、その音だけが静かに残る。
画面を見たまま視線だけを少し横にずらすと、やり取りの距離が近いことが分かる。
名前で呼ばれて自然に返事をして、そのまま会話が続いていく。
迷いのない流れ。
その空気が、自分の周りとは少し違って見える。
同じ場所にいるのに、少しだけ外側にいるような感覚。
それを見て、ほんの少しだけ息が浅くなる。
――いいな、と思う。
その気持ちは大きくなる前に静かに引いていくけれど、どこかに小さく残る。
自分は相変わらず「派遣さん」と呼ばれる。
振り向けばそれが自分のことだと分かる、そんな呼ばれ方。
それが当たり前で、特に何か言われるわけでもない。
ここは自分の会社じゃないと、ちゃんと分かっている。
同じ場所にいても少しだけ立場が違うことも、分かっている。
それでも、さっきの呼び方が胸の奥に小さく引っかかっている。
画面に目を落としてキーボードに手を置くと、指はいつも通りに動き出す。
入力して、確認して、また入力する。
作業は問題なく進んでいくのに、内側だけが少し違う気がする。
――まあ、いいか。
そう思いながら、キーを打ち続ける。
今日も、ここで働く。
それは、変わらない。
ただ、ほんの少しだけ、
「さらちゃん」という呼び方が、まだ耳の奥に残っている。




