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第25話 複合機と戦った日

今日も頑張る、派遣さん。


 午後のフロアは、いつもより少しだけ慌ただしかった。


 会議の時間が近づいているせいか、


 あちこちで資料を準備する音が重なっている。


 キーボードの音も、紙をめくる音も、


 どこか少しだけ急いでいる。


 画面に向かいながら、


 完成した資料を最後にもう一度だけ見直す。


 誤字はない。


 数字も合っている。


 大丈夫。


 印刷ボタンを押して、立ち上がる。


 ――これで間に合う。


 そう思いながら、複合機へ向かう。


 でも、


 トレイには何も出ていない。


 ――あれ。


 足が少しだけ止まる。


 遅れているだけかもしれない。


 そう思って、少し待つ。


 隣の人の資料は、すぐに出てくる。


 別の人も、紙を取って戻っていく。


 機械はちゃんと動いている。


 でも、自分のだけ出てこない。


 胸の奥に、小さな違和感が残る。


 席に戻る。


 画面を確認する。


 印刷ボタンは押せている。


 エラーも出ていない。


 もう一度、印刷を押す。


 今度こそ、と思う。


 再び複合機へ向かう。


 それでも、


 出ていない。


 時計を見る。


 会議まで、あと三十分。


 まだ大丈夫、と頭では思う。


 でも、


 なぜか少しだけ落ち着かない。


 周りの人は、もう準備を終え始めている。


 自分だけ、同じところを行ったり来たりしている気がする。


 もう一度、席に戻る。


 画面を見つめる。


 どこか見落としている気がする。


 でも、何が違うのか分からない。


 小さく息を吐く。


 もう一度だけ、ゆっくり確認する。


 プリンターの名前。


 設定。


 よく分からないまま、


 とにかくもう一度ボタンを押す。


 急いで複合機へ向かう。


 でも、


 やっぱり、出ていない。


 さっきよりも、少しだけ焦る。


 時間が、さっきよりも短く感じる。


 どうしよう、と思ったそのとき、


 少し離れたところから声がする。


「誰か資料、印刷した?」


 思わず顔を上げる。


「こっちにいっぱい出てるよ」


 別の部署の人が、紙の束を持っている。


 一瞬、間があく。


 そのあとで、気づく。


 ――あ、私だ。


 胸の奥が、すっと軽くなる。


 同時に、少しだけ顔が熱くなる。


「すみません、それ私です」


 そう言いながら、小さく頭を下げる。


 急いで取りに行く。


 見ると、自分の資料がきれいに積み重なっている。


 ――プリンター。


 違うところに出てた。


「ありがとうございます」


 受け取りながら、もう一度お礼を言う。


 席に戻って、ゆっくり息を吐く。


 手の中の資料を見て、


 ようやく、ちゃんと間に合うと思える。


 さっきまでの焦りが、


 少しずつほどけていく。


 キーボードに手を置きながら、


 小さく思う。


 ――次は、最初にちゃんと確認しよう。


 それから、


 ほんの少しだけ笑ってしまう。


――複合機、毎回ちょっとした試練みたいだ。


そんなことを思いながら、

もう一度だけ手の中の資料を見て、


静かに、画面に視線を戻す。

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