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第23話 少しだけ任された日


今日も頑張る、派遣さん。


 午後のフロアは、いつも通りの音に包まれていた。


 キーボードの音と、電話の声。その中に、自分の打つ音も混ざっている。


 画面に向かいながら、いつもの作業を進めていると、


「ちょっといい?」


 声をかけられる。


 その一言に、指がほんの一瞬だけ止まる。


 顔を上げると、社員さんがこちらを見ていた。


「この間作ってもらった企画書、すごく分かりやすかったから」


 一瞬、何のことか考える。


 それから、ああ、と小さくうなずく。


 自分が作った資料のことだと気づいた瞬間、


 胸の奥が、ほんの少しだけ動く。


「またお願いしてもいい?」


 その言葉に、少しだけ息が深くなる。


「はい、大丈夫です」


 自然と、そう答えていた。


 資料を受け取りながら、


 さっきの言葉が、少し遅れて胸に届く。


 ――すごく分かりやすかった。


 その一言が、静かに残る。


 普段は、特に何も言われない。


 できて当たり前みたいに、流れていくことの方が多い。


 それでも、


 こうして言葉にしてもらえると、


 思っていたよりも、ちゃんと嬉しい。


 席に戻って、資料を広げる。


 任された仕事を前にすると、


 背筋が少しだけ伸びる気がする。


 ここ最近、


 「これお願いできる?」と声をかけられることが増えてきた。


 ほんの少しずつだけれど、


 前よりも確実に。


 前なら緊張していたその言葉も、


 今は少し違って聞こえる。


 嫌じゃない、と思う。


 むしろ、


 頼られているようで、少しだけ嬉しい。


 もちろん、


 断れないまま何でも引き受けてしまうのは、よくないと分かっている。


 それでも、


 「お願いしてもいい?」と言われると、


 つい「はい」と答えてしまう。


 そのたびに、


 自分の中に何かが少しずつ積み重なっていくような気がする。


 画面に向き直り、キーボードに手を置く。


 指が、いつもより少しだけ迷いなく動く。


 さっきの言葉が、まだどこかに残っている。


 ――なんとかやれているのかもしれない。


 そう思う。


 気づけば、


 ここにいる時間が、少しだけ自然になっている。


 お昼に座る、あの席も。


 なんとなく、自分の場所みたいに感じている。


 はっきりしたものじゃないけれど、


 確かに、ここにある気がする。


 ――まあ、いいか。


 心の中で、そっと思う。


 今日も、ここで働いている。


 ――少しずつ、居場所になってきている気がする。


 その感覚を、そっと確かめるように、もう一度胸の奥でなぞる。

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